ニュース
news007.jpg

GENOウイルス騒動で再考するマルウェア対策

Webサイトで感染する恐れのある通称「GENOウイルス」が短期間で急拡大したが、今回の騒動は、PCでのマルウェア対策について再考するきっかけとなりそうだ。


 Webサイトを閲覧するだけで感染する恐れがある「GENOウイルス」(別名、JSRedir-R、Gumblar、Martuzなど)による被害が5月初旬〜中旬に多発した。今回の騒動をPCでのマルウェア対策を再考するきっかけにしてほしいとシマンテックが呼び掛けている。

 GENOウイルスは、不正に改ざんされたWebサイトをユーザーが閲覧すると悪質サイトにリダイレクトされて感染する。Adobe PDFやFlash Playerなどの既知の脆弱性を悪用し、さらにトロイの木馬「Infostealer.Daonol」(シマンテックでの名称)を呼び込む。Infostealer.Daonolは、ユーザーがFTPなどで使用するIDやパスワード情報を盗み出して攻撃者に知らせ、攻撃者は入手したIDとパスワードでサイト改ざん行為などを繰り返す。

genovir01.jpggenovir02.jpg GENOウイルスの感染スキーム(左)と感染後の影響

 シマンテックによれば、感染活動は3月中旬ごろから始まり、国内でも趣味系サイトを中心に4月に入って改ざん被害が増加した。世界的には5月以降に被害が急拡大し、一般企業のサイトでも改ざん被害が多数に上っているもようだ。

 感染活動による攻撃者の狙いは、ユーザーを詐欺サイトへ誘導する目的で検索エンジンの結果を書き換えたり、不正広告を配信したりすることや、詐欺的ソフトのインストール、個人情報の盗難、バックドアのインストールなどがあるとみられる。いずれの場合でも、金銭やボットマシンの確保といったサイバー犯罪の流行に沿ったものである可能性が高い。

 シマンテックセキュリティレスポンスの林薫主任研究員は、「こうした攻撃では自動化された攻撃ツールを使われるのが一般的だが、今回は人海戦術によってち密な計画で仕掛けられた可能性がある」と推測する。

定義ファイルを待つのは損か

 シマンテックは、Infostealer.Daonolを駆除するための定義ファイルを5月18日に配布したが、GENOウイルスに関連した定義ファイルは3月下旬から順次提供していた。しかし、ユーザーからの感染報告は、個人や企業を問わず多方面から寄せられた。感染者の中には、長期間にわたって定義ファイルの更新が滞っていたケースがあるものの、最新の定義ファイルが提供される以前に感染したケースも目立った。

 定義ファイルの提供は、ベンダーが検体(マルウェアのサンプル)を入手してから一週間から10日以上かかる場合が多く、定義ファイルのウイルス対策だけでは感染を防げない可能性が高い。GENOウイルス以前にも、定義ファイルが提供されるまでの間に感染拡大したマルウェアが珍しくなく、昨年末から猛威を振るっている「Conficker」もその一つ。シマンテックによれば、ウイルス対策のみの企業を中心に感染が広がった。

 同社を含めたウイルス対策ベンダーは、PCのマルウェア対策として複数のセキュリティ機能を併用する多層防御型対策ソフトの導入を推奨している。これは、定義ファイルでのマルウェア検知・駆除に時間がかかることから、クライアント向けのファイアウォールやIPS(不正侵入防御)などを利用してPCへの不審なアクセスやプログラムの挙動を阻止するという水際対策である。シマンテックでも昨年11月に明らかになったAdobe PDFの脆弱性を検知するIPSのシグネチャを公開から数日で配布し、IPSを実装していたPCではGENOウイルスへの感染を阻止した。

 クライアント向けのファイアウォールやIPSの機能は、統合型セキュリティ製品として提供されるのが一般的で、価格もウイルス対策単体の場合に比べて割高となる。シマンテックは、コスト面から導入が難しいケースや、ファイアウォールやIPSの専用製品を導入していることで「PCでの対応は不要だ」と考える企業もあるという。

 ソフトの脆弱性を悪用する攻撃の大半は既知のものを標的にしているケースが多く、ウイルス対策単体でPCを防御する場合では、日常的に最新のパッチを適用して脆弱性を解消しておくことが不可欠だと、同社では指摘している。

過去のセキュリティニュース一覧はこちら

関連ホワイトペーパー

Symantec(シマンテック) | IPS | 脆弱性


Copyright© 2009 ITmedia, Inc. All Rights Reserved.





