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臓器移植法改正案:「脳死」「子ども」主張対立 法案提出者が討論会

 議員立法による臓器移植法改正案が計4案出そろい=表、国会への法案提出者が一堂に会した討論会(東京財団主催)が19日、東京都内で開かれた。出席者は同法の何らかの見直しが必要との認識では一致したものの、具体的な改正点では主張が大きく対立し、合意形成の難しさも浮き彫りになった。討論会の模様を紹介する。【江口一】

 ◇国際基準か社会的合意か/虐待どう見抜く

 出席したのは衆院議員で各案提出者の冨岡勉(自民)=A案▽石井啓一(公明)=B案▽阿部知子(社民)=C案▽岡本充功(民主)=D案=の各氏。

 4氏は各改正案の背景や狙いを紹介したが、脳死の法的な位置づけと、14歳以下の脳死者からの臓器摘出を認め、小児への移植に道を開くべきか否か、の2点で特に意見が割れた。

 ■死の定義

 脳死の位置づけでは、移植の実施にかかわらず法的な人の死と定義するA案と、本人が生前に臓器提供の意思表示をしている場合に限定して法的な死とする現行法を基本的に踏襲するB、C、D各案で立場が大きく異なった。

 A案の冨岡氏は「脳死から意識が戻り社会復帰した例はない。脳死を人の死と認めていないのは日本だけ」として、脳死を法的な人の死とすべきだと主張。改正されれば本人や家族の意思に反して脳死判定など移植手続きが進められるのでは、との懸念には「ありえない」と反論した。

 これに対し石井、阿部、岡本の3氏は、いずれも脳死を一律に人の死とすることに慎重な考えを示した。

 B案の石井氏は「脳死を人の死とする社会的な合意は得られていない。人の死は文化的、宗教的な土壌で異なり、国際的な基準に合わせる必要はない」と述べた。C案の阿部氏は「救急搬送に要した時間など、これまでの脳死移植の検証が不十分。また、脳死にはまだ科学的に追究すべき点がある」として、脳死判定の厳格化を訴えた。D案の岡本氏は「脳死だから治療をしても仕方がないなどと、本人や家族の意思に反する死としてはいけない」と話した。

 ■小児の場合

 小児の脳死移植では、脳死判定そのものの難しさと、虐待による脳死移植を防げるか、などが焦点だ。

 B案の石井氏は日本小児科学会の調査を引用し、「親が虐待の事実を隠せば、医師が見抜くのは難しい。また小児の脳死者は長期間生存することがあり、医学的に脳死判断が可能とする医師は3割にとどまる」などと紹介。提供年齢を12歳以上とした上で、被虐待児からの臓器摘出の防止対策や脳死判定基準の検証などの基盤を整え、段階的に法整備すべきだとした。

 提供年齢の制限は撤廃するとしたD案の岡本氏も虐待を懸念し、14歳以下の臓器提供では家族の同意に加え、院内の医師による第三者委員会の審査が必須と主張した。

 C案の阿部氏は「日本の小児の救急医療は(救命率などの)成績がきわめて悪い。小さな心臓を持った子が死ななければならない厳しい状況を何とかすべきだ」と小児医療自体の改善を訴えた。

 一方、A案の冨岡氏は「世論調査で国民の7割が14歳以下の臓器提供を容認している。脳死判定では6人以上の医師が厳しくチェックするため、虐待は見過ごされない」と強調した。

 ■件数増えるか

 法改正を目指す機運の背景には、脳死移植件数が99年の第1例以降、計81例にとどまる実態もある。だが、この日は「法改正で移植が劇的に増えるわけではない」との意見が続出した。

 A案の冨岡氏は「移植が増えない問題点は、法改正とは別にある」として脳死判定の煩雑さや国民性を挙げ、地域ごとに専門医による脳死判定チームを置くことなどの支援策を提案した。D案の岡本氏も「脳死者が全員、臓器を提供しても移植に必要な臓器は足りないという現実への理解も必要だ」と述べた。

 また、C案の阿部氏は、移植医療全体を見直すことを要請。法的な規制がない生体移植についてもルールを法律に盛り込むよう主張した。

毎日新聞 2009年5月26日 東京朝刊

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