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タバコを考える・・・吸う人がいる




私はタバコに寛容なのかも知れない.私自身は,若い頃に少しの間,吸っていただけでタバコは吸わない。

でも,隣でタバコを吸っていても気にならないし,新幹線やレストランでも,禁煙車でも喫煙車でもOKである.ただ,咳が出るので,それが困る.咳が辛いのではない,我慢しないとタバコを吸っている人が気にする.そう思って咳を押さえるのが大変なのである.

そんな私でも,少し気にすると言えばホテルで泊まるときに,あまりにタバコの臭いが強い部屋はイヤなこともある.最近ではタバコを吸うところが限定されてきたせいか,タバコの臭いを臭く感じるようになってきた.

人間の五感というのは,法則があって「どのくらい辛いか」,「どのぐらい臭いか」というのは判らず,「普段と較べて辛いか」とか「いつもと臭いが違うか」ということしか判らない.

だから,高血圧の人が塩分を取らないようにするためには「ダマシ・ダマシ」であれば苦痛を感じないで味付けを薄くできるという利点があるし,逆に化学工場では知らぬうちに有毒ガスが蔓延し,その時に偶然,部屋に他の人が入ってくると「なんだ!ひどく臭いぞっ!」と驚くことになる.

そんな人間の臭覚のせいか,最近ではことのほかタバコの臭いが気になりだした.

それでも,なんとなく私はタバコに寛容である.だからついついそのような発言がでて顰蹙をかう.昨年の年末にはテレビで「タバコを1000円にするなど,ケシカラン! 他人の嗜好は嗜好で良いじゃないか」と言って,読者に方からご注意を受けた.

また,このネットの読者からもご意見を頂いた.お一人はお医者さん,もうお一人のご意見もとても誠実で鋭く,私は今年の初めから「タバコとは一体,なんだろうか?」と考え込んだ.

ちょうど,「大麻」の本を執筆していたので,特に嗜好品に対する私自身の感度も高かったのだろう。「嗜好品とはなにか?」ということを問い続けていた.そして,まだ道半ばだが,少しまとまったので,ネットに書いてみたいと思う。

・・・・・・

私がタバコに寛容なもっとも大きな理由は「吸っている人がいる」という事実だ.

人には人の「正しさ」がある.その正しさは他人から見れば「間違っている」と思うことがあり,それが政党の違い,個人的な言い争い,そして戦争になる.もし,「正しさ」が一つなら争いはない.

「本当の心は態度に出る」というのが私の持論である。

本当に愛していれば「愛しているから結婚してくれ」と言い,もし相手がOKしたら結婚する。でも,お金目当ての時には,なんのかんの言ってなかなか入籍しない。つまり口先ではなんとでも言えるが,本当のところは態度に出ると私は思う。

東京にすんでいる人は「温暖化は怖くない」と思っていると私は言う。なぜなら東京が一番,温暖化し,さらに温暖化ガスをだしているからだ.東京に住んで「温暖化が怖い」と言っている人は「愛しているから結婚してくれ」と言って入籍を伸ばす男と同じだ.

アメリカの元副大統領ゴア氏は「温暖化を防止するために電気をこまめに消しましょう」と呼び掛け,自分の自宅の電気代は1ヶ月30万円だ.このような人の言うことは1から10まで信じないのが私の流儀である。

誠の無い人は困る.

ところで,タバコを吸っている人は大人だ.そして自分の意志でタバコを吸っている。だから,その人たちは「タバコを吸うのは正しい」と思っている。ゴア氏より喫煙者の方が誠実であることは確かだ.

でも,本人は気は引けているかも知れない。同僚からは疎まれ,奥さんからは文句を言われ,吸おうとすると隅の方に追いやられる。本人たちは自嘲気味に「ホタル族」と言っているが,タバコを吸う人はその人の意志ですっている。そして行動もしている。

ということは,喫煙者は「タバコを吸って良い」と思っていることだ.そして「タバコを吸うと肺がんになる確率が増える」,「タバコを吸う人と一緒に住んでいる人も確率が増える」,「タバコを吸うと血管系の病気に罹りやすくなる」.「タバコの臭いを嫌う人がいる」,「タバコはたびたび火災の原因となり,関係の無い人が命を落とすことすらある」・・・などは全部知っている。

知っていて,タバコを吸う.だから「タバコを吸うのはその人の意志であり,その人は正しいと思って行動している」ということになる.

ある人が「正しい」と思うことを,私が「間違っている」と考えることはあり得る.しかし,私がある人が「正しい」と言っていることを「間違っている」と証明することはできない.私は神様ではない。

私は「タバコを吸うのは反社会的だ」と縷々説明することはできる.でもそれは,すべて私が「説得しようとする人がすでに知っていること」だ.知っていることを説得しても仕方がない.繰り返しになるだけだ.

私は神様ではなく,人間だ.そして喫煙者も神様ではなく,人間だ.

タバコを吸う人自身が「俺は悪い」と思ってくれないと,タバコを吸うのは間違っていると言うことにはならない.

わたしは一人一人の考え,意志,そしてその行動を尊重する.それはその人が考える力があり,基準を持ち,そして自らの意志で行動するからだ.それを尊重するのが民主主義であり,私たちが目指す国家だからだ.

それでは人殺しでも良いのか?という反論がある.それについては次回以後に整理していきたいと思う。

(平成2155日 執筆)


武田邦彦



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