司馬遼太郎は小説を書くとき、「その舞台となる風土ぐるみで人間を書いていきたい」(文春文庫「歴史と風土」)と考えていた。
時代が人を生み、風土が人を育てるといわれる。古代から先進的な文化を受容し、豊かな風土にはぐくまれた岡山県は、時代の転換期を切り開くあまたの逸材を輩出した。
郷土が生んだ、そんな人物群像に光を当てた「岡山の先人たち」展を岡山市デジタルミュージアムで見た。古代国家の礎を築いた吉備真備、鎌倉新仏教の法然、栄西、画聖・雪舟ら約三十人の顔触れをみれば、歴史上の確かな足跡が再認識できる。
ゆかりの品々を含め詳しく紹介しているのは、希代の名文家・内田百〓、五・一五事件に倒れた犬養木堂元首相、日中国交回復の立役者・岡崎嘉平太ら近代の先人だ。演説などの肉声も聞け、時代の息吹に触れられる。
興味深いのは、食べたい献立を記した百〓の「御馳走(ごちそう)メモ」を基に料理などを画像で再現したデジタル展示。油揚げを焼いてしょうゆをたらし、ジュンといったところをバリッと食べる「揚げじゅんばり」など命名もユニークだ。
時代と向き合った先人たちの志に思いを寄せれば、混迷の現代を生き抜く知恵が生まれるかもしれない。先人という“遺産”を生かす手だてを考える契機にもしたい。
(注)〓は門がまえの中に月