噂が噂を呼んでいた「Hard to the core 日本語ラップ黄金期セレクションズ」が、いよいよCD/3LPで発表されることに ! “Over the border”を初めとするクラシックから、“口からでまかせ”“暴言”といった伝説的なマイク・リレーまで、日本語ラップ史上のマイルストーンを余さず収録した問題作です。今回のアナログ盤の独占流通を手掛けたDMRでは、本作品のコンパイラーにして言わずと知れた「ILL伝道者」、DJ Bobo James a.k.a. D.L.へのスペシャル・ロング・インタヴューを敢行。最重要人物によるこの証言、刮目して読んでいただければ。 |
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Dance Music Record(以下、DMR):いよいよ前代未聞の日本語ラップ・コンピレーションが世に出るわけですが、まずはこのようなビッグ・プロジェクトを立ち上げたきっかけからお聞きしてもいいでしょうか。
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Dev Large (以下、D.L.):理由としては2つあって……以前Buddha Brand(以下、Buddha)の楽曲を収録したコンピが出ることになって、つまらない曲と俺たちの曲が混ざっちゃうような凄く不本意なもので。言葉に出来ない、嫌な思いをしました。そこで考えて、じゃあ俺が本当に聴いてもらいたい、未来に残したい選曲で、俺なりのコンピレーションを出そうと思いました。これが1つ目ですね。2つ目は、今現在すでに日本語ラップは星の数ほどの曲が出ていて、もうそれこそ何が良くて何が悪いのか、選ぶのも大変なぐらいじゃないですか。そこで、まず基準となる(リスナーにとって)選ぶ「枠」になり得るものを出してみたいなと思ったんですよ。
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DMR:確かに、シーンのガイドになるようなコンピっていうとなかなかないんですよね。
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D.L.:忘れ去られてしまったもの、廃盤になってしまったもの、B面クラシックになってるものとか、色んな曲があると思うんです。そういう普段あまり陽の当たらないものなんかも混ぜつつ、なるべく誰が聞いても良いなって思える曲をコンパイルしてみました。付け加えて言うと、このコンピレーション・シリーズはvol.1、2、3まで出る予定です。この1枚目は「Hard to the core」ってことで、まさにコアな曲を中心に集めたつもりです。コマーシャルDJがかけようとすれば、足がすくむような一枚です。
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DMR:頭から重大ニュースですね…… ! (※Vol.2 「Mellow madness」は2009年7月後半発売予定)
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D.L.:当初ミックスCDって選択もあったんですが、ものによっては激レアな音源もあり、作った作曲家に対しての敬意と配慮なども考えて、一曲単位でまるまる聴けるノンミックスを選んだんです。よく知ってる曲ばっかりが入った、DJの名前が何十回も聞こえてくるようなCDなら、ミックスCDでも良かったんですが、そういったものとは最も遠い、神々しいものなのでそうはできませんでした。あと買った人がiPodに入れたりDJ時にSclatch Liveに組み込んだりして、自分なりの日本語ラップ・ミックスを作れるような素材になるように提供したいと思って。俺がミックスしてしまうとその形でしか聴けないんで。何かクリエイティヴなことをその次にやるための、一つのツールとして成立するものを落としたかった。完結したカップ・ラーメンみたいな簡単なモノは、世の中にゴマンと出てるじゃないですか。今後は“Do it yourself”というか、聴いた側の人間がどう調理するかっていうのを楽しんでもらいたいなっていうのが俺の狙いです。(言わば)使えるCD、アナログ。
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DMR:ある意味、誰かの音楽から触発を受けて自分もアクションを起こすっていうのがヒップホップの醍醐味ですからね。
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D.L.:うん、俺もそう思う。やっぱりそういう初期衝動って凄く大切だなって。あと、俺も作る側だから、どういう気持ちで1曲1曲をネタ選びの段階から作り上げていったのかっていう絵が見えるから……作り手としては、頭からつま先まで、最初から最後まで全部通して聴いて欲しいのが分かる。だから全体を聴かせることにはこだわってるんです。
D.L.:もう一つ選曲のポイントでこだわったのは……俺はどんな曲でもだいたい「音」でまず聴いていて。ラップにしても、当然リリックも聴くけど、まずはヴォーカルの素材として、楽器としてどう響いているか聴くんです。今回も「音」として感じたか感じなかったかというところが肝ですね。
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DMR:というわけで、もちろん今回の収録曲にはそれぞれ非常に深い思い入れがあると思うんですが、ここでいくつかをピック・アップして当時のエピソードなんかを語ってもらえればと。
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You The Rock & DJ Ben / Over the border (1993年) [listen]
