なぜ問題を問われるような報道が止まらないのか
「映像最優先」と「善悪二元論」が視聴者をミスリードする本質的構造だ=草野厚
(SAPIO 2009年5月13日号掲載) 2009年5月18日(月)配信
時間の制約による単純化
もちろん、優れた報道番組、ドキュメンタリー番組も多いし、一般のニュースでも映像だからこそ問題の本質を明確に提示したケースも多い。福田康夫首相が「あなたとは違うんです」と捨て台詞を吐いた辞任会見、中川昭一財務大臣が辞任するきっかけとなった「朦朧会見」の映像などがそうだ。映像だからこそ福田氏、中川氏の資質がリアルに伝わってきた。活字ではああはいかないだろう。
だが、映像最優先というテレビの特性は、印象操作につながりやすいこと以前に、そもそも取り上げるテーマにも偏りをもたらす。例えば年金、後期高齢者医療制度、消費税などは社会保障や税制の根幹をなす問題だが、その重要性の割にはテレビジャーナリズムはあまり取り上げない。なぜなら、そうした問題は「絵にしにくく地味」だからだ。逆に、海上自衛隊のソマリア沖派遣問題などは「絵にしやすく派手」なのでセンセーショナルに取り上げがちだ。
「地味な」問題を取り上げるにしても、困惑し、怒る高齢者や主婦などの表情を前面に押し出すことが多い。本来、制度ができたときの原点に立ち返り、本質的な政策論議を行なうべきなのに、喜怒哀楽に流れてしまうのである。
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