赤道のすぐ南に位置しているサンゴ島・ツバル。温暖化による海面上昇によって国が海没する危機にさらされている。日本旅行写真家協会会員で、08年9月、1カ月にわたり、「フィジー」~「ツバル」往復2000キロを10メートルのヨットでセーリングした水本俊也さん(36)が毎日新聞社へ寄稿した。
◇フィジーから北に1000キロ、南太平洋に浮かぶ小さな八つの島々からなるツバル。ヨットに乗ってフィジーからツバルを目指すという計画を仲間から聞いたのは5月のことだった。飛行機や旅客船などの燃料を使う乗り物ではなく、風の力を利用して進むヨットでの旅。その点がこの船旅における一番の魅力に思えた。
フィジーのラウトカ港を出発し、中間地点のロトゥマ島を経由して、片道1週間。種から芽が出たばかりのような椰子のシルエットが水平線上に徐々に見えてきた。水面すれすれのヨットからとはいえ、遠く肉眼でも標高の低い島々であるということが認識できる。島影が近づくにつれ、ヨットでこの地を訪れたことを想いつつ、興奮する気持ちが抑えきれなかった。
上陸したのは首都のあるフナフティ島。ツバルで唯一空港のある島だ。島内を自転車でくまなく回る。自転車を足代わりにしているのは主に観光客で、島民の交通手段はバイクが主流だ。思いのほかその数は多い。海洋資源局長のアピネル氏(48)は「2000年にはプライベートな車は島に4台しかなかった。今は船が着くたびに車やバイクが持ち込まれる」と教えてくれた。島の北端から煙が立ち上っている。行ってみるとコバルトブルーの海を背景にゴミの山があふれかえっていた。ゴミ処理場がないため、島には幾つかのゴミ捨て場が存在する。処理するのではなく、捨てる、焼くだけの場所。八つの島を合わせても品川区とほぼ同じ面積の国(約26平方キロ)。そのキャパシティには限りがある。ある意味温暖化よりも深刻な現状だと認識した。
一方で世界が危惧する温暖化。日常的にその変化が大きく見えることはない。しかしながら、ラグーン(環礁)内であっても椰子の根は以前よりあらわになり、外洋にさらされた砂浜の侵食は近年顕著に進んでいるという。そのような現状を垣間見たものの、初めての訪問ではそれを実証することはできない。写真の力は継続することにある。今、できることは関心を持ち続けること。そして証明することである。
08年10月1日、ツバルは独立から30周年を迎えた。この国が30年後に存在しているのかどうか。ツバルの未来が地球の未来と重なって見える。
◇プロフィル
水本俊也(みずもと・しゅんや) 1972年生まれ。鳥取県出身。客船カメラマンを経て、フリーの写真家に。写真教室・撮影ツアー講師などを務める。日本旅行写真家協会会員。横浜市在住。
◇著作権
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2009年1月26日