日本の温室効果ガス排出量を二〇二〇年にどの程度減らすかという中期目標をめぐり、議論が熱を帯びてきた。大幅削減を求める声の一方で、産業界は低い目標を主張している。政府は六月末までに目標を決めるが、厳しい判断となりそうだ。
政府の中期目標検討委員会は四月、一九九〇年比で25%減から4%増まで六つの選択肢を示した。4%増はこれまでとほぼ同水準の省エネ努力を続けた場合で、例えばハイブリッド車など次世代車は新車販売の約10%を占める。選択肢の一つの7%減では次世代車を新車販売の半数にする必要がある。25%減では九割となり、太陽光発電は現在の五十五倍必要で炭素税も導入しなければならない。
日本経団連は今月中旬、この中で4%増の目標を選択すべきとの意見書を発表した。国内産業の競争力維持には削減費用を欧州連合(EU)や米国と同等にする必要があるとして試算した結果だ。これに対し、斉藤鉄夫環境相がこの目標では「世界の笑いものになる」と否定的な見方を示すなど、政府内からも後ろ向き姿勢に批判が出た。
経団連などは続いて、温暖化対策による経済への影響を強調し、低い目標を求める内容の意見広告を全国紙に出した。これにも環境相が情報提示の仕方などに疑問を呈している。
中期目標は、京都議定書に続く温暖化対策の国際的枠組みづくりに密接に関連する。次の枠組みには米国のほか中国やインドの積極参加が不可欠だ。日本を含む先進国が高い目標を設定しなければ、中印両国などを説得することはできまい。
対策には確かに費用がかかるが、逆の見方もできよう。日本はハイブリッド車や太陽電池、リサイクルなど多くの環境技術で世界をリードしている。低い目標設定は技術力への疑いを招かないか。経団連の言とは逆に高い目標を示し、挑むことが日本の技術力のアピールにつながるのではないか。環境相も低い目標設定は「優位な地位を捨てること」と述べている。最近、各国で環境産業を育成する「グリーン・ニューディール」が語られ始めてもいる。
温暖化が進めば洪水や渇水が頻発し、熱中症なども増えて死者が増加、巨額の被害が出る可能性がある。経済界はこの点にはあまり言及していない。
中期目標の策定を通じ、次の世代にどんな姿の社会を手渡すかが問われている。環境相の言う「野心的な中期目標」を設定すべきであろう。
有力後援者からの不正資金供与疑惑をめぐって収賄容疑で韓国検察当局の調べを受けていた盧武鉉前大統領が、自宅近くの山から飛び降りた。家族あての短い遺書も残され、精神的に追い詰められた末の自殺という衝撃的な最期である。
盧氏の疑惑は、夫人や親族に計六百万ドル(約五億七千万円)の資金提供があり、これらが大統領の職務に絡んだわいろの可能性があるとされた。盧氏が資金受領を認識していたかどうかが焦点だった。
最高検は先月末、盧氏をソウルまで呼び出して事情聴取。盧氏はほぼ容疑を否認したが、立件は避けられない情勢で、最高検は近く逮捕状を請求するか、在宅起訴にするか最終的な判断を行う見通しだった。人権派弁護士出身で、清廉なイメージを売り物にしてきただけに韓国国民の落胆も大きかった。
盧氏の自殺で捜査は打ち切られ真相解明は困難となった。悲劇的な結末に、検察が強引に捜査を進めたとの批判も出ており、韓国政界の新たな対立の火種となる恐れもある。
盧氏は、二〇〇三年から〇八年まで大統領を務め、金大中政権の対北朝鮮への「包容政策」を継承した。日本とは靖国神社参拝や竹島(韓国名・独島)問題をめぐり強硬姿勢を取り、米国とも対立した。しかし、若い世代の支持を受け、韓国政治の権威主義や地域主義に風穴を開けたとの評価もある。
韓国では大統領経験者が刑事責任を追及されるケースが目立つ。一九九五年に逮捕された軍人出身の全斗煥、盧泰愚両氏に次いで盧氏は三人目となった。金泳三、金大中氏の場合は家族らが摘発されており、強大な権力の集中する大統領周辺の汚職は韓国政界の宿弊ともいえる。政治改革が急務である。
(2009年5月24日掲載)