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【2003年度 文部省科学研究費助成研究】

生活生産遺跡出土資料研究に基づく近世科学技術の比較研究の総合化
代表者・村上 隆 特定領域研究(1)継続
 本研究は、生活生産遺跡の発掘調査に伴って出土する考古資料を主な研究対象とし、近世の「モノづくり」技術の系譜を探ると共に、古代から現代に繋がる時間軸上で捉え直すことを目的としている。最新の機器分析を応用した材料科学的な手法を駆使する点が本研究の大きな特徴として挙げられる。調査対象は、金属を中心に、陶磁器、顔料まで視野に入れている。金属に対する本年度の調査・研究では、近世技術の先駆となる古代金工に用いられた材料の変遷を追う調査をおこなった。さらに、近世の鉱山技術に関わる一連の作業の再評価をおこない、特に銀精錬工程の最終段階の解明に大きな成果を挙げることができた。研究成果の一端は、国内学会をはじめ、「国際鉱山ヒストリー会議」などの国際会議においても発表をおこなった。さらに、シンポジウム『生産遺跡から探る「モノづくり」の歴史』を企画し、第一回「金山・銀山の技術」を開催した。陶磁器に関しては、前年度に引き続き、近世陶磁器の施釉技術とその発色メカニズムを探っている。顔料に関しては、赤色を呈する顔料としてのベンガラの発色のメカニズムの研究を通して、ベンガラ製作技術の検証を継続している。
 
カンボジアにおける日本人町と中世遺跡の研究
代表者・杉山 洋 特定領域研究(2)新規
 本年度から5カ年計画で当該研究が発足した。本研究は特定研究「中世考古学の総合的研究」のなかの1計画研究として、日本の中世期における周辺諸国との関係を、考古学的な視点から明らかにすることを大きな目的としている。具体的には現地文化財監督官庁がプノンペンの文化芸術省と、シエムリアップのアプサラ機構に2分されていることから、前者とは日本人町の研究を、後者とは中世窯業生産の研究を共同研究として行うことを目指している。本年度は、準備年として情報収集と両機関との調整をおこなった。来年度以降本格的な調査研究活動を開始する予定である。
 
推論機能を有する木簡など出土文字資料の文字自動認識システムの開発
代表者・渡邉晃宏  基盤研究(S)新規
 1961年の平城宮第一号木簡の発見以来、当研究所が40年間に培ってきた木簡など出土文字資料解読のノウハウを広く調査・研究者の方々と共有し、また私たち自身の解読の能率化を図ろうというのがこの研究の趣旨である。所外からも理系を中心に6名の先生方に研究分担者として協力を得ている。研究項目としては、a木簡の文字情報を簡易にデジタル化するシステムの開発、b木簡の「文字」の事典の作成、c木簡の釈読作業を支援するデータベース群の構築、d木簡釈読用のOCRの開発を四本の柱とする。初年度にあたる本年度は、文字画像切り出しソフトを開発し、木簡の文字画像の切り出しに着手した。また、木簡を解読した際に作成した見取図及びデータを記入したノート(記帳ノート)のカラーマイクロ撮影を実施した。これと併行して文字画像鮮明化のためのシステムの開発に着手し、また簡易な赤外線画像が得られる機器として注目されるデジタルカメラについて、実際の木簡の調査において有効性を確認し、その利用に一定の目途を得た。今後、上記の作業を継続するとともに、木簡釈読支援データベースの構築、文字自動認識システム(OCR)の開発を進めていく予定である。
 
東大寺所蔵聖教文書の調査研究
代表者・綾村 宏 基盤研究(A)(1)継続
 東大寺図書館収蔵庫所在の未整理聖教文書の調査研究である。内容的には近世の聖教、文書が大半であるが、古いものでは長治元年の美作国封戸結解状断簡や文安元年の美濃国大井庄石包名年貢切符、薬師寺八幡宮一切経の大般若経などが確認された。目録データは12函分の入力を終え、うち主要な聖教文書の撮影をおこなった。
 
