【ソウル大澤文護】韓国の盧武鉉(ノムヒョン)前大統領(62)が23日、死亡したことで、前大統領とその家族らをめぐる不正資金疑惑の捜査は頓挫することになった。前大統領を支持してきた韓国内の進歩勢力が、政府に対する抗議や批判を激化させることは確実で、韓国政局は一気に緊張状態に入るとみられる。
韓国検察当局は4月30日、前大統領をソウルの最高検察庁まで呼び出し、収賄容疑で事情聴取した。
検察は、前大統領の在任中、有力後援者から、夫人や親族に計600万ドル(約5億7000万円)などの金品が渡った事実を把握し、前大統領が在任中に、この事実を知っていたかどうかを中心に深夜まで聴取を続けた。しかし前大統領は「辞任後、(家族による)金品受け取りの事実を知った」と主張し、容疑を強く否定。これに対し、前大統領を支持する勢力は、事情聴取当日も最高検前でデモや抗議活動を継続。今月に入ると、ソウル市内でたびたび集会やデモの開催を企図し、警察と激しくぶつかる事態が発生。さらに、労働組合による大規模集会が韓国中部・大田市などでも起きたことから、韓国政府は、デモの事前届け出制の強化や、催涙弾の使用許可を検討するなど、対立姿勢を強めていた。
こうした状況の中で、前大統領が死亡したことで、野党側は政府や捜査当局による「圧力」が死亡原因となった可能性を激しく追及するのは間違いない。これに対し李明博(イミョンバク)政権は、国民への冷静な対応を呼びかけると同時に、野党の反政府行動に対する警戒心を高めるとみられる。
46年8月6日、韓国慶尚南道金海市生まれ。釜山商高卒業後、独学で司法試験に合格し「人権派弁護士」として民主化闘争事件の弁護活動に従事した。
88年に国会議員に初当選。海洋水産相などを歴任した後、02年12月の大統領選で当選し第16代大統領に就任。08年まで務めた。
80年代の学生運動出身で「反米・反日・親北朝鮮」の傾向が強いスタッフを政府機関に多数配置。金権選挙の改善、外交文書公開などの成果の一方、格差拡大、不動産価格の上昇を招いた。退任後は故郷で自然農法の研究に取り組み、政治の表舞台から姿を消していた。【ソウル大澤文護】
毎日新聞 2009年5月23日 東京夕刊