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教育支出、鈍い伸び 少子化他国は上昇

 ◇OECDデータ…1人当たり予算と「成果」の考察

 経済協力開発機構(OECD)がデータ集「図表で見る教育(08年版)」を公表した。各国のさまざまなデータを比較すると、日本と外国の教育に対する意識のギャップが浮かんでくる。【加藤隆寛】

 ◆対GDP比で最下位

 「残念です。この国は教育で発展してきたんだから」。今月12日の会見で、対国内総生産(GDP)比でみた05年の公的な財源からの教育支出(教育予算)が28カ国中最低だったことについて、感想を問われた鈴木恒夫文部科学相は顔をしかめた。

 教育予算は対GDP比3・4%で日本として過去最低を記録し、前年3・3%で最下位だったギリシャにも抜かれた。日本は、家計からの学費支出など「私費負担分」が教育支出に占める割合が31・4%(OECD平均14・5%)と高い。だが、私費負担分を含めた教育支出全体でみても、対GDP比は4・9%でOECD平均(5・8%)を大きく下回り、00年の水準(5・1%)からも低下した。

 教育予算を巡る議論では、OECD平均並みの水準を目指そうとする文科省に対し、財務省が「日本は少子化が進んでいる。1人当たり予算では主要国と変わらない」という反論を続けてきた。しかしOECDのデータからは、日本の1人当たりの教育支出の伸び(00年からの5年間)が他国に比べ、かなり鈍いことが分かる。少子化が進んでいる国はハンガリーやポーランドなど多数あるが、それぞれの伸び幅は大きい。

 OECD教育局は、少子化の進展に合わせて教育予算も減らしていくことの妥当性に疑問を投げかけ、「若者が少なくなっている時こそ、一人一人により高度な教育を受けさせていかなければ、他国と同じ成果を上げていくことはできない」と指摘する。

 ◆高い教員報酬は称賛

 教育局は一方で、「日本は『ベストパフォーマンス』が見られる国の一つ。学校制度が非常に効率的だ」と称賛している。これはどういうことなのか。

 日本はデータ上、(1)教員給与が高い(2)学級規模が大きい(3)授業時間が少ない--という特徴がある。教育にかかるコストという観点で見れば、「(2)と(3)で引き下げたコストを(1)に振り向けている」ということになる。教育局は「報酬を上げ、職場環境を良くすることで質の高い人材が集まり、よい教育につながる。韓国などにも同様に見られる特徴」と分析する。

 日本では近年、少人数教育の方が高い教育効果を上げるという考え方が主流になっている。しかし、「イタリアやポルトガルの学級は小規模だが、よい学習成果を上げているとは言えない。他がまったく同じ条件下なら小規模学級の方が対応しやすいが、同じ金を投資するなら、教員報酬や指導時間を増やした方が高い効果が期待できる」というのが教育局の見解だ。

 しかし、留意すべき点がある。教育局が「成果」としているのは、国際的な学習到達度調査(PISA)の結果や、大学など高等教育機関の修了率。日本は中退率が突出して低く、修了率90%はデータがある19カ国中断然トップ(OECD平均は69%)だ。ただし、学位取得の難易度は考慮されていない。大学生の学力低下が問題視され、卒業認定の厳格化が議論されている日本で、修了率の高さを「よい教育の成果」とみることには無理があるだろう。

 ◇将来見据えて投資確保を--OECD教育局のアンドレアス・シュライヒャー指標分析課長の話

 この10年、世界的に質の高い教育への需要が劇的に高まっている。しかし、日本の教育支出の伸びは、経済の伸びや他国の伸びに追いついていない。日本も決して教育支出が減っているわけではないが、他国はかなり急上昇している。日本が教育以外の分野を優先させる政策選択をしてきたことの表れであり、他国とは違ったトレンドを見せている。

 データが示す教育投資のメリットは、個人レベルなら「人生の後半でより高い収入を得ることができる」ということだ。公共部門では、例えば「高い税収が得られる」という点で、投資をはるかに上回るリターンがある。

 少子高齢化が進むと、医療や年金、社会福祉などへの支出のプレッシャーが高まる。社会を維持することだけでなく、将来に向けて教育への投資をどう戦略的に確保していくかということが、日本の課題になる。

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 ◇OECD加盟国の小学校の教育コストの比較(06年)

 ・給与は勤続15年教員の年収を1人当たりGDPで割った値

 ・学級規模は1クラスの児童数

 ・授業時間は9~11歳対象学年の年間平均(必修のみ)

国名       教員給与(%) 学級規模(人) 授業時間(時間)

日本       1.54    28.3     774

オーストラリア  1.20    23.9     978

オーストリア   1.02    19.7     767

ベルギー     1.21     --      826

チェコ      1.11    20.2     766

デンマーク    1.13    19.5     783

フィンランド   1.09     --      640

フランス     1.01    22.5     887

ドイツ      1.57    22.1     782

ギリシャ     1.18    18.9     889

ハンガリー    0.82    20.0     601

アイスランド   0.79    18.2     792

アイルランド   1.19     --      941

イタリア     1.01    18.4     891

韓国       2.29    31.6     703

ルクセンブルク  0.89    15.8     847

メキシコ     1.50    19.8     800

オランダ     1.15    22.4    1000

ニュージーランド 1.41     --       --

ノルウェー    0.67     --      728

ポーランド     --     20.1      --

ポルトガル    1.58    19.0     854

スロバキア     --     19.7      --

スペイン     1.31    20.7     794

スウェーデン   0.88     --      741

スイス      1.38    19.4      --

トルコ      1.61    27.2     720

イギリス     1.31    24.5     900

アメリカ     0.97    23.1      --

OECD平均   1.22    21.5     810

 ※「-」は比較可能なデータなし(カナダはいずれもデータなし)。ベルギーはフラマン語共同体の値、イギリス(学級規模除く)はイングランドの値を使用

毎日新聞 2008年9月22日 東京朝刊

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