韓国の盧武鉉前大統領が自殺した。収賄容疑で検察の事情聴取を受けていた。韓国ではこれまでも大統領やその一族による不正蓄財が繰り返された。政治風土の変革が課題だ。
「私のせいで多くの人が受けた苦痛はとても大きい」。家族にあてた盧氏の遺書の文面だ。貧しい家庭に生まれ苦学の末に弁護士となり、大統領にまで上り詰めた。痛ましい限りだ。
盧氏は激情型で、妥協を好まない人だった。容疑は否定したが、起訴される可能性が高かったといわれる。自ら命を絶ったのは、大統領を務めたプライドだったかもしれない。
盧武鉉政権(二〇〇三−〇八年)が社会に新風を起こしたのは確かだ。権威主義の打破、金権政治からの脱却を掲げ、多くの労働者や若者の支持を得た。非政府組織(NGO)関係者らが政権スタッフとして加わり、市民の政治参加を促した。
一方で、盧氏が過去の政治の清算にこだわりすぎたため、国政はしばしば混乱し、外交でも日韓関係が冷却化した。ただ、自らの政権について「不正、腐敗とは縁がない」と自負していた。在任中の汚職、選挙違反の摘発は歴代政権と比べ明らかに少なかった。
ところが退任後、検察は有力後援者から盧氏の家族や親族に日本円換算で五億円以上のカネが渡った疑いで、盧氏と夫人、長男らの事情聴取をした。
背景には韓国の政治風土がある。任期五年の大統領は絶大な権力を持つ。また古くからの地縁、血縁主義が色濃く残る。利権のおこぼれにあずかろうとする縁故者が盛んに近づいてくる。
歴代政権にはいつも不正、腐敗があった。十四年前には全斗煥、盧泰愚という大統領経験者が収賄罪などで逮捕された。続く文民政権時代では金泳三氏の次男、そして金大中氏の二人の息子がそれぞれ企業から請託を受け、見返りに巨額の金銭を受け取ったとして訴追された。大統領の強大な権力を背景にした犯罪だった。
盧政権も例外ではなかったようだ。政権後半には盧氏と同郷の人物がしばしば要職に起用され、それとともに不正資金疑惑が相次いで浮上した。
韓国は経済発展と民主化を着実に進めてきた。だが権力の腐敗は保守、革新を問わず、恒例であるかのように繰り返される。政治風土を変えていく、地道な取り組みを期待したい。
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