国内及び国際情勢

「入管法・入管特例法・住基法」改定案審議に際しての要望書

2009年3月25日
「在留カードに異議あり!」NGO実行委員会

 今回、入管法改定案と入管特例法改定案、および住基法改定案が国会に提出されました。
 外国籍住民をはじめマイノリティの人権保障に取り組んできたNGOとして、私たちはこれらの改定案に多くの疑義と問題点を指摘せざるをえません。とりわけ入管法改定案については、強く反対せざるをえません。 国会において審議を尽くし、外国籍住民の地位と権利が保障されるよう、以下のように要望します。

1.法案審議にあたって、
  上記3法の改定案の当事者となる外国籍住民の意見を広く聴取する場を  設けてください。

@入管法改定案による「新たな在留管理制度」が対象とする外国人は 「約164万人」プラス「新規入国者」となり、 入管特例法改定案の対象者は「約43万人」となります(2007年末現在)。
A政府は、国連の特別報告者からの勧告、すなわち
 「政府はマイノリティ集団に関連して採択される政策や立法に関し、 マイノリティ集団と協議すべきである」 (人種主義・人種差別に関する特別報告者による『日本公式訪問報告書』、2006年1月24日) という勧告を無視して、外国籍住民から意見を聴取する場を設けることもなく、 改定案を策定しました。

2.「入管法改定案」の審議において、外国籍住民の人権をはなはだしく侵害する、  多岐にわたる問題点を明らかにしてください。

(1)個人情報の集中とデータマッチング
@特別永住者を除く中長期在留外国人の情報は、 外国人本人の届出による情報の他、 その外国人が所属する機関からの情報が法務省に集中されます。
 さらに、住基法上の住民票記載事項も法務省にもたらされます(改定案第61条の8の2)。 このほか、外国人一人ひとりの入国・再入国・出国に関する情報も法務省にあります。

 これにより、在留カード番号をキーとして、
 外国人の個人情報のデータマッチングも可能になります(第19条の18)。
Aこのような個人情報の一元的管理とデータマッチングは、
 日本国民には許されないものです(2008年3月6日、住基ネット最高裁判決)。
 もし、外国人にはそれが許されるというのなら、
 その必要性の合理的根拠が示されなければなりません。

(2)市民社会が外国人を監視する
@改定案第19条の17では、「別表第一」の外国人が所属する機関 (私企業や公共団体、宗教団体、研修生・技能実習生受け入れ機関、 日本語学校、大学、専門学校など)に対して、 個人単位で「就労状況/在籍状況/研修状況/就学状況」を 報告させることを義務づけています。
A「別表第一」の在留資格を持つ外国人は「約69万人」(2007年末現在)となり、 日本社会の隅々にわたって、日本人と共に労働し勉学し家庭を形成しています。
B所属機関からの届出制度は、外国人登録制度にはなかった新たな管理方法です。
 「外国人管理」とはまったく無縁の機関、 公権力の介入から独立性を保障されている大学や報道機関、宗教法人までも、 外国人管理行政の一翼を担わされ、 いわば日本社会が外国人を監視することになります。

(3)法文ではなく法務省令に委任
@改定案では、在留カードの表示項目や「その他の必要事項」を省令に委任している (第19条の4第3項)ほか、ICチップへの搭載事項も省令に委任(第19条の4第4項)、 所属機関等に関する外国人本人からの変更届出の届出事項も省令に委任(第19条の16)、  所属機関からの届出においてもその届出事項は省令に委任(第19条の17)されています。
A法務省令に委任されているこのような事項は、
 在留管理上の必要性と、外国人個人のプライバシー保護の必要性との均衡を図る観点から 厳格に定めるべきものであり、 国会での審議を経るべき重要な問題です。
 しかし、このままでは、法務省が省令によって、 きわめて広範かつ無限定に外国人の個人情報を収集することになりかねず、 プライバシー保護の観点を著しく欠くことになります。
B現行の外登法では、「外登証」の記載事項も、「外国人登録原票」の記載事項も、
 すべて法律で規定しており、法務省令への委任はありません。

(4)外国籍住民にとって過酷な義務規定と刑事罰
@入管法改定案による「新たな在留管理制度」は、住基法・戸籍法と比較しても、あまりにも煩雑な義務規定を設け、かつ格段の重罰を定めています。
 それは、「外登証」を廃して「在留カード」とするため、外登法の種々の義務規定と罰則制度を「軽減することなく」ほぼそのまま入管法に持ち込んだためです。
A住基法で懲役刑を定めているのは、
 住民基本台帳に関わる秘密を洩らした自治体職員に対してのみ、また戸籍法で同様の罰則は、虚偽の届け出をした者に対してだけです。
 これに比して入管法改定案は、事細かに義務規定を設け、新規届出や変更届出の遅延にまで懲役を科し、また軽微な違反に対してまで罰金刑を定めています。
Bとりわけ、住居地変更の届出をしなかった場合、「住基法での過料」+「入管法での罰金」+「入管法での在留資格取消し」(第22条の4第1項第9号)とするなど、いちじるしく過重であると言わなければなりません。

