江戸の町を震撼させた不可解な殺人事件に着想を得たという、近松門左衛門の人形浄瑠璃『女殺油地獄』。男が女を殺すというシンプルなこの物語をベースに敷き、現代にも通じるリアルなドラマとして再起動。衝動殺人や無差別大量殺人、猟奇殺人などのニュースが、まるでエンタテインメントのように報道される現代に対して、今だからこそできる、今しかできない、意義ある現代劇を作りたい思いを発端に企画、そして実現に至った本作。“なぜ男は、女を殺さなくては、ならなかったのか”。男を殺人へと突き動かしたものの正体を、気鋭劇作家・倉持
裕の筆がえぐり出す! その独特な存在感と、歌、踊り、芝居の3拍子が揃う稀有な若手実力者、森山未來。舞台においてはミュージカル畑で育ってきた彼が、この度初のストレートプレイに主役で挑戦する。作品は名作古典『女殺油地獄』をベースに、日本演劇界気鋭の劇作家・倉持 裕が生み出す“新作”。倉持×森山でどれほど刺激的な化学反応が起きるのか……!? 森山に意気込みを聞いた。
ストーリーは単純明快。露骨にダメ〜な男を、露骨にダメ〜に演じます
●主演作としては、初のストレートプレイですが、オファーを引き受けた意気込みとは?
最初は悩みました、やろうかやるまいか。倉持さんの作・演出で、『女殺〜』がベースで……、と聞くとものすごく興味が湧いたけど、ストレートプレイという未知の世界に、自分はどう立てるのかと、挑戦したい反面、不安もあって決めあぐねた一瞬がありました。でも、倉持さんのプロットはとても興味深かった。やる前から、きっとモヤモヤするんだろうな、すごく大変なんだろうなと思って(笑)。でも、そこに一度関わるのもいいかも知れない、と思って決めました。
●“モヤモヤ”にあえて飛び込むんですね。
ですね(笑)。最近思うんですけど、世の中、きれいなものばかりじゃないじゃないですか。例えばミュージシャンは、自分のダメな思いや汚い部分をそのまま歌詞や音にして、CDを作ったら売れたりする。その覚悟というのはなんかすごいなって思うんです。そういえば俺にはその感覚がなかったなって……。作品や役柄に自分自身を移し替えている瞬間ばかりだから。もちろん、表現が異なるだけで違いはないかも知れないけれど、でも、そんなふうに考える瞬間があったんですね。その意味では、いろんな矛盾を抱えて生活している、露骨にダメ〜な人を、露骨にダメ〜に演じることになりそうだから、それも面白いだろうと思っているんです。
●倉持さんのプロットに感じた興味とは?
“役割”という言葉を選んでおられるんですが、それは周囲との関係性やシチュエーション、そこから生まれる自分の立場みたいな意味。父がいて、母がいて、親父は町工場の社長で、継ぐのは兄貴で、妹はいずれ結婚していく。じゃあ、自分には一体何ができるのかといったら、グレることだった、という……。シニカルなんですよ。ストーリーそのものは単純明快なだけに、切り取られ出てくる言葉が面白い。こういうことを頭で考え始めると止まらなくなっちゃうんですけど、でも、そうなってもいい作品だと思うんです。
言葉や声と向き合う、大きな経験になるかも知れない
●今までとは違うアプローチになりそうですね。
ミュージカルでは、音楽に乗って自然と身体を動かす表現をずっとやってきたけど、この作品にはもっと別の解釈で生まれるものがあると思っています。それは、言葉だったり、声だったり。歌も、身体も、言葉も、“表現”ということではどれも一緒なんだろうけど、今までの自分は、どこかで言葉や声に向き合い切れてこなかったと思うんです。1番苦手かも知れない言葉や声に、いかに向き合うか――。大きな経験をする作品になりそうです。
インタビュー・文●丸古玲子 「こういうの僕、好きなんですけどね」
作品を“世界”と呼び、演じることを“立つ”と表現する森山さん。“世界に立つ”とはまさに、役になりきって作品を生きること。“ダメ〜な男をダメ〜に”演じる今回の彼の姿は貴重なものになりそうだ。本作の原型は人形浄瑠璃の戯曲とあって難しいかと思いきや、「いたって単純明快」と森山さん。“なぜ男は、女を殺さなくては、ならなかったのか”、古臭いどころか、現代にも通じる謎かけにはドキリとさせられるじゃないですか! 「新しいものも大事だけど、古典と呼ばれるもの、この作品も100年以上昔からあるわけで、ずっと残り続けているにはやっぱり、ものすごい強さや重さ、普遍性が絶対あると思うんです。そういうの、僕は好きなんですけどね」。お読みの皆さんはどうでしょうか?答えは劇場にあるかも!? 森山未來:モリヤマミライ '84年兵庫県生まれ。幼い頃よりジャズダンス、タップダンス、クラシックバレエなどあらゆるダンスを習得。'99年宮本亜門演出『ボーイズ・タイム』でデビュー。以来、舞台はミュージカルを中心に、また映画やドラマなど映像の世界でも幅広く活躍。映画初出演『世界の中心で、愛をさけぶ』で第47回ブルーリボン賞新人賞、第28回日本アカデミー賞優秀助演男優賞、新人俳優賞受賞。今年は映画『20世紀少年〜第2章〜最後の希望』『フィッシュストーリー』が公開。舞台は『メカロックオペラ R2C2』に続く出演となる。7月からは主演ドラマ「リミット 刑事の現場2」(NHK総合)がOA予定。
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