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社説:年金の危機 制度改革を遅らせるな

 04年に行った年金改革の破綻(はたん)が現実のものとなった。経済情勢の悪化もあって、当初の計画が想定した通りにならず、すでに「100年安心」の制度とは言えない状況になっていることが、厚生労働省の試算で明らかになった。

 試算は2月に発表した財政再検証のデータを前提に、世代間格差や世帯類型別の給付水準などを明らかにした。その結果、04年当時の試算と比べて年金受給額の世代間格差は広がった。また「厚生年金の給付水準は現役世代の平均手取り月収の50%を維持する」という政府公約には無理があることが改めて確認された。

 試算は04年改革の行き詰まりを浮き彫りにした。来年70歳になる人の厚生年金額は生涯にかけた保険料の6・5倍だが、30歳未満だと2・3倍止まり。これでは若い人の年金離れを一方的に批判するのは酷だ。

 今、すぐに取り組むべきことは、試算で明らかになった年金財政の厳しい現実を直視した上で、議論が中断している年金制度の抜本改革の議論を再開することだ。時間が過ぎれば、年金財政は厳しさが増す。「100年安心」などと空論をもてあそび、改革論議を棚上げすることは、決して国民のためにならない。

 04年改革では少子化を想定して年金給付を自動的に抑制する「マクロ経済スライド方式」を導入し、年金額の伸びを07年度から17年間にわたって毎年0・9%減らしていくことにした。しかし、経済の悪化で同方式を発動することができず、その分だけ終了年度が延び、12年度から38年度まで27年間実施することになった。これによって長期間にわたって年金額が実質的に目減りし、世代間格差が広がることになった。

 マクロスライドは、右肩上がりで成長が続けば機能するが、経済の悪化が続くと機能しないのが弱点と指摘されてきた。それが早くも表面化した。

 年金制度の将来像が見えず、国民の信用を失えば、保険料を払う人は減り、社会保険方式による世代間の仕送り方式は崩れ去ってしまう。

 毎日新聞は昨年7月、04年改革によって年金の実質価値が目減りし、年金が生活保護水準以下になれば、年金制度への信頼が崩れ去ると指摘した。その上で、基礎(国民)年金を廃止して、新たに「所得比例年金と所得の低い人を対象とする最低保障年金」を組み合わせたフィンランド方式の導入を提案した。

 持続可能な制度を国民は必要としている。これまで何度も、年金を政争の具とすべきではないと指摘してきたが、党利党略を排して年金改革と向き合い、結論を出すべきだ。

 改革を遅らせれば制度は危うい。

毎日新聞 2009年5月28日 東京朝刊

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