週刊・上杉隆

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【第78回】 2009年05月21日

新型インフルエンザ騒動で冷静さを欠く日本人とメディアの異常

 確かに、鳥インフルエンザやエボラ出血熱などの致死率の高いものならばいざ知らず、対処療法も特効薬もあり、場合によっては自覚症状すらない弱毒性のインフルエンザに、ここまでナーバスになる必要があるのかどうか疑問だ。その友人はこうも言っている。

 「仮に、米国の街中でマスクを着用していたら、その人がインフルエンザに罹っているとみなされる可能性が高い。おそらく、なぜ病気なのに街を出歩くのかと、不快を示されるだろう」

 日本では、予防のためにマスクの着用が推奨されている。だが、ところ変われば、まったく逆の認識を示されることもあるのだ。文化的、国民的な背景の差があるとしても、こうした誤解が増幅するのが何より恐ろしい。

「潔癖症」とも言うべき
日本のインフルエンザ報道

 それにしても、死者も出ていない国でここまで大騒ぎしているのは日本か韓国くらいのものだろう。

 思えば不思議なものである。日本では毎年、通常型のインフルエンザが原因での死者が何人も出ている。単なる風邪から肺炎などを併発させて死に至るものもいる。そうした例をここまで報道したことはないだろう。

 日本の報道は、徹底的に感染を未然に防ごうという「潔癖症」ともいうべき特徴があるように思われる。その報道だけに接していれば、まるで感染したら最期かのような報じ方だ。加えて、感染者はあたかも犯罪者のように扱われる。ゆめゆめ病気にもなれない社会、これは不健全な現象ではないか。

 一方で、米国をはじめとした他の国のメディアが比較的冷静に映るのは、そもそも48時間以内のタミフル投与など治療法が確立している上に、生命を脅かすものではないという認識を伝えているからだろう。仮に感染しても、適切な処置を行なえば、問題はない。よって感染者が圧倒的に多く、死者も出ているにもかかわらず、報道量が日本ほど多くない。政府・行政の対応は、過剰でも構わないが、メディアはさまざまな情報をあわせて、より冷静な報道を行なうべきではないか。

 実際、そのためだろうか、政府はインフルエンザ対策の運用方針の見直しを決めたようだ。水際作戦と称して実施していた空港での隔離措置を緩和し、機内検疫を中止する方向で再考している。

 だが、メディアの反応はますます過剰になっている。

 都内でもマスクが飛ぶように売れている。薬局・コンビニでは売り切れ店が続出し、イベントを中止し、スポーツ大会の開催の是非まで検討されるほどだ。

 今頃になって「冷静になってください」とメディアは呼びかけている。だが、もっとも冷静さを欠いているのはそのメディアだということをそろそろ認識した方がいいのではないだろうか。

関連キーワード:社会問題 メディア

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執筆者プロフィル

写真:上杉隆

上杉隆
(ジャーナリスト)

1968年福岡県生まれ。都留文科大学卒業。テレビ局、衆議院議員公設秘書、ニューヨーク・タイムズ東京支局取材記者などを経て、フリージャーナリストに。「ジャーナリズム崩壊」「官邸崩壊 安倍政権迷走の一年」「小泉の勝利 メディアの敗北」など著書多数。最新刊は「宰相不在 崩壊する政治とメディアを読み解く」(ダイヤモンド社)。

この連載について

永田町を震撼させる気鋭の政治ジャーナリスト・上杉隆が政界に鋭く斬りこむ週刊コラム。週刊誌よりもホットで早いスクープ情報は、目が離せない。