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【蹴球探訪】

18歳のサムライ、指宿洋史に聞く

2009年4月30日

 柏レイソルユースから、スペイン2部のジローナ入りを果たしたFW指宿洋史(18)が4月19日のエルクレス戦で待望のリーグデビューを果たした。昨年11月にテスト生として練習参加してから、今年1月には同クラブと3年半の正式契約。Jリーグのユースからトップチームを経験せずにスペイン移籍するのは初のケースだ。移籍から4カ月が過ぎ、着実な成長を遂げている「ヒロシ」に話を聞いた。

(バルセロナ、工藤拓)

スペイン2部リーグでデビューし、練習にも力が入る指宿洋史(工藤拓撮影)

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突然のデビュー戦

 1月にチームに合流したが、18歳未満での国外移籍を禁止するルールにより、指宿は最初の2カ月間は登録外の立場でトレーニングを続けた。選手登録を終えたのは2月27日に?歳の誕生日を迎えた直後。3月7日のラージョ戦で初の招集メンバー入りを果たし、4月19日のエルクレス戦で待望のリーグ戦デビューを果たした。

−デビュー戦は残り10分間のプレーだったが、率直な感想は

「あんまり緊張しなかったんですよ。後半のラスト10分ですし、相手がすごく疲れていたっていうのもありますけど、できるなって感覚はありました。シュートは打てませんでしたが、まあまあボールを触り、ポストプレーなどでつなぎに絡むことはできたので」

−監督から「行くぞ」と呼ばれた時の心境は

「(出番が来るという感触は)全然なかったですね。直前の練習でそんな雰囲気もなく、監督から何か言われていたわけでもなかったので。今までアップを命じられたこともなかったので、今日はないだろうと思っていたら『行くぞ』と言われて。『ああ、行くんだ』みたいな感じでした。やれることをやろうという気持ちと、自分に対するワクワク感、『どれくらいできるんだろうな』ということが楽しみではありました。(プレッシャーは)0−2で負けている状況もあり、まったく感じなかったですね。自分のやれることを精一杯やるしかない、それ以上のことはできないので、とにかく自分の実力の範囲内で最大限のことをやろうと思っただけなので、プレッシャーや緊張っていうのはまったくなかったです」

−途中出場する際、監督からの指示は

「動きの指示とかも言われたのかもしれないですけど、すべては分からなかった。自分が聞き取れたことは、『ゴールを決めろ。お前の仕事をしっかりやってこい。ハードワークしてこい』ということでした」

−試合後、チームメートや監督からは

「チームメートはみんな寄ってきてくれて、『良かったぞ』みたいなことは言ってくれました。監督も『「エスタ・ビエン!(良かったぞ)』という感じで。うれしくはありましたけど、やっぱりチームが負けたことがすごく悔しかったので、素直に喜べるというわけではなかったです」

−実際にプレーしてみて、練習と実戦の違いは

「プレーに関しては、そこまでの違いは感じませんでした。ラスト10分なので相手もチームメイトも疲れていたというのもありますし。でも、やっぱり周りに見ている人がたくさんいることや、雰囲気は違いましたね」

一昨年、柏ユース時代に関東クラブユース予選でプレーする指宿

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日本の高校生からスペインのプロ選手へ

 日本国内でサッカー指導やスカウト業務を行なっている元バルセロナの育成コーチ、ジョアン・サルバンス氏からジローナの入団テストを持ちかけられたのが昨年の11月。同月末に1週間の入団テストを受け、最終日には合格が決定。柏のトップ昇格は果たせなかったが、あっという間に異国でのプロデビューを迎えることになった。

−入団テストの話からスピード契約となったが、スペイン行きを決断するのに迷いは

「迷いとかはなかったですね。海外でプレーしたいという夢を持っていたので迷いはなかったです。(両親ら周囲も)『任せる』という感じで、『頑張ってこい』と言ってくれました」