東アジアにおける家畜の起源と伝播に関する動物考古学的研究−特に豚、馬、牛について
代表者・松井 章 基盤研究(A)(1)新規
 本年度は東アジアの共同研究体制をつくるため、ロシア、韓国、台湾、カンボジアの考古学者らと会合を持ち、ブタの起源について共同研究を遂行することで合意した。特に韓国では釜山大学が出版した金海会  里貝塚の発掘調査報告書に、動物遺存体の項目を執筆し、1世紀から5世紀にかけての韓国南部における動物利用、特に骨角器製作技術の一端を明らかにすることができた。
 
日中古代墳墓副葬品の比較研究
代表者・花谷 浩  基盤研究(A)(2)継続
 遼西地域の三燕時代の墳墓から出土した馬具・帯金具等の金銅製品について、製作技術の検討と蛍光X線分析をおこなった結果、古墳時代における金銅製品の製作技術が、これらと同一の系譜関係にある見通しが得られた。また、金製装身具の製作技術に、鉄地金銅張技法との関連をうかがわせる技術を確認した。
 
古代中国の石窟・墓室等塑像・壁画の材質・構造調査解析と保存修復に関する研究
代表者・肥塚隆保 基盤研究(A)(2)継続
 古代塑像・壁画の材料と製作技法や年代などに関する調査・研究、劣化とその因子の調査ならびに個々の塑像・壁画に適した保存修復技術の開発をおこなうものである。本年度は、日本国内において鳥取県国府町にある梶山古墳の壁画の分析と保存環境調査、中国共同研究者の招へい、長期暴露試験を継続している顔料の変退色調査をおこない、古代壁画の材質および保存修復に関する有意義な知見を得た。
 
GISを用いた古代都城の用排水系統に関する総合的研究
代表者・田辺征夫 基盤研究(A)(2)継続
 条坊データの整理と、基礎となる地形データの入力を中心に作業をおこなった。条坊データは、入力されたデータの確認をおこない、いくつかのフォーマットでGISソフトウェアへの導入を試行した。また、地形データの入力の能率化を図るため、ペンデバイスの導入と試行をおこなった。
 
富本銭と和同開珎の系譜をめぐる比較研究
代表者・松村恵司 基盤研究(B)(2)継続
 4カ年計画の3年目にあたる本年度は、初期貨幣関係文献目録を完成させ、それをもとに文献類の収集と閲覧を続行した。研究史の総括は、江戸時代の初期貨幣研究の流れを整理し、和同開珎を最古の貨幣とする通説の形成過程を明らかにした。また昨年実施した研究集会の記録集「古代の銀と銀銭をめぐる史的検討」を刊行した。
 
東アジア古代都城の苑地に関する基礎的研究
代表者・金子裕之 基盤研究(B)(2)継続
 大陸的苑地のもとは7世紀初頭の推古朝にあり、百済、新羅の影響を受けて平城宮苑地の源流となるが、苑地の要素について大陸や朝鮮半島の要素とともに古来の伝統的要素とを峻別する必要がある。8世紀、東院庭園に初現する「州浜」酷似遺構は5世紀前半代の奈良県巣山古墳別区の葺石にあるし、東院庭園の岬や入り江の景石に酷似した意匠は巣山古墳や同時代の湧泉遺跡である三重県城の越遺跡にみる。8世紀苑地の骨格は大陸にあり、細部要素に固有の伝統が息づく二重構造の可能性がある。
 
年輪自動計測システムの開発と木質古文化財への応用
代表者・光谷拓実 基盤研究(B)(2)継続
 システム開発の中心となる年輪認識プログラムの作成は、前年度の研究成果であるウェーブレットによる局所的な周波数情報の利用、ならびに層内密度プロファイルの利用を組合わせることによっておこなった。このシステムは、表面が平滑に研磨された試料や軟X線透過画像などのように、ノイズの少ない良好な年輪画像に対しては所期の目的を十分に果たし得ることが確認された。古文化財への計測システムの応用研究は、国宝唐招提寺金堂、国宝法隆寺五重塔、国宝宇治上神社本殿・拝殿、国宝平等院鳳凰堂、木彫仏などについておこない、建造物や木彫仏等の年代評価に大きな影響を与える成果を得た。
 このように、本研究で新たに導入した画像計測による年輪年代調査方法は、これまで年輪年代測定の対象とはなりえなかったような建造物や木彫仏などの現地調査も可能になったこと、計測の作業効率が向上したこと、パソコン・デジタルカメラ・スキャナなどの汎用機器でも年輪計測が可能になったことなど、年輪年代学の適用範囲の拡大と一般化に大きく結びつく研究となった。
 
