なぜ問題を問われるような報道が止まらないのか
「映像最優先」と「善悪二元論」が視聴者をミスリードする本質的構造だ=草野厚
(SAPIO 2009年5月13日号掲載) 2009年5月18日(月)配信
テレビの危機に鈍感な番組制作者
テレビのもうひとつの特性は検証が難しいということだ。新聞や雑誌などの活字媒体なら、もともと縮刷版やバックナンバーで再読が比較的容易であり、今はインターネットで簡単に検索できる。
これに対してテレビの場合、著作権の問題などから視聴者はテレビ局から番組のビデオを入手することが難しく、たまたま私的に録画していない限り、番組を再見することはほとんど不可能だ。アメリカにはテレビ番組のアーカイブスが多数存在し、例えばテネシー州のヴァンダービルト大学は3大ネットワークやCNNのニュース番組のビデオを保存している。視聴者はコピー代や送料などを払えば容易に番組のビデオを入手できる。ところが、日本にはそのような機関がない。つまり、番組で人権を侵害されたり、批判されたりした側、番組に重大な公益侵害があったと考える第三者が正式に反論しようにも、前提となる検証自体が困難なのである。
このように報道される側に比べて報道する側、制作する側が圧倒的優位に立っているため、どうしても「どうせ放送してしまえば終わりだ」という安易な姿勢が生まれがちだ。「不二家期限切れ原材料使用問題」報道が厳しく批判されたにもかかわらず、「マクドナルド製造日偽装問題」報道、「徳島県土地改良区横領事件」報道、虚偽だった日本テレビ『真相報道 バンキシャ!』の「岐阜県庁裏金作り」報道(昨年11月)と、テレビの不祥事が相次いでいる。その背景には検証の難しさゆえの安易な制作姿勢がある。
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