−昨年夏に柏からトップ昇格の話がなかった時点で、進路はどう考えていたのか

「たとえ柏の話がないとしても、やっぱりプロに進みたいと考えていたので、チャンスがあればとは思っていました。練習参加の話などがあれば積極的に参加したいと思っていましたし。もちろん柏のプロでやりたいとは思っていましたけど、それよりもプロになるっていうことが第一。プロに入ること自体がそもそもすごく難しいことなので、(昇格できずに)ショックというよりは、逆にプロに入れる方が運が良いという考えでした。もちろんショックじゃなかったと言えばうそになりますけど、切り替えて他のプロチームにどんどん挑戦していこうと。柏が上げてくれるのがベストだとは思っていましたけど、上げてくれないというより自分の実力不足で上がれなかったという現実を目の前にし、『じゃあ、次にどうするか』と考えると、プロになるためには他に挑戦していくしかなかった」

−ジローナの話を受けた昨年11月には、周囲の大半は進路が決まっていた時期だったが

「もう続々と決まっていましたね。正直焦りもありました。実際にジローナの話をもらうまでには何チームかの練習に参加しました。好感触を得ているチームはありましたし、良い関係を築けそうなチームもあったんですが、ジローナの話をもらった時点では、具体的なオファーはなかったということになります」

−そこで舞い込んだスペイン行きのチャンス。「これがラストチャンス」という気持ちは

「いや、そういう切羽詰まった感じではなくて、『どうなるか分からないけど、とにかくやってみよう。自分のできることをやってみよう』と。絶対に受かろうという気持ちではなくて、もちろん受かって入りたかったですけど、それよりも挑戦してみようという気持ちでした。ラストチャンスという危機感は全然なかったですね」

−1週間で自分をどれくらいアピールできたか

「できることはやったとは思いました。これで無理だったらしょうがないなと。あきらめるわけではないですけど、今回の件に関しては、これで無理だったら運が悪かったんだなと、そう思えるぐらいはできたと思います。(このチームで)やっていく自信はありました。どこがどうっていう具体的な手応えまではつかめていなかったんですけど、もし入れるのであればやっていけるとは思いました」

−入団テスト最終日に、合格を告げられたときの心境は

「最終日の練習が終わって、その1時間後くらいに言われたんですけど、まったく実感が湧きませんでした。その時は、日本で僕を見つけてくれたスペイン人のスカウトマン、あと僕の代理人の方もいたかな。心境は『ああ、そうなんだ』という感じでした。通訳を通して聞いたんですけど、何と言われたのかは…。(しばし熟考して)全然覚えていないですね。待っている時の雰囲気で、なんとなく受かったのが分かったという記憶はありますけど。その後、契約をまとめるまでがまた大変でしたし、本当に展開がすごく早かったんですよ。気付いたら受かっていたという感じで、まだ感情がついて来てなかったというか。別にそんなにうれしいっていうのもなかったですし、とにかく実感がわかなかったですね」

−Jリーグ未経験で、スペインのプロとなった日本人選手は初。「歴史」をつくったという実感は

「そんなことはもう全然考えてないですね。ただ単純に、自分が海外でやるっていう目標があり、そこに一歩近づけたかなっていう気持ちだけでした」

仲間に気軽に声をかけられるようになった

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海外サッカーへの意識を変えた恩師との出会い

 昨季まで柏ユースを指揮していた吉田達磨監督(現柏ジュニアユース監督)との出会いが、指宿の意識を大きく変えた。信頼する指揮官のもとで海外サッカーへの興味が芽生え、自分と似たタイプのトップクラスの選手たちの長所を吸収しがら、指宿は確かな成長を遂げた。

−もともと将来は海外でプレーしたかったということですが、具体的な青写真は描いていたのか

「日本でプロに入り、何年かプレーしてから海外に出たいという気持ちはありましたけど、まずはとにかくプロに入らないと何も始まらないと思っていたので、具体的なプランまでは考えていなかったです」

−海外サッカーは見始めたのは

「レイソルに入り、ユースの吉田監督と出会ってからです。監督との出会いがあってから、僕の中でいろいろな変化がありました。別に強制されたわけではないんですけど、薦められることはありましたし、監督のサッカーに対する姿勢がすごく勉強になり、どんどん成長していかないといけないなと感じるようになったので」

−吉田監督はよく試合を見て勉強する人?