古代官衙の造営技術に関する考古学的研究
代表者・山中敏史 基盤研究(B)(2)新規
 本年度は、掘立柱建物遺構と礎石建物遺構の基本的属性について検討し、基部構造、桁行・梁行の規模、平面構造、平面形式、柱筋、対向側柱位置、妻柱位置、柱掘りかた形状・規模、礎石形状・規模、基壇形状・規模、外周柱穴列(縁・足場穴等)の有無と形状・配置、雨落ち溝、階段など、基準となる項目(データ項目)約120項目を抽出・作成した。そして各項目ごとに、既往の研究成果を収集・整理し、暫定的な型式分類をおこなった。また、これらの属性項目について、データ相関図を作成し、旧来の遺跡データベース構造を見直し、新たなデータベース構造を作成した。本年度は、上記のデータベース項目にしたがって、主に関東以北の国府・郡衙・城柵遺跡・豪族居宅などの発掘調査成果を中心として建物遺構の資料収集をおこない、約2000レコードのデータベース化を進めた。その資料収集によって、東北城柵地域には特異な建築基部構造や平面構造を採用している建物例が少なくないことが判明している。東北城柵の櫓の造営技術に関する検討にも着手した。
 
文化財資料用携帯型マルチレーザーラマン分光分析装置の基礎的開発研究
代表者・高妻洋成 基盤研究(B)(2)新規
 レーザーラマン分光分析法を文化財資料の非破壊材質分析に適用できる技術を開発し、文化財のラマンスペクトルライブラリーを構築することを目的としている。本年度はこれまで実験室に運び込むことのできなかったもの、発掘直後あるいは発掘現場における遺物などに対しても迅速かつ精度の高い材質分析が可能となる携帯型装置を作製し、基礎データの蓄積と文化財資料のラマンスペクトルの測定をおこなった。
 
東アジアにおける古代庭園遺跡の調査研究
代表者・高瀬要一 基盤研究(B)(2)継続
 4か年計画の最終年度であり、これまでの研究をとりまとめるための国際シンポジウムを開催した。韓国から2名、中国から3名の研究者を招聘し、日本の研究者20余名を加えて二日間にわたり事例発表、研究討議をおこなった。それぞれの国の最新情報を共有し得たこと、地域や国毎の特色や差異を確認できたこと、その上で東アジア地域における庭園文化の伝播や系譜について意見交換できたこと、など大きな成果があった。
 
古代の非鉄金属生産の考古学的研究
代表者・小池伸彦 基盤研究(C)(2)継続
 2003年度は旧備前国、備中国、摂津国ならびに豊前国の産銅関連資料と丹波国の産錫地関連資料、備前国の産銀地関連資料を調査した。そのうち豊前国の精錬・採銅に関連して、福岡県田川郡香春町所在の清祀殿周辺および三ノ岳の踏査を実施、清祀殿隣接地において鉱滓ないし粘土熔融物の散布を確認した。企救郡に関しては、福岡県上清水遺跡出土墨書土器などの考古遺物と地名、伝承などをもとに『日本三代実録』との関連を総合的に検討した。また、坩堝製錬に関しては、和歌山県堅田遺跡例・京都府銭司遺跡例と飛鳥池遺跡出土遺物との比較検討を進めた。このほかに、銅の製錬・精錬・精製に関係する炉についての資料収集・分類をおこない、機能・工程について検討した。
 
遺構計測法の効率化ならびに体系化に関する研究
代表者:小澤 毅 基盤研究(C)(2)継続
 本研究は、近年の測量機器の発達と普及に鑑み、遺構計測法の効率化と体系化を図ろうとするものである。本年度は、現在までの各種計測法の得失を比較する一方、大峰山系でおこなった測量調査の成果をとりまとめて公刊した。また、各地の実態を把握するための資料調査をひきつづいて実施し、遺構計測マニュアルの作成をめざしている。
 
