市長までやった人間が、何たる恥辱!
市長までやった人間が国会議員の言論を弾圧するという許し難い行為が起きた。警視庁組織犯罪対策4課は、国民新党の糸川正晃衆議院議員を東京都内の土地取引に関して国会質問で追及した事について、追及をやめるように圧力をかけたかどで滋賀・東近江市の建設会社「平和奥田」相談役の山元康幸を暴力行為処罰法違反の共同脅迫容疑で逮捕、その日の夜には滋賀・草津市の前市長の芥川正次も逮捕した。
糸川氏は昨年2月の衆院予算委員会で、都市再生機構(UR)が所有する東京・南青山の遊休地の隣接地を巡る土地取引について「虫食い状態のところに米国投資会社傘下の不動産会社が入っているが、この会社は非常にグレーではないか」などと質問して取引の経緯を問いただした上、調査する意向を述べた。
糸川氏が質問した南青山の土地というのは、表参道交差点に近い都心の一等地である。近くにはブランド店が立ち並ぶ国道246号線の青山通りもあり、最大地権者であるURは2003年7月に初めてこの土地の一部を取得、現在は2600㎡を所有している。今後は有効利用のために所有権を整理して民間に譲渡する予定だが、投資目的で不動産を購入した人物もいる他、暴力団が介在している情報や国会議員を通した取引話もあるなど土地整理は難航しているという事である。
この取引には平和奥田(地元滋賀ではテレビ、ラジオでもCMを流している中堅のゼネコンだという)も関わっていて、残りの土地のうちの1800㎡を地主から購入して、同じ日に米国の投資会社系の不動産会社がこの土地を取得した。この土地取引の仲介には山元が関わっており、取引で転売利益を出そうと画策していた。しかし、糸川氏が質問した衆院予算委員会の1ヵ月前に暴力団関係者がこの土地取引に関わったと報じられ、毎日新聞が件の不動産会社が土地買収の際に山口組系暴力団関係者に手数料が渡った疑惑を掲載した。この報道から始まり、糸川氏の予算委員会での質問に至った訳であるが、この質問以降、山元が交渉して契約寸前だった土地売買が白紙に戻されたり、売却した土地の買い戻しを余儀なくされて10億円を超える利益を取り損なうはめになった事は言うまでもない(ちなみに、投資会社も毎日新聞社を相手に日本円にして約116億円以上の損害賠償を求めてニューヨーク連邦地方裁判所に提訴したが、昨年末に和解した)。
この件に対して糸川氏に恨みを持った山元は芥川と共に昨年3月、糸川氏の地元である福井市内のスナックに糸川氏を呼び出す。呼び出された糸川氏は店内に入るなり、異様な雰囲気を感じたという。それもそのはずである。店内には山元と芥川の他に暴力団組長や閣僚経験のある別の衆院議員秘書ら10人が同席していたからである。
糸川氏は山元と暴力団組長に挟まれる形で座らせられ、山元は糸川氏にこう話しかけたという。
「あの質問はなんだ。今後、この件で質問する事があれば、東京の仲間たちは許さないと思う。命的にも肝に銘じてほしい」。
それから短時間ではあるが、山元と芥川は交互に脅し(暴力団組長や議員秘書は話に加わらなかった)、直後に糸川氏は「早く立ち去らねば」と急いで店を後にしたという。
糸川氏が国会でこれ以上追及すれば、取引がいっそう困難になると山元が懸念した事がこのスナックでの脅迫に至った訳であるが、事はこれだけでは済まなかった。福井での1件以降、昨年5月には衆院第2議員会館内にある糸川氏の事務所に「南青山の件、よろしくお願いします」と2回に渡って電話があり、さらに実弾入りの脅迫状も届き、11月には国民新党の綿貫民輔代表と亀井静香代表代行にも糸川氏の議員辞職を求める脅迫状が届いたという。その上、事件は土地取引取材を通して面識のある毎日新聞記者の大平誠氏にも飛び火して、糸川氏と同時期に大平氏にも実弾を同封した脅迫状が郵送されたのである。糸川氏は、山元と芥川とは福井の1件までは面識がなく、芥川が草津市長だった事も知らなかったという。
2人が逮捕された事について、糸川氏は話す。「言論を弾圧する行為は許せない。とくに守られるべき予算委員会での質問であり、不快に思ったとしても銃弾を送ったり詰問したりという事はあり得ない行為と言える。議員の発言の機会を奪おうとする行為は断固抗議をして、毅然とした態度を取っていかなければならない」。
さらに、この事件に関して信じられない事が起こった。前出の大平氏が昨年4月に糸川氏との取材を録音したICレコーダーを翌月に長年の取材協力者である、画家で元暴力団組長の山本集氏に渡し、山本氏が関わるブログに取材内容を元に作成した記述が掲載されたのである。これを知った糸川氏の秘書が指摘して大平氏が山本氏を通じて削除を依頼、削除はされたものの、既に他のブログに転載されたという。この取材の録音は糸川氏には無断で行われていたもので、毎日新聞社は「取材相手の理解なく、第3者に渡したのは記者倫理を逸脱した行為」として、大平氏を東京本社代表室付に異動させた後に諭旨解雇とし、東京本社の伊藤芳明編集局長と当時社会部長の河野俊史編集局次長を役職停止1ヵ月にするなど幹部社員合計5人を処分、毎日紙上で検証記事を掲載する事となった。糸川氏は「毎日から謝罪があった。事実とすれば、非常に残念。マスコミの守るべきところの最後の一線を越えてしまえば、話せる事も離せなくなってしまう」と毎日の対応を批判した。
