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北の医療

【医師研修の今後】

(1)医学生、症例数を重視

2009年05月26日

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合同プレゼンテーションには道内外の医学生が集まり、研修病院の説明に熱心に耳を傾けた=4月5日、札幌市中央区

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■制度改正 偏在解消は?

 やって来た若者は一人でも逃すまいと、熱心に声をかけ続ける姿があった。

 「何カ所回られましたか」「パンフレットをお配りしているのでご覧下さい」

 4月上旬の日曜日。札幌市中央区のホテルで、医師になって1、2年目の研修医を確保するために実施された合同プレゼンテーションがあった。厚生労働省から研修医の受け入れを認められている道内の指定病院の幹部や職員らは懸命だった。

 会場を訪れた147人の医学生をできるだけつかまえる。それぞれの病院のブースで、得意とする診療科や手がけた症例といった実績をスライドで紹介したり、給与などの待遇を説明したりした。

 「特色を売り出さないと研修医は集まらない」と道北の病院の担当者。道南の病院の幹部は「地方の小さい病院で、様々な症例を見ることはできないというデメリットも説明するようにしている」と誠実さを強調した。

 しかし、医学生が集まらず、午後4時のプレゼン終了前に撤収する病院もあった。札幌のような都市部の病院のブースに30〜40人が列をなしたのとは対照的だった。

    ■   ■

 道内の多くの病院が慢性的な医師不足にあえいで久しい。その状況にあって、医師としての経験が浅いとはいえ、研修医は「重要かつ貴重な戦力」。病院を将来背負う人材の確保につなげたいという思惑もある。

 だが、多くの病院が確保に苦労している。研修先を決める「マッチング」の08年度の結果を見ると、計70の指定病院の総募集定員504人に対して採用者は313人、充足率は62%。採用数ゼロの病院は21にのぼり、8病院は06年度から3年連続ゼロという厳しい結果だった。特に地方は深刻だ。

 政府は、こうした医師不足や医師の偏在を招いた要因と指摘される臨床研修制度について、来年度からの改正を目指している。主なねらいは、従来医師の供給元となっていた大学病院に研修医を呼び込むこと。そしてもう一つが、大都市や都市部への偏在を解消し、地方に医師を行き渡らせることだ。

    ■   ■

 しかし、制度改正が「特効薬」となるのか。

 札幌でのプレゼンに訪れた医学生の多くは、地域医療の重要性には理解を示す。だが、それは研修先を選ぶ理由とは直結していない。

 北大5年の女性(22)は「若いうちは症例数の多い病院で腕を磨きたい。地方では診察に追われて勉強にならないのではないか」。中国地方の大学5年の男性(23)も「技術を身につけるまでは、症例数の多い都市部の病院で学ぶ必要がある」と話す。

 そして旭川医大6年の女性はこう明言した。「自由に研修先を選べれば、自分が志望する診療科に強い病院に進める。やっと一般企業の就職に近づいてきた」

     ◇

 臨床研修制度によって、変貌(へんぼう)を余儀なくされた地域医療。道内にもたらされた「今の姿」と、これからについて、各地の現場から報告する。

(この連載は平間真太郎、小林舞子、古賀大己、若松聡が担当します)

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《キーワード》
◆臨床研修制度 幅広い診療科の知識や初期診療能力を身につけさせる目的で、04年度から義務化された。医師国家試験合格後の2年間に、内科、外科、救急(麻酔を含む)、小児科、産婦人科、精神科、地域保健の7科を必修する。研修先は、厚生労働省が指定した臨床研修病院の中から、医学生と病院の希望をコンピューターですり合わせる「マッチング」で決める。

 医学生の多くは出身の大学病院で研修していたが、制度導入で研修先を自由に選べるようになり、都市部の症例数の多い病院に集中。大学病院が人材不足に陥り、地方に派遣していた医師を引き揚げたため、地方の医師不足・偏在に拍車がかかったとされる。

 このため厚労省は10年度から、必修診療科を内科、救急、地域医療の三つに減らし、研修期間を実質的に1年間に短縮することや、都道府県ごとに研修医の定員の上限枠を設定する制度改正をすることにしている。

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