第5回日本・太平洋諸島フォーラム(PIF)首脳会議(太平洋・島サミット)で麻生太郎首相が太平洋島しょ国に今後3年間に500億円の支援を表明した。「エコで豊かな太平洋」環境分野、人間の安全保障、人材育成などの分野向けで、環境分野は68億円となっている。
ここ数年、大洋州向け援助実績は100億~130億円台であり、3年間500億円はかなり高い。中国がこの地域でプレゼンスを高めようとしていることへの対抗との見方もあるが、日本の09年度の政府開発援助(ODA)供与目標約1兆3000億円との見合いでは、それほど多くはない。温暖化には地球規模での対策が不可欠なことを考慮すれば、積極的な支援は当然だろう。
太平洋地域のみならず島しょ諸国は97年の温暖化防止京都会議(COP3)当時から、先進諸国に温室効果ガス削減で高い目標を設定することを求めていた。海水面の上昇や異常気象による台風やサイクロンなどの強大化の被害にさらされるからである。
日本は08年から温室効果ガスの排出削減と経済成長を両立させることを目指した途上国支援策である「クールアース・パートナーシップ」を実施している。温暖化被害をほぼ一方的に受けている太平洋地域の島しょ諸国への支援はその目的にかなっている。ただ、今回の「クールアース・パートナーシップ」関連の支援額は、温暖化の影響が最も先鋭的に表れる地域であることを勘案すれば少ない。500億円の中の配分を増やすなり、それと別枠で環境関連協力を行う仕組みを作るべきだ。
この地域は観光や水産業などに頼る経済構造だが、その基盤は強くない。日本は太陽光発電や海水淡水化などの協力を柱にしているが、温暖化による被害防止などでも積極的に支援を行っていく必要がある。国土の維持が危うい状況では、国づくりや持続的な経済社会の発展もありえない。
そこで問われるのは、日本は温暖化防止でどれだけの努力をしていくのかである。現在、13年以降の温室効果ガス削減の中期目標設定が大詰めを迎えている。日本経団連は20年時点で90年比4%増のシナリオを主張している。被害を受ける国は納得できないだろう。地球益に立った行動が求められている。
日本はこれまでODAの戦略化を進めてきた。太平洋諸国は国連で日本の常任理事国入りを支持するなど成果が表れている。PIFと日本による太平洋環境共同体の創設も、日本が環境技術や人材育成などで貢献でき、戦略援助といっていい。同時に地球益に資する。
毎日新聞 2009年5月25日 東京朝刊