ところが、中国の強制認証制度は、海外の適合性評価機関の参加を認めておらず、相互認証はできない仕組みとなっている。このため中国向け製品輸出関連企業にとって、認証取得手続きにはサンプルの提出や認証試験など長ければ7カ月も掛かってしまい、その労力も膨大なものとなる。その上、認証を取得するためには最高の産業情報であるソースコードを含む設計情報を開示しなければならなくなるかもしれない。
当然のことながら、日本だけでなく欧米各国がこぞって反発、米国などからは報復措置も取り沙汰された。今年4月末に行われた日中首脳会談でもこの問題は取り上げられるなど政治問題化した結果、当初、制度の導入開始予定だった5月1日の直前になって、中国政府は対象範囲を全商品から政府調達分に絞り込み、適用開始も事実上、1年間先送りする修正を行ったのである。
諜報ネットワーク・エシュロンを警戒
諸外国の激しい反発を受けながらも、中国がこうした制度を敢えて導入しようとする背景には、米中の激しい諜報合戦・情報戦が存在している。
2002年1月19日付の英経済紙フィナンシャル・タイムズは中国政府当局者からの話として、米ボーイングから購入した江沢民国家主席の専用旅客機から、極めて精巧な盗聴装置が20個以上発見されたと報じた。
さらに、中国が強く意識しているのは、米・英・加・豪・ニュージーランドの諜報機関が運営するエシュロン(ECHELOM)だ。
米国国家安全保障局(NSA)が主導するエシュロンは、世界中の政府・企業の膨大な量の通信を傍受しており、人口知能(AI)技術を駆使して情報検索することで重要情報を発見しているという。米国企業に競合情報をリークすることで、ビジネスで優位に立てるように支援した例も指摘されている。
このほか、ITの世界では、米国政府が自国のソフトウエア製品やサービスにバックドアを仕込ませているという話はまことしやかに語られている。筆者も中国の政府関係者からそれに類した話は何度か聴かされている。いわゆるバックドアとは、コンピューター内に秘密裏に設けられた通信接続の機能である。これは設計・開発段階で組み込まれるものや、セキュリティーホールを通じて送り込まれたソフトウエアである。
中国人民日報の報道によると、中国政府は、マイクロソフトのウィンドウズOSのソースコードを研究する研究所(Source Code Browsing Lab)を北京に開設したという。
マイクロソフトは、既に中国政府との間で、OSのソースコードの閲覧に同意しており、ソースコードを調査してセキュリティー上の抜け穴がないかどうかを調べ、ハッカーによる攻撃を防ぐことが開設の目的であるとしている。しかし、そこにはハッカー対策よりもむしろ米国製品に対する上述の不信感が根深く存在していることが読み取れるのである。
中国側の攻勢については、前回のコラム(「サイバー諜報活動を警戒せよ」2009年4月30日公開)でも指摘したが、米国との力の差はまだまだ大きい。しかし、21世紀の世界覇権ゲームでは、米国と中国が2大プレーヤーであることは誰も異論の無いところだろう。その結果、中国政府内の焦りがこれまで国際政治の舞台裏でしのぎを削っていた諜報戦を今回表舞台へ引きずり出してしまったのではなかろうか。
舞台裏のやり取りは、表舞台に出すのは見苦しく、他のプレーヤーにも迷惑至極である。早期に正常軌道に戻ることを望みたい。
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