収入が低い非正規雇用の若者らにとって、家賃の負担は重い。住まいを自分たちの力で確保しようと、個人加入の組合「フリーター全般労組」(清水直子委員長)が、新宿区四谷のアパートを借り上げ組合員らに安く提供する「自由と生存の家」を開設した。今月末から、本格的に入居が始まる。
東京メトロ・四谷三丁目駅近くにある築40年ほどの木造アパート2棟を借り上げ、現在は改修工事を進めている。計16部屋で家賃は月3万5000~6万円。組合員のほか、派遣切りにあった若者らが入居予定だ。
その一人、藤堂悟さん(24)は、埼玉県内の大手自動車工場で半年間働いていたが、今年3月に派遣切りに遭った。工場近くの寮から退去を迫られ、愛媛県の実家に帰ることも考えたが、「自由と生存の家」を知り入居を決めた。
工場に勤める前は都内でアルバイトをしながら、月5万5000円のアパートに住んでいた。しかし、月収は約15万円で、賃貸契約の更新料が払えなかったという。藤堂さんは「僕らの世代は月収20万円の仕事に就けたら満足、という世界なのに、家賃の相場は高いまま。家賃が低ければ、そもそも寮付き派遣という道を選ばずにすんだ」と話す。
同労組による組合員アンケートでは、半数以上の人が年収240万円未満で、家賃・光熱費の支出が収入の3割以上を占める人が63%に上った。「自由と生存の家実行委員会」の菊池謙さんは「若者には行政の住宅支援もほとんどない。じゃあ自分たちでやろうと考えた」。共有スペースも作り、組合員らの交流の場としても活用するという。
2棟を所有する「一水社不動産部」(渋谷区)は、都心としては格安の月50万円で同労組に賃貸した。同社の原田隆一取締役は「生活に困窮する人が増えているのに、行政も不動産業界も変わろうとしない。小さな一歩の大きな実験になってほしい」と願う。
31日午後1時から、完成記念のお披露目会が現地で開かれる。改装費などへのカンパも募っている。問い合わせは同労組(03・3373・0180)。【小林多美子】
〔都内版〕
毎日新聞 2009年5月26日 地方版