(5)在留資格の取消し
@入管法改定案は第22条の4第1項第7号で、「配偶者の身分を有する者としての活動を継続して3月以上行わないで在留していること」が在留資格の取消し事由としています。
 しかし、「配偶者の身分を有する者としての活動」とは、どのような事柄を指しているのでしょうか。
 日本人であれ外国人であれ国際結婚であれ、現代社会にあって家族の形態はじつに多種多様です。
 そのような私人間の領域に公権力が介入することは、決して許されません。
Aとりわけ、DV被害女性が身を隠している場合などの権利保障が絶対に必要です。

(6)在留カードに「就労制限の有無」
@在留カードの記載事項に「就労制限の有無」があります(第19条の4)。
 法務省の説明資料によれば、在留カード表面のほぼ中央、囲み罫の中に「就労不可/就労するには資格外活動許可が必要」「就労制限なし」「就労制限あり/在留資格で認められた就労活動のみ可」と、それぞれ太字で記載されるようになっています。
A外登証には「職業」という項目がありますが、
 「就労制限の有無」という項目はありません。それにもかかわらず、このような項目を設けることは、外国籍住民を「人間」として「生活者」として扱うのではなく、「労働力商品」か否かという基準から外国人をみなす道具主義的発想に基づくものではないでしょうか。

(7)国連の勧告を無視した常時携帯制度
@入管法改定案は、在留カードの受領・提示・携帯義務を、刑事罰をもって16歳以上の外国人に強制しています。
 また入管特例法においては、16歳以上の特別永住者に対して、特別永住者証明書の携帯違反を過料としていますが、同証明書の受領拒否と提示拒否には刑事罰を設けています。
A国連の自由権規約委員会は1993年11月4日、「総括所見」を採択し、その中で「主要な懸念事項」としてこう明記しました。
  《永住的外国人であっても、証明書を常時携帯しなければならず、また、刑罰の適用対象とされ、同様のことが日本国籍を有する者には適用されないことは、規約に反するものである》
  《日本に未だ存続しているすべての差別的な法律や取り扱いは、
  規約第2条、第3条および第26条に適合するように、廃止されなければならない》

 この勧告から5年後の1998年11月5日、自由権規約委員会は再度、こう勧告しました。
  《委員会は、外国籍の永住者に対し、外国人登録証を常時携帯していないことを犯罪とし刑事罰を科している外登法は、 規約第26条とは合致しないとした日本の第3回定期報告書審議後の総括所見で記した意見を再び述べる。委員会は、このような差別的な法律は廃止されるべきであることを再度勧告する》

 それから10年後、日本政府の第5回報告書を審査した自由権規約委員会は、「総括所見」(2008年10月30日)の中で、次のように言及しています。
  《委員会は、第4回政府報告書の審査後に出された勧告の多くが履行されていないことに、 懸念を有する。締約国は、今回およびこれまでの総括所見で委員会によって採択された勧告を  実施すべきである》
B今回の改定法案では「外登証」が廃止されて「在留カード」「特別永住者証明書」となりますが、 永住者も特別永住者も、すべての外国人が身分証明書の常時携帯を義務づけられることには変わりありません。
 すなわち日本政府は、国連の自由権規約委員会の3回にわたる廃止勧告をまったく無視したのです。

(8)外国籍住民に過度の負担を強いる
@以上に見るように、特別永住者を除く外国籍住民に対しては、さまざまな義務規定が設けられ、それが刑事罰(場合によっては在留資格取消し処分)の威嚇によって強制させられます。
 住居地以外の変更届けは、地方入管局に赴かなければならず、その負担はこれまで以上に大きくなります(地方入管局は8局、支局6局、出張所62カ所を含めても76カ所にすぎません。他方、市区町村は全国で1787カ所もあります)。
Aとりわけ外国籍の高校生にとっては、16歳の誕生日に学校を休んで地方入管局へ赴いて在留カードを受領し、さらに14日以内にまた学校を休んで市町村窓口へ行き、カードに住居地を記載してもらい、そのカードを常時携帯することになります。
 その負担はあまりにも大きいと言わざるをえません。

(9)自治事務を国の「在留管理」事務に従属させる
@入管法改定案は第61条の8の2で、
 市町村が外国人住民の住民票について「記載、消除、又は記載の修正したときは、直ちにその旨を法務大臣に通知しなければならない」としています。
Aこれは、住民基本台帳制度を住民サービスの提供ではなく、在留管理制度の一環とする規定であり、住民基本台帳をその本来の目的から逸脱させようとするものです。

3.「入管特例法」の改定にあたっては、
  その対象者である旧植民地出身者とその子孫の歴史的過程および在日二世・三世・四世が大半を占める現状を踏まえて、その地位と権利を法文上明示してください。
  少なくとも、特別永住者証明書の7年ごとの更新を義務づける改定案第12条、同証明書の受領・携帯・提示義務を定める第17条および刑事罰条項を削除してください。
  また、「みなし再入国許可制度」を定める第23条第2項の中の「有効な旅券」を削除してください。

4.「住基法改定案」の審議において、
  住民基本台帳が住民の基本的な情報を正確に把握し住民行政の基礎とするための制度であることに適合するように、入管法改定案による「新たな在留管理制度」との連動を排除してください。
  すなわち、住基法改定案の第30条の45および第39条を修正し、第30条の50を削除してください。

以上です。

◆「改定法案」批判の詳細は⇒ http://www.repacp.org/aacp/


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