なぜ問題を問われるような報道が止まらないのか
「映像最優先」と「善悪二元論」が視聴者をミスリードする本質的構造だ=草野厚
(SAPIO 2009年5月13日号掲載) 2009年5月18日(月)配信
映像至上主義による印象操作
言うまでもなく、テレビの特性のひとつは、映像を中心に写真、イラスト、文字、音声、効果音、音楽などを総動員した複合メディアであるということだ。そのため、事実と論理の積み重ねで視聴者を説得することより、インパクトのある映像を用いた演出によって視聴者の喜怒哀楽を刺激することを優先する傾向が強い。かつて私はNPO法人「メディア検証機構」を立ち上げ、報道番組、ドキュメンタリー番組を検証したが、その際議論をした現場の制作者全てが「インパクトのある映像がなければテレビは成り立たない」と話した。
その結果、どこまで意図的かはともかく、過剰で、ときには間違った印象操作が行なわれてしまうのである。先の「マクドナルド製造日偽装問題」報道を問題にした際、BPOの放送倫理検証委員会は「短絡的映像至上主義による演出」と批判している。
BPOの放送倫理検証委員会、放送人権委員会が取り上げた事案はそれぞれ4件、30件だけだが(07年以降)、映像を効果的に使った演出による印象操作の例は他にいくらでもあるだろう。
かつて私が詳細に検証した番組でも典型的な例があった。00年1月、NHKが放送した阪神淡路大震災5周年番組のひとつ『復興への提言・トルコ・台湾そして神戸』である。前年に大地震が起こったトルコに日本が行なった緊急支援と現地の被災者の受け止め方を他国のケースと比較した番組だ。ODA(政府開発援助)を専門分野のひとつとする私は興味深く番組を見た。
バックナンバー記事
- NHK・総務省の天下り「地デジマフィア」が報道番組の息の根を止める (SAPIO 2009年5月21日(木))
- 社員は記者クラブでふんぞり返り厳しい現場は制作会社に丸投げする 「殿様報道局」 (SAPIO 2009年5月14日(木))
- 女たちよ、女性専用車両に乗れ!=通勤電車環境向上委員会 (SAPIO 2009年5月7日(木))
- 恋愛、結婚、就職から人質救出まで 女に都合良く利用される「男らしさ」の受難 (SAPIO 2009年5月4日(月))