政府が閣議決定した「二〇〇八年度農業白書(食料・農業・農村の動向)」は異例の構成となった。汚染米不正転売や労働組合のヤミ専従問題など相次ぐ不祥事について陳謝し、その後に本題として食料自給率向上への課題などを取り上げた。
「おわび」には冒頭の二ページを割いた。汚染米問題では「消費者の食の安全に対する不安を招いた責任は重大」と農林水産省の非を認め、全力で改革に取り組む姿勢を示した。
農水省は国民の生命に直結する業務を担いながら、これまで生産者や農業関連団体などへの対応に偏重していた感は否めない。職員の意識改革を徹底し、消費者本位の視点で仕事を進める組織に脱皮しなければ、信頼回復は望めないだろう。
本題の食料自給率問題では、世界的な食料需給の逼迫(ひっぱく)懸念は依然として強いと指摘。輸入依存度の高い麦・大豆への転作や、米粉の需要拡大などで作付けされていない水田をフル活用して食料自給率の向上を急ぐべきと強調した。
方向性は理解できるが、今さら何をと言わざるを得ない。特に麦や大豆の生産振興の必要性は、古くから指摘されてきた。農水省もコメの生産調整(減反)に伴う主要な転作作物として作付けを奨励してきたが、あまり成果は上がっていない。
〇七年度の食料自給率(カロリーベース)は40%に回復した。これは〇六年秋ごろからの麦や大豆の国際価格高騰で、パンなどが値上がりしてコメの消費にシフトしたためという。将来的には人口減などでコメの需要減少は確実視される。
コメ生産では一九七〇年代から減反が本格化し、強化の結果、今では水田の約四割で稲作ができない。これが生産者の意欲を奪い、休耕田や耕作放棄地の増加などにつながっている。減反の限界は明らかだろう。
コメに頼らない水田のフル活用は長年の課題だ。減反見直しへの異論は根強いが、重要なのは生産者が創意工夫を発揮して足腰の強い経営体となり、麦や大豆などの生産も拡大する構造改革ではないか。
政府は今春、減反の廃止や緩和など見直しの影響を試算した。これをたたき台に議論を深めるべきである。
各政党は次期衆院選が迫り、問題を先送りしようという空気が強いが、減反の在り方は日本の食糧安全保障にも影響する。マニフェスト(政権公約)に掲げ、有権者に問うぐらいの姿勢を示してもらいたい。
公文書の管理方法を統一する政府提出の公文書管理法案が今国会で成立する見通しとなった。自民、民主両党が修正合意したからである。
政府は三月、公文書の適切な管理、保存により「国民への説明責任を全うする」と明記した管理法案を国会に提出していた。これまで公文書管理は事実上各省庁任せだったが、法案は各省庁に対して文書の保存期間やその後の取り扱いを「行政文書ファイル管理簿」に記載し、首相に年一回報告することを義務付けた。首相の判断で各省庁の文書管理状況を把握する実地調査を行い、改善を勧告できる規定も新設した。
民主党は、公文書の管理、保存体制のさらなる強化を主張して対立していた。要求は、法律の目的に国民の知る権利の明記や、公文書を「国民共有財産」と位置付けるほか、公文書管理基準の法制化、一元的管理に向けた「公文書管理庁」の設置などだ。廃棄に関し、首相の同意義務付けも求めた。
修正協議の結果、公文書は国民の「知的資源」との位置付けが新たに盛り込まれた。公文書管理庁設置は見送り、管理基準は政令で定めるとしたが、文書廃棄判断では首相の権限を強化するほか、五年後をめどに法律を見直すことで折り合った。
今国会での成立見通しは喜ばしい。年金記録などのずさんな保存実態が次々と明らかになっただけに、役所側に一定のルールにのっとった公文書の管理、保存を義務付ければ政策決定過程の透明化が期待できよう。だが、欧米各国と比べると文書の保存、廃棄をめぐる判断基準や権限にはあいまいさが残る。新法成立で満足はできないが、透明な公文書管理体制の確立に向け、次への確かな足掛かりにしなければならない。
(2009年5月23日掲載)