新型の豚インフルエンザの広がりがメキシコと米国で確認されてから、24日で1カ月。世界保健機関(WHO)の最新集計(日本時間23日午後3時現在)で、感染者は45カ国・地域に拡大し、1万2022人で、うち死者は86人。この間、専門家らの分析も進み、感染力や症状の実像が明らかになってきた。
どこまで感染が広がるのか。国立感染症研究所などのチームは、「物差し」となる1人の患者から感染する人数を示す「基本再生産数(R0(ゼロ))」の調査を進めている。ウイルスの特徴、人の免疫や動きなどから推計する。同じウイルスでも一定ではなく、地域や時期で変わる。1以上のときは感染が広がり、1未満になると流行が終わる。
WHOなどが米科学誌サイエンス(電子版)に発表した論文では、メキシコの4月末時点でのR0は「1.4〜1.6」。専門家は「素早く感染者を見つけないと、短い期間で感染者はどんどん増殖するレベル」と指摘する。
普通の季節性インフルのR0は平均で1より少し高い程度といわれる。新型インフルの日本での数値はわかっていないが、メキシコと同程度かやや高いとみる専門家もいる。浦島充佳・東京慈恵会医科大准教授(公衆衛生学)は「日本で多い高校生の患者を分析すれば、メキシコより高い可能性もある」とみている。授業や部活動で接触機会が多いからだ。
R0は行動を制限して感染者との接触を減らしたり、ワクチンで免疫を持つ人を増やしたりすれば低くできる。稲葉寿・東京大准教授(数理人口学)は「手洗い、マスク、人込みをさけるなどでも、ある程度抑えられる」と話す。
一方、若年者ほど感染したり、症状が重くなったりしやすいことがわかってきた。
メキシコでは約3700人の感染者のうち、0〜9歳が最も多く1046人、10〜19歳は943人、20〜29歳が754人。亡くなった74人では、20代が最多の21人。20歳未満も10人いた。60歳以上は4人しかいない。お年寄りが重症になりやすい季節性インフルと様相が違う。
米疾病対策センター(CDC)がカリフォルニア州で入院した30人を分析したら、4割にあたる13人が19歳以下だった。このうち5人は、もともとの健康状態には特に問題はなかった。全米の感染者約6500人のうち、5〜24歳が6割以上を占め、65歳以上は1%ほどしかいなかった。
WHOの感染症地域アドバイザーだった東北大の押谷仁教授は新型について「『弱毒』だから何もしなくていい、そんなウイルスでは決してない」と訴えている。(小堀龍之、田村建二)