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D.L.:このコンピを作ろうと思ったキッカケの曲です。1993年って早い時期に「JAZZのあの曲」を使ってたっていうのに驚かされた。それだけじゃなく、EPMDとか、「Wild Style」サントラからの声ネタ、ちょっとアース(Earth, Wind & Fire)、Kool & The Gangのドラム……。当時俺も(1988〜98年頃はみんなそんな作り方だった)ちょうどそういった作り方で、異なる複数のサンプルをごちゃ混ぜにして作る手法を取っていました。だからDJ Benがいかに良いネタを選び抜く確かな耳を持った作り手なのかってのが分かりました。
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DMR:当時、このループされているフレーズから「あの曲」を知ったリスナーも多いんじゃないかと思います。
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D.L.:そう。当時色々日本のラップというのは出てたけど、まったくレベルの違う曲を作ってたんだなっていうのを再発見したんですよ。今のトラック・メイカーには「16年前にこれ使ってたんだ ! 」っていう 驚きも持って欲しいし、この時代のエッセンス、DNAみたいなものを受け継いで、こういう楽曲を作れる世の中であって欲しいなと思って。
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Kaminari-Kazoku / Soul brother (2005年) [listen]
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D.L.:これも大好きな楽曲。皆が皆いい仕事してるんだけど、Rinoが一番凄いですね。遅れて来て全部持ってっちゃうスタイルで。(プロデューサーとして)思ってた以上のことをバッチリやってくれた。今までの雷になかったけど、かつ普遍的な良さがあるっていう曲。歌のサビが素晴らしく、Rinoが新たな才能を開花した曲。
D.L.:やっぱり、Rinoは狙わなくても自分をどう表現したらいいか本能的に分かってる、数少ない別次元タイプだと思うんだよな。あの「さんぴんCamp」での口笛も、思いつきで吹いただけなのに、練りに練った演出のようにカッコよく決めてしまった。昔Buddhaが日本に帰ってきた時に、Caveで最初にRinoを見て物凄く日本でやってくことに闘志が湧いた。
当時はBuddhaも自主でアナログを出した頃で、絶対売れると確信してはいたけど、やっぱりライヴァルがいないと困ると考えていて、それが「いた ! 」って感じでショックだった。
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Lunch Time Speax / Ground zero (1998年) [listen]
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D.L.:これも(“Soul brother”と同様)「お前もこの気持ちよさにやられちゃうだろ? 」っていう音。ランチがまた、「何でもアリ」の時代と逆行するような、一本筋の通ったことを歌ってるんです。当時、地下の小さなスタジオでエンジニアのD.O.I君たちと一緒に、凄い苦労をしながら録ったことなんかを走馬灯のように思い出す曲ですね。
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DJ Beat feat. Soul Scream / Free way (1995年) [listen]
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D.L.:アルバム・ヴァージョンも良いけど、このBeatさんのヴァージョンの方が凄く好きで。Large Professorよりも先にこのネタを使ってるんだよね。俺もいつか使いたいなと思ってたネタだったんで……そういうことってよくあるんですよ。みんなやっぱり作り手としては「最初」でありたいんです。特にE.G.G. Manのラップがハンパない。例えるなら熱い青い炎。
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Microphone Pager / Rapperz are danger (1995年) [listen]
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D.L.:俺はこの曲がペイジャーで一番好きで……このゲットーなフィーリングの音がたまらない。ブラック・シネマのサンプリングなんですけどね、素晴らしすぎる。リリックも当然いいし、間違いないよね。Benちゃんによると、このトラックのプロダクションや世界観にはDJ Goが貢献している部分が凄く大きいらしい。確かにペイジャーのGoちゃんが作った曲は一曲も駄作がない。復活を望む。
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Kan, Primal, 02, 太華, Shingo☆西成, Mega-G, メシアTheフライ, Satussy, Erone, Hidaddy, 志人 / 暴言 (2006年) [listen]
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D.L.:96年の“証言”から10年後にこの曲が出たこともあって、この“暴言meets証言”っていうのをやってみたかったんだよね(最初にこのコンピを考えたのは2006年)。このラッパーたちのアカペラを“証言”のビートに乗せたらどうなるのか……。この曲はもともとCDにはしない曲だったから(※2006年、Libra Recordのコンピレーション「天秤録音」発売の際、購入者へのプレゼントとして、100枚限定の12インチが配布された)、聴けなかった人も相当いると思う。俺もやってみたいんだけど、ビートが統一されたので、19人マイク・リレーとか、Rinoから漢からZEEBRAからメシア……とか現場で面白いかけ方が出来そうですね。
