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25日に北朝鮮が実施した核実験は、地震波の分析などから成功との見方が広がっている。日米韓をはじめとする国際社会は、一斉に北朝鮮を非難しているが、北朝鮮は今後、「核兵器保有国」の地位を盾に、さらなる強硬な主張を展開する可能性が高い。「瀬戸際外交」をエスカレートさせてきた北朝鮮に対し、国際社会は有効な対抗手段を打ち出すことができない状態が続く。明確な対北朝鮮戦略を示していないオバマ米政権の次の一手に注目が集まっている。
「共和国(北朝鮮)がしびれを切らせて自分からボールを投げた。これを米国がどう投げ返すかだ」。北朝鮮政権に近い関係者は、今回の地下核実験をこう例えた。「ボール」とは、北朝鮮側の要求を米朝で話し合うための直接対話を指す。
人工衛星打ち上げを名目に、北朝鮮が長距離弾道ミサイル発射実験に踏み切って2カ月近く。▽寧辺(ニョンビョン)核施設の原状復旧プロセス着手▽使用済み燃料棒の再処理作業開始▽核実験や大陸間弾道ミサイル発射実験への言及--と北朝鮮は危機感を次々に高め、「瀬戸際外交」を進めた。だが、米国を含む国際社会は対応を先送りした。
オバマ米政権は、09会計年度(08年10月~09年9月)補正予算案に北朝鮮へのエネルギー支援費用9500万ドル(約90億円)を計上していたが、北朝鮮側の強硬姿勢を名目に今月に入り見送りを決めた。北朝鮮側には、これが「敵視政策」(北朝鮮の朝鮮労働党関係者)と映り、態度を硬化させる一因となったという。
北朝鮮は、4月のミサイル実験から5月の核実験へと危機感を高めるにあたり、▽長距離弾道ミサイル「テポドン1号」発射(98年)から米朝共同コミュニケ(00年)▽マカオの銀行「バンコ・デルタ・アジア(BDA)」の北朝鮮資金凍結(05年)からミサイル発射実験・核実験実施(06年)--にいたる二つのプロセスを念頭に置いているのは間違いない。「国際社会が反対していることを、ことごとく強行突破し、すべて好転させてきた」(同関係者)との自負があるからだ。
核問題を話し合う6カ国協議では、核検証をめぐって日米韓と激しく対立、特に日韓両国とは修復の手だてが見えないほど関係が悪化している。また、ミサイル発射をめぐって議長国・中国と緊張関係が高まり、ロシアとも、先月訪朝したラブロフ外相と金正日(キムジョンイル)総書記の会談が実現しないなど、重苦しい空気が立ち込めている。
だが、北朝鮮側には強気の読みがある。核実験によって危機感を抱いた米国が対話のテーブルに着く。そこで、あいまいな合意をまとめ上げるというシナリオだ。さらに、米国に核兵器の保有を認めさせ、核兵器保有国として米国と対等な立場で平和協定・国交を結ぶことをゴールに据えている。
「6カ国協議はすでに米朝間の了解事項を承認するだけの枠組みだ。米朝対話さえ実現すれば、各国との関係も自動的に改善させられる」(同関係者)。あくまでも標的は米国にある。
一方、国内的な事情もある。厳しい経済状況を度外視し、兵器開発にまい進するのは、ポスト金正日に向けた体制づくりを急いでいるためだ。4月の最高人民会議で、国防委員会を常設機関にしたうえ、委員数を増やし、その地位を一気に高めた。4月のミサイル発射や今回の核実験は「国防委の権威を高めるのが狙い」(同関係者)との見方が有力だ。
その狙いを北朝鮮政権に近い関係者は「将軍さま(金総書記)は後継者を明確に指名していないが、次男正哲(ジョンチョル)氏(28)と三男正雲(ジョンウン)氏(26)を軸に選定を進めている。特に、最近は軍を中心に正雲氏の権威を高める事業が盛んに進められている」と解説する。
国防委の権威を高める行程--それは「正雲氏による後継体制の盤石化を図る」(同関係者)との側面もあるようだ。【北京・西岡省二】
毎日新聞 2009年5月26日 東京朝刊