東アジアにおける武器・武具の比較研究−騎兵装備を中心に−
代表者・小林謙一  基盤研究(C)(2)継続
 馬甲・馬冑の出土例が皆無である高句麗については、古墳の石室に描かれた重装騎兵を資料とし、加耶地域の出土例と比較して検討を加えた。中国東北地方、韓半島、日本列島と地域によって重装騎兵の普及に違いがみられる要因としては、時期的な問題だけでなく、戦闘方法や防禦施設の違いが関係する可能性が考えられる。
 
墳墓副葬品から見た古代日韓の地域間交流と社会変化についての研究
代表者・高橋克壽 基盤研究(C)(2)継続
 本研究課題の達成のためには、朝鮮半島三国の各地域の併行関係を確定することが肝要である。そこで、新羅、加耶、百済の中心地域の土器の移り変わりを調べ、日本の副葬品や土器との関係で年代のわかる資料をキーにそれぞれ相対的な年代を付与し、三国の併行関係を確定することができた。この土器編年に基づいて、馬具や装飾大刀などの特殊な製品の展開を地域ごとに対比し、各地での生産や地域間の交流、配布行為などの有無を確かめた。その結果、馬具は4世紀後半以後よく似た鉄製鐙や鏡板が各地でしだいに普遍的に見られるようになるが、日本ではそれがやや遅れて始まること。その後の日本の金銅装馬具は従来、加耶をはじめ朝鮮半島製品との関係が説かれていたが、朝鮮半島とは技術や形態の伝統が異なり、両地域とも基本的に同一のモデルをもちながら6世紀にかけて独自に生産をおこなっている姿が浮き彫りになった。それらのモデルは基本的に中国にあったと考えられる。
 
古代日・韓出土ガラス及び鉛釉陶器の総括的研究
代表者・川越俊一 基盤研究(C)(2)継続
 本年度はガラス製品や施釉陶器などの出土資料について、収集・分析を行い、日・韓両国での共通点と相違点を整理した。その結果、古代日・韓では、共通点としてガラス生産関係遺物の形態的な類似性・硯については施釉率が低いこと・施釉瓦の使用状況に類似性が認められることなど。相違点としては、施釉陶器の器種の異なることなどを明らかにした。
 
データ交換のための遺跡情報構造標準化に関する基礎的研究
代表者・森本 晋 基盤研究(C)(2)継続
 遺跡そのものは情報化される以前の状態であり、遺跡から引き出されたばかりの情報は、遺跡に対する観点そのものが強く反映している。この段階の情報はいわば内部資料であったり、当事者の思考の内のものもあったりと、情報交換になじむものではない。1段階の整理を経て交換可能な情報とすることが可能である。今年度は、情報発生・記述・整理・報告書記載・データベース作成の各過程での情報構造を検討し、標準化がどこまで追及できるのかについて分析を進めた。
 
戦国期、織豊期、江戸前・中期における瓦生産の地域別比較研究
代表者・山崎信二 基盤研究(C)(2)継続
 中四国では、高知県・香川県・山口県・広島県・島根県下の織豊期の瓦調査をおこなう。例えば高知県下では天正三年から元和期までに泉州大鳥郡・四天王寺住人などのヘラ書き銘とともに堺環濠都市遺跡・四天王寺出土との同笵瓦を発見した。
 また分析中であるが、全国の近世瓦を8期に細分・編年し発表した(関西近世考古学研究11号)
 
古墳出現期における土器生産流通体制の研究
代表者・次山 淳 基盤研究(C)(2)新規
 本研究は、古墳出現期に吉備形、讃岐形、東阿波形、河内庄内形、大和庄内形などと呼ばれる特定の胎土と型式学的な特徴を備えた一群の土器について、その生産と流通に焦点をあてて、生産の消長、製作の中心、流通の範囲と規模(流通量)などを探ろうとするものである。また、こうした土器群を包摂する各地域の様式構造のありかたも在来の土器も含めて総括的に検討する。今年度は、研究の対象となる吉備南部、讃岐、阿波、および畿内地域の当該期土器に関わる文献、および資料の収集整理、また実地調査を実施した。特に畿内地域の古式土師器を扱った文献については、成果報告書『畿内古式土師器研究文献目録(稿)』に取りまとめた。
 