さて、逮捕された芥川であるが、元首相である宇野宗佑氏の秘書を12年間務めた後(宇野氏と言えば、女性問題で首相の座を辞した事で有名である。こういった問題のある人の秘書だった事は、後に影響するのである)に1995年に滋賀県議に初当選、その後2003年の2月に草津市長選挙に立候補して現職を破り、当選を果たす。この市長選では「改革や実行、挑戦を旗印に市民の目線で物事を考え、税金は効率的に運用して無駄遣いは許さない」と訴えるが、実はこの時から黒い噂は絶えず、「何かの力が働いて市長に当選した」というもっぱらの噂だったという。
当選後は公約通りに黒塗りの公用車を売却して自転車で市役所に通い、土・日曜日の窓口業務も開始するなど、当時の職員や市幹部の間では「即断即決。今どきの市長」、「腰が低く、実行力があった」、「元気ではっきりして、職場の雰囲気は明るくなった」という高い評価を得る(芥川が逮捕された時に、近隣住民の中には「そんな事をする人には見えない。何かの間違いではないか」という事を話す人がいたというが、この人たちはこの男の「表の顔」にまんまとだまされたのである)。しかし、その「表の顔」とは裏腹に、裏では特定の建設業者と癒着し、市内の業者からは地元優遇の指名競争入札制度に改めるよう要望を受けて、それまでのA~Cの入札ランク分けを変更して7000万円以上の工事も優先的に指名できる「特A」ランクを新設した。市職員の中にもその「裏の顔」を見た人間がいるが、彼はこう語っている。
「侠気があるというか、声を荒げるなどけんかっ早い一面もあった」。
しかし、芥川の市長としての地位は1年も満たなかった。翌年の1月に市長選時の運動員が公職選挙法違反容疑で逮捕されると、時期を同じくして辞職を表明、翌月には収賄容疑で芥川本人も逮捕された。1年前には市長に当選して意気揚々と市役所に初登庁した男がお縄頂戴の身になってしまったのだが、賄賂を贈った業者の中には特Aランクの業者もいたという。こういった業者の中には、間もなく経営が傾いて倒産したところもあった。1審の大津地方裁判所では実刑判決を受けた芥川は昨年4月に2審の大阪高等裁判所で懲役2年、執行猶予5年の判決を受けて刑が確定した。この頃から噂があったのが、山元との関係である。
山元と芥川は同じ中学、高校で1歳違いの先輩後輩の間柄である。山元は金銭面の面倒を見て、その見返りに行政情報を芥川から得るという事をしていた。その関係からか芥川の保釈金も山元が支払って、保釈後は自分の仕事をあてがっていたという。2人は保釈後に芥川の家族を家に残して滋賀から千葉へ移住、糸川氏を脅した時も千葉を拠点にしていた。2人が逮捕された時は芥川の自宅は家族の出入りはあったが、芥川は不在で雨戸も閉じたままだったという。芥川はこの時、出先から家族に電話連絡を入れて「同席しただけで、脅迫はしていない。事件とは無関係」と話したという(その後の取り調べでも、同様の事を話して否認している)。
2人を知る草津市議はこう語る。
「芥川の市長時代、山元は市役所に姿を見せないなど表に出ず、陰からのサポートに徹していた。芥川は前回の逮捕で政治から足を洗うべきだったと思っている。今回の逮捕は身から出たさび」。
そして芥川の市長時代に助役だった伊波嘉兵衛現市長は「芥川の収賄事件以来、情報公開と透明度の高い市制運営を進めている中で誠に遺憾に思う」と苦々しく語る。前市長が執行猶予中に起こした再度の事件は地域に大きな衝撃を与えている。
田島泰彦上智大学教授は今回の事件について、こう語る。
「国政の最も重要な問題を議論すべき国会の活動が脅かされた深刻な事態。国会の持つある種の権威から、かつては議員活動のストレートな脅迫的言評はあまりなかったように思うが、最近はそれを意に介さない妨害工作が目に余り、怖い風潮になった。メディアや社会はたまたま起こった事件として受け止めるのではなく、もっと強い危機意識を持って事態に対応していくべきだと思う」。
市民の1人は今回の事件について、「あってはならない事。市長に選んだ反省もしないといけないが、他にまだまだ出てくるのではないか。世間に対しても格好が悪い」と語る。当然の事だが、こんな悪徳政治家は地域の恥なのは言うまでもない。芥川のような「近江どろぼう」を市長にした草津市民も、自分たちに恥を感じた事は確かと言えよう。
渾身のレポートですね。脱帽。
投稿 森下礼 | 2007-03-14 09:47 午後
いえいえ、それほどでも…。
たまたま興味があって調べただけのものですから。
恐縮仕切りです。
投稿 当馬敏人 | 2007-03-14 10:09 午後