「そうですね、もうすごいとしか言いようがないです。人間的にも素晴らしい人で、サッカーにおいても全面的に信頼できましたし。そういう監督に出会えたことはすごくラッキーでした」

−好きなリーグやチームは

「レイソルのプレースタイル、目指すモデルがバルセロナとかアーセナルだったので、そういうチームはよく見ていました。もともと好きだったというよりは、そういうサッカーを目指すチームに入ったことで試合を見るようになり、好きにもなっていったという流れですね。(今後は)どこのリーグでやりたいというよりも、世界のトップレベルでやりたいという気持ちが強いので、その時にトップレベルと言われるリーグでやりたいと思っています。常にレベルの高いところでやっていきたいと思っていますので」

−子供のころにあこがれていた選手は

「あんまりいないんですよ。当時はいたのかもしれないんですけど、今考えて頭に浮かぶ選手っていないんですよね。でも中田英寿選手が海外に行ったっていうのはすごく励みになりました。すごいな、そういう風になりたいなと素直に思いましたね」

−手本とする選手はカヌーテ(セビリア)で、アデバヨル(アーセナル)やベルバトフ(マンチェスター・ユナイテッド)も好きだと聞いたが

「共通点として、みんなでかいですよね。自分に似た体格を持っていて、しかも世界トップクラスですから、そういう選手はすべてがお手本です。何から何まで。彼らの良い部分を少しずつ吸収したいと思っています」

初めてのプロ、初めてのスペインサッカー

 日本のユースチームから、いきなりスペインのプロチームに移籍して約4カ月。ジローナのアグネ監督は「うちのFWの中で一番テクニックがある」と高く評価する。一方、体の強さ、フィジカルの違いを感じるという指宿は筋トレでパワーアップを図っている。

−日本とスペインの違いをどう感じるか

「やっぱり強さとかは全然違いましたね。フィジカルの差はすごく感じました。筋トレ重視?

そうですね。チームがメニューを作ってくれているので、それをこなしています。最初は全体的にバランスよく鍛えることからはじめ、最近では太もも、ふくらはぎ、お尻回りといった下半身に重点を置いてやっています」

−アグネ監督は「ヒロシはこちらに来てから6、7キロも筋肉が付いた」と言っているが

「それは結構大げさですけど、まあ4キロくらいは増えましたよ」

−日本で筋トレは

「日本では、足りないと感じれば自分でやることはありましたけど、チームで筋トレをすることはなかったです。僕の場合、身長を伸ばすことを優先して筋トレを控えていたというのもありました。やっぱり身長があってなんぼの選手ですので、まだ筋トレはしない方がいいかなと考えていたので」

−食事の量や中身も意識しているのか

「食事の量は自分で調整しています。中身も1日3食の中でできるだけすべての栄養素を網羅して食べようと意識しています。昼にあれを食べたから、夜はこれを食べようというふうに。炭水化物、タンパク質、脂質…ビタミン、ミネラルとかも取るようにしています。朝はフルーツが多いですね。ビタミン剤などで補ったりもしますが、やはり栄養は食事で取るものだと意識しています。日本にいた時は親がよく考えて食事を作ってくれていたので、自分でそんなに考えることはなかったです。その時の食事を参考にしてはいるんですけど、こっちでは売っている食材がそもそも違うので、自分で手探りしている状態ですね」

−アグネ監督の技術面での評価は高いが、フィジカル以外の部分では

「(監督の評価は)自分ではどうか分かりませんけど、スペインの2部リーグでも普通にやっていくことはできるかな、とは思っています」

−自分のストロングポイントはどこだと思うか

「身長の割には技術がある、ポストプレーやゴール前での駆け引きが売りのFWだと思っています。高さを生かして前線の基点となり、足元へのボールもしっかりキープし、周りを生かすことができるという感じですかね」