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DMR:ハードなリリックですが、「証言」が持っていたインパクトを受け継いだ歴史的な楽曲と言っていいと思います。それが装いも新たになって、色んな人のもとに届くというのは凄い意義を持っていますよね。
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D.L.:これが実現できたのはLibraの太っ腹スタイルですね。やっぱり追い風なレーベルだけあって、リアル・ヒップホップなんですよ、インディーズはガチガチな縛りがどこぞのメジャーみたくなくて……他のレーベルだったらこんなこと絶対やらせてくれないから。

D.L.:で、こうやって曲名を見ていくだけで頭に音が流れるんだけど、みんな良いサンプル使ってるんですよ ! 裏方にいるプロデューサーがそれぞれいい耳を持ってたっていうか。そういう人たちが集結している素晴らしいコンピレーションなんだっていうのを感じてほしい。特にサンプリングでトラック・メイキングをやっていきたい人にとっては、一つの指針になるんじゃないかな。
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DMR:その通りですね。またCD/アナログでリリースということで、DJにとってもクラブ・プレイできる幅が拡がりますよね。
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D.L.:そう、アナログっていうのが今回DMRに関わってもらった最大のポイントだと思う。この時代に3枚組でアナログ化できるっていうのが凄い意味を持ってる。もちろんこれまでにもアナログでリリースされてた曲もあるんだけど、今回は片面2曲ないし3曲に抑えてるんで、かなりレンジの広い、良い音で出せるんだよね。曲順も(CDとは)変えて、凄く計算して組んでるんですよ。DJユースに限らず、すべてのアナログを愛する人たちのために、一つの記録として残したいと思って。CDもデータもいずれダメになるけど、アナログは傷が入っても40年、50年後にも聴けるわけですから。DMRがやってくれてよかったなと。
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DMR:我々もこうしたプロジェクトに協力させていただいて光栄です。
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D.L.:いや、ほんと嬉しいですよ。Bad Newsも、これだけレーベルを越えて色んな楽曲が入っているのを整理して、リリースにこぎ着けてくれたっていうのは凄いことだと思う。今までにないんじゃないかな。あと、今回凄く読んで欲しいのが、ライターの萩谷(雄一)君のライナー・ノーツなんです。CD買った人だけのお楽しみになっちゃうんだけど。「キミは“
漢
”を知っているか ? 」っていうあの完璧でドープな文章。もともとこのコンピを作る一つのきっかけとして、過去に凄く筋の通ったコンピがあったんですよ。それが「悪名」(1995年)であり「続・悪名」(1996年)だったんです。ヒップホップの本質というか、初期衝動の部分を表現した作品。実は萩谷君がこの制作に関わってて、しかも不思議な巡りあわせなんだけど、リリースしてたのはBad Newsだった。凄く繋がってるんですよね。
D.L.:付け加えてここで話をしておくと、来年のリリース予定なんだけど、「悪名」、「続・悪名」のシリーズが10数年ぶりに「新・悪名」としてよみがえるんですよ。色んな怪しいものが入る予定で、俺も手伝うんだけど。
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DMR:何と、それはヤバい情報ですね……録りおろしのコンピなんですか。
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D.L.:何曲かリミックスも入るけどね。Now recordingっていうところ。Bad Newsが侵略を開始して、日本語ラップ(の歴史)がまた動きだす感じ。
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DMR:他にも予定されてるプロジェクトがあれば、この機会に教えていただけますか。
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D.L.:KZAと一緒に、Hell Raiser CartelでSuikenのトラックを作る予定ですね。あとアメリカのレジェンド・グループを、日本人プロデューサー・オールスターズでプロデュースします。T-Aceのプロデュースも。ミックスCDの「Ghetto Funk vol.3」は4年前に完成してるんだけど、これは(マスターの)CDがどこかに行っちゃって。うちがブラック・ホールみたいになっちゃってるから……(笑)。
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DMR:待ってる人が凄く多いと思いますので、是非とも発見していただきたいところです(笑)。
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DMR:先ほども触れたDJ視点での話なんですが、このLPがフロアに与える影響も大きいんじゃないかなと思うんですよ。Dev Largeさん自身も日本語ラップをプレイすることがあるんですよね。
