1972年の外務省機密漏えい事件を基にした小説「運命の人」(山崎豊子著、文芸春秋)を読んだ。沖縄返還に絡む日米交渉の密約スクープに始まり、ストーリーは国家公務員法違反容疑での逮捕・起訴に発展する。スクープを入手した記者は言う。「沖縄返還交渉の実態があまりに不透明で、国民に知らされる事実と違いすぎることを座視出来なかった」
日米安保、基地問題、アメリカ原潜日本入港。激動の時代に生きた記者だからこその過去物語かもしれない。しかし、「沖縄返還……」に別の言葉に当てはめれば、自分たちの取材に通じるものがある。「国民に知らされる事実と違いすぎること」は、今も多く存在すると感じるからだ。(大森)
毎日新聞 2009年5月26日 地方版