朝鮮人従軍慰安婦を考える会(手紙 女たちの太平洋戦争)

 日本が朝鮮人女性を従軍慰安婦として強制連行した事実を在日同胞女性の視点からとらえ直そうという声が大きくなっている。その中心は、東京の歯科医師金英姫さん(39)、会社員金富子さん(33)、薬剤師金薫子さん(30)らのグループ。同グループは先に「従軍慰安婦問題を考える在日同胞女性の会」(仮称)をつくり、「私たちは忘れない 朝鮮人従軍慰安婦ー在日同胞女性からみた従軍慰安婦問題」と題したパンフレット(B5版、60ページ)を発行している。秋をめどに従軍慰安婦問題で、改めて地域や年代を超えた広がりを持つ在日同胞女性の会を結成する。
 金英姫さんらは会結成のため、毎月1回準備会を開く一方、慰安婦問題について勉強会も開いている。会のメンバーは韓国籍か、朝鮮籍かにこだわらない。「従軍慰安婦問題を在日同胞だけでなく、日本人、とくに女性に知ってもらいたい。そして、韓国の女性たちとも連携して運動を進めたい」という。
 パンフレット前書きにあるように、金さんらは「私たちをとりまく社会が朝鮮人として生きにくい社会(民族問題)であるばかりか、女性としても生きにくい社会(女性問題)であるということが見えてきました。過去、朝鮮人女性が人間として生きられなかった原因にふたをしたまま、はたして今、朝鮮人女性が人間らしく生きることができるでしょうか」と主張する。従軍慰安婦問題を現在と未来の問題としてとらえようとしているのだ。
 韓国挺身隊問題対策協議会の尹貞玉代表も次のようなメッセージを寄せている。尹さんは梨花女子大の前教授。以前から慰安婦問題に関心を持ち、各地で取材し、資料を集め、研究してきた。
 「戦時中、日本は朝鮮に強制徴用、強制徴兵制を実施し、『天皇』の『赤子』である『皇軍』にささげる『下賜品』として従軍慰安婦を戦場に送った。しかし、実際のところ、慰安婦は品物以下の『共同便所』扱いだった。彼女たちは、敗戦と同時に捨てられたり、米軍の空襲を口実に塹壕や洞穴の中で集団爆殺されたりした。生き残ったものは、私の知りうる限り、今日まで肉体的な病気と心理的な病に苦しんでいる。彼女たちは他人を避け、極度に閉じこもった生活をしている。自分たちが従軍慰安婦だったという事実が、家族や近所の恥になると思っているからだ。日本政府は賠償はおろか、戦後 46年が過ぎた現在も従軍慰安婦の事実を認めようとさえしない。それは、生命と愛の絡んだ性を蹂躙した犯罪である」

<朝日新聞 1991年08月12日>