拍子抜けした人は多いだろう。もちろん、麻生太郎首相と鳩山由紀夫民主党代表による27日の党首討論である。とりわけ注目されたのは新代表に就任した鳩山氏だ。しかし、「国民目線か、上から目線か」といったキャッチフレーズは踊ったものの論戦のポイントを絞りきれず散漫になったのは残念だ。
冒頭、北朝鮮の核実験に触れた後、鳩山氏が時間を費やしたのは、自ら掲げる「友愛」の説明だった。鳩山氏は「人の幸せを自分の幸せと思える社会を作りたい」などと言葉を重ねたが、麻生首相からは「問題は理念、抽象論ではなく現実論だ」と切り返されるだけだった。
そこで地域のボランティアが協力して小学校の授業を進めるコミュニティースクールの事例を紹介したものの、今度は説明不足だった。
結局、多くのテーマを詰め込もうとして、いずれも消化不良に終わった印象がある。鳩山氏が麻生政権を「官主導」と批判するなら、鳩山氏自ら「アニメの殿堂」と皮肉った「国立メディア芸術総合センター」建設など、討論の後半で触れた約14兆円の09年度補正予算案の具体的な中身や官僚の天下りの実態に、まず的を絞って切り込むべきだった。
対する麻生首相は、これが最大の攻め口と考えたのだろう。再三、言及したのは小沢一郎・民主党代表代行の政治資金問題だった。
民主党が企業・団体による献金とパーティー券購入を3年後に廃止する法案を今国会に提出する方針を決めた点に対しても、首相は賛否は明確にせず、小沢氏の公設第1秘書が逮捕・起訴された点を指摘。「今の法律も守られていないのが問題。献金廃止は論理のすり替えだ」と反論し、小沢氏が説明責任を果たしていないとも強調した。
鳩山氏も自民党議員に捜査が及んでいない点など捜査当局批判を口にしたが、首相が小沢氏の問題を取り上げるのは承知していたはずだ。この問題にどう対応するか、党としてきちんと整理されていない姿も露呈することとなった。
次期衆院選が近づく中、党首討論は、自民、民主のどちらが政権を担当すべきか、麻生首相と鳩山氏のどちらが首相にふさわしいか、有権者の判断材料となる。党首同士の議論を通じ、衆院選の争点も明確になるはずだ。麻生首相がこの日語った通り、安全保障や社会保障のあり方など、この国の将来について骨太の議論も聞きたいところだ。鳩山氏の次回の討論に期待することとしたい。
この際、衆院解散・総選挙まで党首討論は毎週開いたらどうか。時間不足で消化不良になるというのなら時間を延長してもかまわない。
毎日新聞 2009年5月28日 東京朝刊