多賀城市で05年5月、飲酒運転のRV(レジャー用多目的車)が仙台育英高生の列に突っ込み同高1年生の3人が死亡、生徒ら15人が重軽傷を負った事故から4年がたった22日、仙台市や多賀城市で飲酒運転の根絶を呼び掛ける会合が開かれた。毎年5月22日は県飲酒運転根絶条例で「飲酒運転根絶の日」と定めている。県と県警は県庁で「飲酒運転根絶県民大会」を開催し、一人息子を飲酒運転事故で亡くした造形作家の鈴木共子さん(60)が講演。鈴木さんは「飲酒運転は人としてやってはいけない」と訴えた。【須藤唯哉、渡辺豊】
「飲酒運転根絶県民大会」には村井嘉浩知事や大山憲司県警本部長、仙台育英高の生徒や交通安全協会などの関係者ら計約450人が参加。大会の冒頭に黙とうをささげ、亡くなった3人の冥福を祈った。
鈴木さんは「絶望からの出発(たびだち)」と題して講演した。一人息子の零(れい)さん(当時19歳)は00年4月9日未明、神奈川県座間市内で、友人と帰宅中に後ろから来た乗用車にはねられ橋から転落。19メートル下のコンクリートに打ちつけられ、全身打撲で即死した。乗用車を運転していた男性は結婚式の帰りで飲酒運転だった。
鈴木さんはその5年前に夫を病気で亡くしてから、唯一の家族だった零さんも失い、深い悲しみに暮れた。しかし、飲酒運転の厳罰化を求める署名活動を展開。01年に37万人以上の署名を集めて国に提出し、危険運転致死傷罪の成立に尽力した。一方、造形作家として事件や事故の犠牲者を等身大の板で表現する「生命(いのち)のメッセージ展」を全国の小中学校などで開催している。
講演では「アルコールは感覚だけではなく、理性もまひさせる」と述べ、「一人一人の生き方の姿勢が問題なのではないか。生きていることが当たり前ではなく、精いっぱい生きていれば飲酒運転はしないと思う」と訴えた。講演後、会場は温かい拍手で包まれた。
大会では大山県警本部長が交通事故死者数(21日現在)を「35人で前年より2人減少しているが、ゴールデンウイーク以降、増加傾向に転じ予断を許さない状況」と報告。大会後には、仙台育英高の生徒らが「飲酒運転しない させない 許さない」などと書かれた横断幕や看板を掲げて、県庁から広瀬通交差点まで約1キロを歩いた。
一方、多賀城市でも22日夕、飲酒運転根絶市民大会が、同市八幡1の事故現場近くの店舗駐車場で開かれた。
大会には、仙台育英高生ら約400人が参加。犠牲者に黙とうをささげ、「飲酒運転根絶」を宣言した。
参加者はその後、現場の国道45号の歩道で、飲酒運転やスピード違反への警告ボードを通行する車に掲げて安全運転を呼び掛けた。さらに、約200店の飲食店を個別に訪問し、「飲酒運転をしない・させない」「運転者には酒を出さない」ことへの協力を呼び掛けた。
県警交通指導課などによると、今年1~4月の県内の飲酒運転取り締まり件数は、前年同期比26件減の144件。その一方で、飲酒運転による人身事故件数は、前年同期比で1件増えた38件となった。このうち死亡事故は4件4人で、前年同期と比べて1件1人増加した。
取り締まり件数が減少しているにもかかわらず、飲酒運転による人身事故や死亡事故が増えていることに関し、同課は「検問に引っかからない潜在的な飲酒運転がまだまだある」と分析。「飲酒運転は『違反』ではなく『犯罪』であるという認識を今後も広め、行政や家庭、地域と連携して飲酒運転の根絶に努めていく」としている。
また、6月1日に改正道交法が施行され、呼気1リットル当たりアルコール濃度0・15ミリグラム以上0・25ミリグラム未満の違反をした場合の免許停止期間が30日から90日に延びるなど、飲酒運転に対する一層の厳罰化が進む。【垂水友里香】
毎日新聞 2009年5月23日 地方版