PR

ソリューションFLASH

キャリアアップ



エンタープライズ・ピックアップ

news005.jpg わが社のコスト削減:クラウドは万能か――富士ソフトの苦悩と解
クラウドの台頭に伴い、情報システムを「利用」する動きが広がりつつある。Google Appsの本格運用を4月に開始した富士ソフトもその潮流に乗った1社だ。だがクラウドは万能ではない。同社が運用までに体験した経緯、そして導きだした最適解を追う。

news004.jpg アナリストの視点:低評価の情シス子会社、生き残りの道はあるか
情報システム子会社に対する評価は、親会社およびユーザー企業のいずれも厳しい。こうした評価を払しょくし情報システム子会社の価値を高めるためにすべきことは何か。調査結果を基に考察する。

news028.jpg ロングインタビュー:トヨタの「自前主義」に微妙な変化――情シスを統括する大西常務
情報システムを開発し、所有する「自前主義」を貫いてきた同社だが、深刻化する不況の中で、それも微妙に変化している。トヨタで情報システムを統括する大西弘致常務役員に話を聞いた。

news030.jpg ニュース解説 OracleがSunを買収:クラウド時代のサバイバル競争に突入
米Oracleが4月20日(現地時間)、米Sun Microsystemsを買収すると発表した。Oracleの狙いは何か。IT市場にとって何を象徴する動きなのか。

news020.gif e-Day:悪くないOracleによるSun買収
OracleによるSunの買収は悪くない。かつての盟友同士だし、意外なことに、Oracleは買収した製品や技術を上手く生かしてきたベンダーの1社なのだ。

news050.jpg オルタナブログ通信:これでOracleは全部入り? OracleのSun買収、ブロガーの視点
ビジネス・ブログメディア「ITmedia オルタナティブ・ブログ」では、日々200組を越えるブロガーが、ITにまつわる時事ネタなどを発信している。今週は、「Sun買収」「Twitter」「コスト削減術」をテーマに紹介する。

news010.jpg タスクチームのススメ(1):売り上げ目標だけで走るチームの落とし穴
組織で起こる問題の原因は単一の部門ではなく、複数部門にまたがっていることが多い。さまざまな要素が絡み合った組織の問題を解決するために作られるのが「タスクチーム」だ。本稿では成功するためのタスクチームの作り方を6回にわたり紹介する。

news007.jpg わが社のコスト削減:外資ソフトが攻勢、「国策」定額給付金の支給管理にも
山梨県甲府市は3月、定額給付金支給管理システムにセールスフォース・ドットコムのサービスを採用した。SAPや新興BIの新たな動きが出てくるなど、ここにきて外資系ソフトウェアベンダーの攻勢が目立つ。

news005.jpg 逆境をはね返すサプライチェーン改革:鮮度が絶対条件、品質とスピードに徹した明治乳業の物流改革
牛乳やヨーグルトなどの市乳製品は鮮度の保持が絶対条件であるため、注文から納入までのリードタイムをどれだけ短くできるかがメーカーの物流における重要な課題だ。市乳製品が売り上げの多くを占める明治乳業では、いかなる工夫が見られるのだろうか。取り組みを追った。

news040.jpg 「2009 逆風に立ち向かう企業」NEC:企業のIT投資削減はあくまでも緊急避難、攻めに行く
NECの取締役常務執行役員を務める安井潤司氏は「2009年のIT投資は最悪の場合4割減るだろう」と話す。だが重要な投資は続くとみており「攻めにいく」という。安井氏にNECの2009年について話してもらった。

news031.jpg 「2009 逆風に立ち向かう企業」富士通:顧客の顧客に注目する
2008年に就任した富士通・野副社長の好きな言葉は、成功するために耐えるという臥薪嘗胆。米国の金融危機に端を発する大きな不況の中で、舵取りが世界から注目されている。

news005.jpg 「2009 逆風に立ち向かう企業」日産自動車:日産自動車の新たな“挑戦”――「日産GT 2012」
2008年5月に発表した決算で、2009年3月期の連結純利益が2期ぶりの減益に転じると発表した日産自動車。そんな同社を新たな成長軌道に乗せるために策定された5カ年計画が「日産GT 2012」だ。

news007.jpg 「2009 逆風に立ち向かう企業」三菱東京UFJ銀行:未曾有の金融・経済危機、今こそITの出番
大規模なシステム統合プロジェクトを完遂したメガバンクの雄、三菱東京UFJ銀行は、百年に一度という金融危機の中、生き残りを賭けて、さらなる経営改革に取り組む。根本常務執行役員情報システム部長は「ITの出番は多い」と話す。

news002.jpg 「2009 逆風に立ち向かう企業」ソニー:情シス部門が主役になる日
ソニーは2008年末、大規模な人員削減を発表した。コスト削減の圧力が強い一方で、情報システムを長期的な成長エンジンとして位置づける。ビジネス部門に積極的に提案をするようなIS部門を目指すと話すのは長谷島眞時CIOだ。