弁護士と委任状
2004.1.14
弁護士は依頼者の「代理人」として訴訟活動を行い、あるいは交渉業務を行います。代理人となる以上、当然に委任されていることの証である「委任状」を依頼者からもらわなければなりません。そこで、弁護士が依頼を受ける場合にもらう委任状というものがどういうものなのかを簡単に説明します。
今回の事案 | ||
彦一弁護士に相談に来ていた中島さん、今回は取引先に貸したお金の回収を依頼しています。一通りの事案の説明を終えて彦一弁護士が代理人になることとなりました。そこで彦一弁護士は中島さんから委任状を書いてもらうことになりました。 | ||
その1 弁護士との契約 | |
依頼者が弁護士に案件の処理を依頼する場合の契約は「委任契約」となります。委任契約というのは、当事者の一方(委任者)が他方(受任者)に対して事務の処理を委託し、他方がこれを承諾することによって成立する諾成・不要式の契約のことをいうとされています。一定の労務を供給することを内容としている契約ですが、雇用契約(会社と従業員の関係)や請負契約(注文主と大工さんの関係)と比べると、受任者が自らの裁量で事務を処理できるため、会社の一定の指揮に服しなければら内雇用契約と異なりますし、注文を受けたからには最後まで仕事を完成させなければならない雇用契約とは違って、必ずしも結果を出さなくてもよいとされています。 |
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その2 委任状は受任の証し | |
別に委任状という書類をもらわなくても、弁護士は依頼者から案件を受任してその処理を行うことができます。しかし、弁護士は依頼者の代わりとなって有るときは裁判所に出て、あるときは銀行に行ったり、あるときは債務者へ取り立てにでたりします。法律事務については弁護士はあらゆるものを代理できるのであり、それだけ第三者に与える影響は大きいものです。また、最近は弁護士の倫理規定も厳しくなっており、委任を受けるに際して委任契約署の締結や弁護士費用の見積書を提出するなどが求められています。委任状をきちんと貰うことも当然に必要になってくるのです。 一般に弁護士が受任すると、何らかの形で相手方(債権者であったり債務者であったり)に受任通知を出すなどして、自分が依頼者の代理人になったことを連絡します。そして「今後は依頼者に対して直接会う、電話をするその他の行為をしないように」「何か有る場合には必ず代理人となった弁護士を通すように」という断りをします。こうしないと、依頼者が勝手に債務の返済の交渉してみたり、あるいは債務の免除をしたりされると、何のために弁護士が受任したのかが判らなくなるからなのですが、逆に言うと、相手方からすると今後は弁護士だけを相手にしなければならないため非常に不安を抱きます。 「本当にこの弁護士に依頼しているのか?」 そこで、相手方なりから求められたときに、きちんと受任していることを証明するために委任状を依頼者からもらっておくのです。 また、裁判所に対する関係(司法書士の登記所に関する関係も同じですが)では、必ず書面で受任の事実を証明しなければならないために、委任状を裁判所に提出しない限りは弁護士も代理人として扱われないのです。 彦一弁護士から「じゃあ、この委任状に署名して判子を押してください」と言われた中島さん「今日は実印とかもってきてませんし、印鑑証明も持ってきてないのですけど」と心配そうです。彦一弁護士は「いや、別に三文判で結構ですから」と答えています。 例えば不動産を売買する場合に不動産業者に渡す委任状や、株主総会決議の委任状の場合には、実印を押したり予め登録してある印鑑を使わないと有効な委任状とされない場合があります。また、弁護士以外の人が代理人になる場合には本人の実印と印鑑証明があることを求められたりします。前者の場合は、登記の関係で印鑑証明付きの実印委任状が必要になるとか、予め届けられていない印鑑であると本人の委任があったかどうかの保証がないという理由によります。後者の場合は、いわゆる事件屋の類が勝手に本人の委任があると嘘を付いてしまうのを予防するためです。 しかし、弁護士の場合にはなぜか実印であるとか印鑑証明であるとかを求められないのが今の実例です。 これは、弁護士である以上不正な手段で代理人になることはないとか、弁護士としての社会的責務(遵法義務)から代理権を偽る危険はないから、という理由であるとされています。このような考えを弁護士の特権意識に基づくものであるとか、弁護士のおごりである、という批判をする人もいますが、少なくとも弁護士は違法な行為をすることはない、依頼者の利益を害することはしないはずだ、という高度の倫理観を背景にしてまかり通っているものです。勝手に「中島」の判子を押した委任状を作って、中島さんの代理人だと称して中島さんの財産を処分したりするという危険は、弁護士の場合にはない、という社会的信頼があるからだというのです。 もっとも、最近でなくても極々少数の極めて稀な話ですが、弁護士が勝手に委任状を偽造して裁判をしたとか相手方との交渉をしたという例も皆無ではありません。しかし、当然にこのようなことをすれば弁護士は資格剥奪(退会命令・除名処分)ですし、弁護士バッチがなければタダの人以下の弁護士がそこまでの危険を冒すようなことはほとんどないといえるでしょう。 |
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その3 委任状の種類 | |
委任状といっても、いろいろな書式があります。委任状が受任したことの証明である以上はどのような書式であろうと関係ないのですが、何を受任しているのかによって定型書式というものがあります。弁護士が使う委任状としては2種類あり、いわゆる「委任状」と裁判所に提出する「訴訟委任状」となっています。 銀行交渉をしたり、債務返済交渉をしたり、売買契約の締結などをする場合には通常の委任状を使います。これに対して裁判や調停などをする場合に裁判所に提出する委任状は訴訟委任状という特定の書式を使います。裁判事項の場合には、何についての代理権があるのかを明らかにする必要があると共に、例えば和解などは特別受任事項といって、依頼者から和解のために別個の受任を受けなければならないとされているからです。しかし、実際には訴訟をすれば和解をすることも当然に考えられますので予め和解などについても受任しておいて、それらすべてを訴訟委任状の中に記載しておくのです。こうしておかないと、和解の段階で改めて委任状を出さなければならいという不都合を生ずるからです(勿論、和解の内容についてはその都度依頼者と相談をするので、委任状は裁判所との関係で主に問題となるものです)。 |
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その4 最後に | |
今回は弁護士に切っても切れない必須品である委任状について簡単に見てみました。 弁護士バッチが身分の証であるとすると、委任状は適式に受任している証です。 委任状をもらうことが弁護士が活動を始めるまず最初の仕事といえます。 |
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