なぜ問題を問われるような報道が止まらないのか
「映像最優先」と「善悪二元論」が視聴者をミスリードする本質的構造だ=草野厚
(SAPIO 2009年5月13日号掲載) 2009年5月18日(月)配信
文=草野厚(慶應義塾大学教授)
テレビジャーナリズムはいかにしてウソ≠つくか。『テレビ報道の正しい見方』(PHP新書)で、報道番組、ドキュメンタリー番組の制作過程を徹底検証した経験のある草野厚慶應義塾大学教授が、テレビ独特の手法がもたらす問題点を明らかにする。
去る3月30日、NHKと民放で作る「放送倫理・番組向上機構」(BPO)の放送人権委員会が、昨年7月にテレビ朝日『報道ステーション』が放送した「徳島県土地改良区横領事件」の報道に「重大な放送倫理違反」があったと認定し、認定内容を放送するようテレビ朝日に勧告した。
番組は事件に関連して、全国土地改良事業団体連合会会長の野中広務氏の映像や、ナレーション、コメントなどによって、土地改良事業における野中氏の影響力の大きさを強調した。これに対して野中氏が「事件と関連があるかのような作為的報道だ」と抗議し、訂正と謝罪放送を求めてBPOに申し立てていた。
07年11月の『報道ステーション』における「マクドナルド製造日偽装問題」報道では、すでに退職しているにもかかわらず、告発者に店員の制服を着せ、店長代理のバッジをつけさせて発言させた。07年1月のTBS『みのもんたの朝ズバッ!』における「不二家期限切れ原材料使用問題」報道では、ずさんな取材をもとに作成したイラストを使い、事実と異なる断定を行ない、断罪した。いずれのケースもBPOの放送倫理検証委員会に諮られ、報道姿勢を批判されている。
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