東アジアにおける弥生時代タタキ技法波及経路の研究
代表者・深澤芳樹 基盤研究(C))(2)新規
 アジア地域のタタキ技法の検討をとおして、日本列島における弥生土器のタタキ技法の波及経路を特定しようとする試みである。本年度は、日本列島内での土器の観察・研究者との意見交換、日本列島外では韓半島で土器の観察・研究者との意見交換、また中国地域の5世紀以前の文字資料を伴う年代資料を収集した。特に韓半島では、漢陽大学校博物館で古南里貝塚資料、韓国文化財保護財団で巣松里遺跡と竹清里遺跡資料、高麗大学校で寛倉里遺跡資料、公州大学校博物館烏石里遺跡資料を集中的に観察し、松菊里式土器にタタキ技法が確かに用いられていることを確認し、その技法の特徴を詳細に検討した。さらに大韓民国の多くの研究者と意見交換の場を持ち、検討成果を共有することができた。すなわちタタキ技法を工具、製作工程、身体技法の各面から検討し、韓半島の松菊里式土器のタタキ技法こそが、日本列島に波及して弥生土器のタタキ技法を生んだとの、結論に達するに至った。
 
古代中世文書の機能論的検討に基づく文書行政研究
代表者・吉川 聡   若手研究(B)継続
 本研究は古代から中世にかけて、文書の作成・伝達・保存のあり方とその時代的変化を検討することにより、文書行政、さらには国家・社会の一面をとらえることを目指している。本年度は主に古代・中世の現存文書の検討をおこなった。とくに、律令制文書主義の実態と、それが中世的文書主義にいかに移行するのかについて、理解を深めつつあるところである。
 
古代土器の形態模倣に関する時空間的検討
代表者・金田明大  若手研究(B)継続
 本年度は、西日本における律令期の出土土器資料の収集と、実見をおこなった。資料の収集は中国・四国地方を中心に出土資料を発掘報告書より抽出し、併せて一覧を作成した。
 資料の実見は、暗文をもつ土師器を中心に島根、広島、岡山、兵庫の各県の資料を観察し検討をおこなった。
 
弥生・古墳時代における鉄製武器の生産と流通に関する研究
代表者・豊島直博  若手研究(B)継続
 引き続き弥生時代の刀剣について検討し、鉄剣に関する研究成果を論文にまとめることができた。鉄刀と素環刀については、九州の出土例を中心に実測と写真撮影を広くおこなった。鉄刀は把の構造、素環刀は環の製作技法に注目することによって、それぞれ新たな分類と編年を行い、弥生時代と古墳時代を分ける大きな画期を見いだした。
 
東北地方非頁岩産地帯における石器石材の利用に関する研究
代表者・渡辺丈彦  若手研究(B)継続
 本研究は、東北地方頁岩産地帯に立地する旧石器時代遺跡と、頁岩を産出しない地域の遺跡(いずれも東山系石刃石器群)とを、選択行為を含めた石材の利用状況という観点から比較検討することを研究の目的とする。今年度は、山形県新庄盆地所在の4遺跡と、石川県辰口町所在の1遺跡の出土資料を測定・分析した。さらに、既に測定・分析を終えている東北地方日本海沿岸地域についてはその研究成果を論文としてまとめた。
 
中世宋様式の導入と伝播に関する研究〜北京律僧の活動を中心として〜
代表者・箱崎和久  若手研究(B)継続
 多くの入宋僧が禅寺に留学するなか、北京律僧は天台教学や律宗の寺院に身を寄せている。当時、天台教院では、蓮池中に建つ中央の弥陀殿周囲に16の小堂を配して修行をおこなう十六観堂が流行していた。俊 が創建した泉涌寺の伽藍は、当時盛んだった禅寺と十六観堂の気風を全面に取り入れたものと理解できる。
 
