北朝鮮が「再度の核実験に成功し核兵器の威力をさらに高めた」と発表した。各国の観測データは、十分な成功ではないとの見方が強かった06年の実験より、はるかに強い爆発が起きた可能性を示している。
発表通りの核実験なら国際社会のルールを無視した暴挙であり、決して容認することはできない。先月の弾道ミサイル発射の際には「人工衛星を打ち上げた」と偽装の努力もしたが、今度はそんな遠慮さえない。前回の核実験を受けた国連安全保障理事会の制裁決議への違反には、一点の疑問の余地もない。
麻生太郎首相は「断じて容認できるものではない。まずは安保理から始める」と語り、韓国の李明博(イミョンバク)大統領との電話協議では国際社会が北朝鮮に厳しく対応すべきだという認識で一致した。日米韓の連携も改めて確認した。もっともなことである。挑発的なルール違反に、安保理は断固たる姿勢で臨むべきだ。
ただ国連レベルでの対応には限界もある。北朝鮮の核問題を扱う6カ国協議は行き詰まっているが、結局はその構成国が実質的な利害関係者と言える。そして事態を打開するには、北朝鮮の意図を冷徹に見定め、的確な対策をとる必要がある。
北朝鮮は東西冷戦終結に伴うソ連・東欧社会主義圏の崩壊を機に、体制の生き残り戦略を大転換させた。その核心は、米国との関係正常化による安全保障である。クリントン政権時代の北朝鮮に有利な「米朝枠組み合意」や、ブッシュ政権末期に獲得したテロ支援国家指定の解除は、そうした戦略の一環と言える。
北朝鮮はオバマ政権にさらなる譲歩を期待した。しかし新政権の対北朝鮮政策やスタッフの陣容は整備が遅れ、早期の米朝直接交渉に消極的な姿勢が続いている。北朝鮮にとっては当て外れであり、最近はオバマ政権への直接的な非難を始めた。
北朝鮮のミサイル発射や核実験には、もちろん核ミサイルという戦略兵器確保の狙いがあり、国内向け宣伝の意味もある。最近の強硬一辺倒の動きは、金正日(キムジョンイル)総書記の健康問題や後継体制の準備に関連したものとの見方も有力だが、外交的には「早く交渉せよ」という対米メッセージの意味合いが強い。
米朝間では、北朝鮮に抑留中の米女性記者2人の解放について水面下の接触が行われている。場合によっては、これが核とミサイルを巡る交渉に発展する可能性もあろう。
ただ米国にとって北朝鮮はさしたる脅威ではない。核兵器がテロ集団の手に渡るような事態を封じることを条件に、北朝鮮の核保有を黙認するのではないか。そんな観測も流れている。北朝鮮の脅威に直面している日本としては、とうてい受け入れられない。今回の実験に関する追跡調査によって、北朝鮮の核兵器の能力が向上したという事実が確認されれば、なおさらである。
オバマ大統領は究極的な核兵器廃絶を目指す方針を示した。それならば、まず北朝鮮の核の脅威を完全除去するという具体的な目標達成に尽力してほしい。同盟国日本の懸念だけが問題なのではない。北朝鮮の核保有を小規模であれ事実上認めるような事態になれば、他の国も同様に国際ルールを無視して核開発に走る危険を排除できまい。
改めて言うが、北朝鮮の最大の狙いは米国との関係改善なのだから、この状況を活用して北朝鮮を非核化に導くことも不可能ではないはずである。6カ国協議の枠組みを再稼働させる努力も必要だ。
一方、中国もこれまで以上に強い姿勢で対処すべきである。北朝鮮はますます中国への経済的依存度を高めている。食糧、エネルギー面で、中国の助けなしには生存できない国と言える。ところが中国はこれまで北朝鮮への強い影響力を持たないと説明してきた。
実際には、北朝鮮へのエネルギー供給を調節するといった方法で圧力をかけたことがあるようだ。表立って北朝鮮の体面をつぶし、事態を悪化させる必要はない。ただ、国際ルールを無視すれば利益より損害が大きいという事実を理解させるべきである。説得の役割を果たせるのは、さしあたり中国しかあるまい。
北朝鮮は「先軍政治」と称する軍事優先の統治を掲げ、先の最高人民会議では憲法の一部改正などを行った。内容は公表されていないが、金総書記が委員長を務める国防委員会の権限を増強したようだ。公式報道機関は、日本や韓国に対する激越な非難を連日のように続けている。
異様な体制ではあるが、核兵器を使えば北朝鮮も破局を迎える。日本政府も国民も北朝鮮の暴挙に過剰反応せず、米中や韓国との協調を重視しつつ対応していくこと。それが当面、最善の選択肢であろう。
毎日新聞 2009年5月26日 東京朝刊