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D.L.:特に日本語ラップばっかりかけようっていう意識はないんだけど、たまに「これは皆知らないだろう」「忘れてるだろう」っていう盤を多めに持っていくことがあるんですよ。Rhymesterの「俺に言わせりゃ」とかキミドリのファーストから選んだり、あとはV.I.P. Crewで色々作ったダブ・プレートをかけたり。せっかくだったら、ふだん家では聴けないもの、あまり出回ってないものが聴ける方が楽しいだろうと思って。俺自身が1リスナーだった時代、そうだったからですが。
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DMR:今回のLPリリースによって、この辺のクラシックがこれまで以上にフロアでかかるようになっていくんじゃないかと。そうやってまた誰かに影響を与えて原体験を作っていけるのって、ある意味コンパイラーの醍醐味ですよね。
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D.L.:たしかに。楽しみです。
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DMR:90年代を振り返ると、Dev LargeさんがBuddhaでドロップしてきた作品が、後に続く人にとっては、ラップからトラックまでヒップホップを学ぶための、言わば教科書になったわけじゃないですか。今回のコンパイラーという立場でもその啓蒙的なスタンスは変わってないんでしょうか。
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D.L.:どうかな……それもあるんだけど……もっと正確に言うと、2000年以降はシフト・チェンジしてきたんですよ。近すぎて見えないもの、近すぎて聞こえてきちゃうものとか、そういう色んなものとのバランスが取れてきて。シーンの中央に居ないことによってわずらわしい期待とかしがらみから解放されて、自分のペースで色んなことを考えたり、取り組んだりできるようになったんです。その時間で得たもの、考えたこと、その他諸々を踏まえてできあがったコンピなんです。だからシーンの中心にいて教科書を作って、やれ右へ行け、左に行けっていうようなニュアンスじゃないんですよね。
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DMR:よりニュートラルな立ち位置で、ということですね。
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D.L.:そう。俺のソロの「The album」(2006年)もそうだけど、色んなもののきっかけになることをやっていきたいなって、2000年以降ずっと思っていて。
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DMR:たしかに、これは一ファンとしての意見なんですけど、変化はDev Largeさんのリリックにも現れてるんじゃないかなと思うんです。例えば“One life” (2001年)での「鋭く本質捉える目 / 若いうちだぜ養っとけ」といった、後に続く人たちを見守るようなメッセージが増えていったように感じるんですよ。周りへ良い刺激を与えていきたいっていう姿勢に少しずつシフトしていったのかなと。
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D.L.:そう、だね、確かにそういうのは感じてます。Buddhaの頃は、良いメッセージみたいなのは嘘臭いからやめようっていう共通の意識がMC内であって。あえて汚れ役っていうか、ヘンなことばっか言おう、みたいな。だからそういうのは“(ブッダの)休日”(1997年)ぐらいしかまともにやってないんじゃないかな。でも4人乗りから1人乗りの単車になったら、ほんとうに言いたいこと、やりたかったこと、やるべきことをやる方が、自分にとって幸せなんじゃないかなって思うようになって。そういう気持ちの一環としてこのコンピを作ったってことでもあります。未来に残す曲のオーパーツ。
D.L.:不思議なもんで、誰かのミックスCDやコンピレーションが世の中に出ると、その曲がかけづらくなったり、その人の所有物みたいに認識されちゃったりすることってあるでしょ。音楽ってのは本来誰も所有できない、みんなのものなんだけど。「あの人のオハコだから」「あの人がかけてるからかけづらい」っていうのはおかしいと思うんです。だから俺がこのコンピを出したからって、他の奴が選曲する時に入れられないっていうことにはなって欲しくない。俺のを越えるようなものを出して欲しい。それで俺も負けずにまた出すっていうのが面白いと思うし。
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DMR:今後そうした触発が起こっていくのが本当に楽しみですね。今日は長時間ありがとうございました。
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日本語ラップの伝道者、D.L.が温故知新をテーマに20年後にも残せるクラシックをセレクトした前代未聞の日本語ラップコンピレーションが正規リリース ! 言わずもがな2006年Libra Recordから100名に配られた、喉から手が出るほど欲しいアノ“暴言”が、“証言”オリジナル・トラック・ヴァージョンに差し替えての奇跡の収録の他、Buddha Brandのドープ・ビーツな傑作“Don't test da master”、“you've got have freedom”使いのYou The Rock & DJ Benの93年傑作“Over the border”、Lunch time Speaxの代表作“Ground Zero”、Maki & Taiki feat. Zeebra、Mummy Dの“末期症状”などのクラシックばかりを16曲収録。
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