7世紀出土文字史料の研究〜書風と全国出土遺構に関する情報収集〜
代表者・市 大樹  若手研究(B)新規
 7世紀は日本律令国家が形成される重要な時期にあたる。近年、7世紀の木簡が相次いで出土しており、『日本書紀』『古事記』などの編纂史料ではわからなかった新たな知見が得られつつある。しかし7世紀木簡に書かれた文字は癖の強いものであり、釈読はたいへん困難を極める。そこで本研究では、全国の7世紀木簡に関する情報を広く収集したうえで、書風を中心に検討をおこなうこととした。本年度は、出土して間もない飛鳥・藤原地域の木簡(石神遺跡、藤原宮・京跡、酒船石遺跡など)を中心に整理をおこなった。その成果の一部については、木簡学会の場で口頭報告するとともに、発掘調査機関の概報・紀要や木簡研究などに執筆した。
 
中国古代青銅器の生産と流通に関する基礎的研究
代表者・今井晃樹  若手研究(B)新規
 本年度は海外に所蔵されているコレクション資料の調査をおこなった。9月にニューヨークメトロポリタンミュージアムとカナダのトロントにあるロイヤルオンタリオミュージアムにて調査を実施した。原寸大実測図の作成と全体・細部とをふくめた写真撮影をおこない、個々の資料の正確な形態と法量を比較できる資料を作成した。そのほか青銅器製作時に使用した土製の鋳型を調査し、その形態、施文方法、組み合わせ方、原材料、焼成方法など鋳造技法を検討した。また、これまで中国で公表されている古代青銅器の出土報告、収蔵品紹介などの文献を集成し、その目録を作成中である。
 
国分寺を中心とした8世紀の瓦生産・流通に関する基礎的研究
代表者・清野孝之  若手研究(B)新規
 東大寺・法華寺出土瓦、唐招提寺所用瓦とその同笵瓦、興福寺出土瓦の再検討を主におこなった。国分総寺である東大寺、国分総尼寺である法華寺は近年資料数が増加しており、これらを検討した。この成果の一部として、東大寺転害門・法華寺阿弥陀浄土院出土瓦磚の分析結果を公表した。
 唐招提寺金堂創建軒瓦は、平城京内の法華寺、西隆寺、西大寺、薬師寺などのほか、山城高麗寺、丹波国分寺に同笵瓦がある。これらをすべて調査し笵傷進行や製作技法を検討した結果、唐招提寺の瓦工が丹波へ移動したとする従来の見解に疑問をもつにいたった。この成果は今年度に口頭発表をおこなった。
 興福寺創建瓦は紀伊・淡路国分寺に影響を与えたことが知られており、これを検討した。検討過程で、古代の瓦生産・供給体制との比較研究のため、鎌倉時代の興福寺出土瓦についても検討し、いくつかの新たな知見を得た。その成果は既に投稿済みで、平成16年度に掲載される予定である。
 
東アジア圏における歴史的建造物保存・修復理論の比較研究
代表者・清水重敦  若手研究(B)新規
 初年度にあたる今年度は、韓国における歴史的建造物保存修復に調査研究対象を絞り込み、その基礎情報の収集を主課題とした。現地の修理工事視察、文化財庁における文化財保護関係資料収集とヒアリング、日韓都市・建築史ワークショップでの「東アジア木造建造物保存・修復史研究への視座」と題した報告を実施した。
 
古代官衙関係遺跡データベース
代表者・山中敏史 研究成果公開促進費新規
 本データベースの作成は、近年著しく増加している官衙遺跡や官衙と関連するとみられる遺跡、豪族居宅遺跡などの発掘資料のうち、主に建物遺構について、統一的な分類基準に従ってその基礎データを収集・整理・公開することによって、情報を共有化し、研究の深化を図り、また、各地での発掘調査の精度向上、遺構の性格の判断や発掘方法の決定における効率化、遺跡の保護活用に関わる文化財行政の推進に資することを主な目的としたものである。
 本年度は、主に関東以北の国府・郡衙・城柵・豪族居宅遺跡・官衙関連遺跡などの発掘調査成果を中心として建物遺構の資料収集をおこない、新たに3400件ほどのデータベース入力を進めた。これには遺跡所在地図・遺構全体図・官衙建物の個別の遺構図なども添付し、テキストデータと照合できるようにした。現在、データ入力の継続とデータの校正、画像データとリンクさせる作業を進めており、今後4年間の内には奈良文化財研究所ホームページなどで公開することを計画している。
 
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