−逆に足りない部分、これから伸びしろがあると考えている部分は

「とにかく、今の第一課題は2部でやっていける体作りですね。技術面では、まだ十分だとは言えないですけど、2部でやれるだけのベースは持っていると思っていますし、戦術面に関しても、十分足りているというわけではないですけど、基礎的なものはユース時代に培ってきたと思いますので。まあまだ若いので、フィジカルにしても技術面、戦術面にしてもすべてに伸びしろがあると思います」

−FWが6、7人いる状況で、ポジション争いを勝ち抜くには

「今は監督の信頼をつかむことが一番だと思っています。試合でチャンスをもらえたら、FWで一番アピールできるのは得点だと思っているので、得点を決めて、しっかりアピールして少しでも多くチャンスがもらえるようにしていきたい。ジローナは手数をかけず、シンプルにゴールを目指す。やっぱりFWなので、常にゴール前で駆け引きをすることが大事かなと。イメージとしては、自分は常にゴール前で駆け引きをして、一瞬のスキを見つける。そこに味方がボールを運んできてくれると思うので、それを決めるっていうところですね」

−スペインに来てから意識が変わった点は

「やっぱり一番変わったのは、ゴールを意識することです。あとは監督に認められないと試合に出ることはできないと思っているので、監督が何を要求しているのかっていうのをすごく考えるようになりました」

−日本で感じていたプロの世界と、スペイン2部の違いは

「レイソルでは数回練習に参加しただけなので、正直何とも言えないですね。でも、ジローナの方が選手と監督との距離が近いというところは感じます。今の監督が若く、元ジローナの選手だっていうのはあるかも分からないですけど。まだ1チームしか知らないので何とも言えないですが、こっちは基本的に上下関係がないというか、選手間でも言いたいことがあればはっきり言いますし」

異国での生活と、スペインでのこれから

 家族との生活から、いきなり異国での一人暮らしとなったが、指宿はすんなりとジローナの街にも溶け込んでいるようだ。チームメートはもちろん、さっそくファンたちが「ペーニャ(応援団)・イブスキヒロシ」を結成し、18歳のバースデーを祝福した。

−チームメートや練習の雰囲気は

「すごく良いです。チームメートはすごく温かいですし、積極的に絡んできてくれることですごく助かっています。(ペーニャ結成も)やっぱりすごくうれしいです」

−スペインでの生活は

「今のところは別に、そこまで困ったということはないです。1人暮らしも何とかできていますし、そういう部分でも強くなっていかないといけないのかな、とは思っていますね。(スペイン語の勉強は)まあ、ぼちぼちですね(笑)。授業が1対1なんでキツイですけど。今は2つある過去形の、動詞の不規則活用をいろいろと覚えているところです」

−練習には通訳がついても、それ以外の生活はすべて1人だが

「チームメートと満足に話せないっていうのはつらいですけど、普通に生活する分には、言葉が話せなくても身ぶりとかで伝えることはできますし、何とかなっちゃうんでそこまで困ったということはないです。でもやっぱり、一刻も早く話せるようになりたいですね」

−最後に、スペイン1部、Jリーグ、日本代表など、今後の自分のキャリアについては

「いろいろなチームでプレーしてみたいという気持ちはありますが、今は目先のことだけで正直いっぱいいっぱいになっちゃうところがあるんで、具体的にはあまり考えていません。今、現時点でジローナの一選手としてしっかり試合に出られるようになって、結果も残して…。その先に何が生まれてくるかはまだ分からないです」

−「一日一日を精いっぱい過ごすのみ」だと

「そうですね。今はそれしかできないと思うので」

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 ▼指宿洋史(いぶすき・ひろし) 1991年2月27日、千葉・流山市生まれ。幼稚園の頃からサッカーを始め、小学校4年から高校3年まで柏の下部組織に所属。トップチーム昇格はならなかったが、昨年11月末に、スペイン2部のジローナの練習に参加し、今年1月に3年半のプロ契約を結んだ。背番号は「10」。今月19日のエルクレス戦で後半36分からの途中出場で公式戦デビュー。193センチの長身ながら足元の技術にも長けたストライカーで、U−16、17日本代表にも選ばれた。

 

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