(2003/2/5に天野正道氏を招いて行われた「東京ミュージック&メディアアーツ尚美
管弦打楽器専攻生による第20回管Aウインドコンサート」。その中のプログラム、天野正道氏の「交響組曲第2番“GR”
THE ANIMATION〜地球が静止する日〜」(のちに「交響組曲第2番“GR”より“トレインチェイス”」と改名)演奏直前に交わされた、天野正道氏と当日の指揮者・佐藤正人氏による対談の様子です。)
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普段どのようなお仕事をされているのかをちょっとだけお話いただけますでしょうか。
「普段ですかー。盆栽いじりですね。盆栽いじり。」
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(客席に向けて)すみません、笑うところです(笑)
「一応音楽の仕事をしております。確かに。はい。」
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先生の吹奏楽の作品にたくさんお目にかかることがあるんですけれども、メインにされているお仕事、GRもそうなんですけれども、普段ブラウン管で見るようなアニメですとか映画の音楽を担当されているようですけれども、そのお仕事のほうはいかがですか?
「そうですねー。アニメーションの音楽とか映画、最近はあまりやっていませんけれどもコマーシャル、もうちょっと昔だとポップス関係とかやってましたね。今日は久しぶりに貫田先生(デジタルミュージック学科講師)と会ってびっくりしちゃったんですけれども。一緒に布施明さんのアレンジとか曲を書いていましたから。…そういうこともやってます。まあジャンル問わずですね。」
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少しお時間頂いて…、先生、吹奏楽と出会ったのはいつごろですか?
「何年前でしょうねえ。中学校の2年生です。」
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じゃあ、吹奏楽部で?
「はい。」
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楽器は何を?
「楽器は、最初はトロンボーンを吹いていました。それで、クビになってテナーサックスにまわされて、またクビになって最後フルートになったっていう…(笑)」
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僕が知っている天野先生はもう高校でフルートを吹いてましたね。シェエラザードのソロを吹いていましたよね?
「ええ、はい。」
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…なんていう印象があるんですが、何で作曲を志したんでしょうか?
「ん〜、たぶん中学校2年生の時ですね。ちょっとアレンジやったんですよ、バンドのね。それで味を占めたっていうか。音楽って、皆さん聴くの楽しいですよね?それで演奏するのも楽しいですよね?それで、創るのってある意味でもっと楽しいんですよ。同時にもっと辛いってとこもあるんですけれども。」
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ちなみにプログラムには先生のプロフィールをこれを機会にガバッと載せたんですけれど、先生あの〜、どなたに作曲を…?
「えー、大学では増田宏三先生、高田三郎先生、あと入学する前に、私、芸大の学科で落ちたもんですから、野田暉行先生とかについていましたね。」
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今回の作品(「交響組曲第2番“GR”
THE ANIMATION〜地球が静止する日〜」)、実はこれ、吹奏楽のためにご自分の作品を改訂して頂いた作品なんですけれども、私たちがよく吹奏楽コンクールやコンサートなどで耳にするこの「GR」について、今日初めて聴く方もいらっしゃると思うのでどんな作品か解説していただけますか?
「そうですね、もともとはアニメーションの音楽なんですけれども、1992年に1巻目を作りました。OVAって言いまして、オリジナルビデオアニメ、テレビとかで放送するんじゃなくてレンタルビデオ屋さんで借りるとか売ってたりとか、それ専用に作ったアニメなんですよ。それで、全部で7巻ストーリーとしてはありまして、全部終わるまでに7年かかっちゃったんですよね。ストーリーの中では1週間の話なんですけれども、作ってからは1年に1巻で7年かかっちゃった作品でして。当時、この音楽はずっとワルシャワフィルで録音していたんですけれども、それまで日本のアニメーションっていうのはそれだけデカイ編成はなかったんですよね。宇宙戦艦ヤマトが全部で50人ぐらいでスタジオ録音。これが今まで日本の中で一番大きい編成だったんですが、そのヤマトをやっていたプロデューサーのとこで働いていた連中が何人かこれを作りまして、じゃあそれを超えてやろうって、最初はそういう理由だったらしいんですけれども。それでちょっと縁がありましたから、ワルシャワフィルでフル編成で録ったっていうのがあるんですね。」
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何でワルシャワだったんですか?
「いや〜、最初ワルシャワのオーケストラとフィリピンのオーケストラとどっちにしようかってあったんですよ。まあ、それはプロデューサーの伝手があったんですけれども。それで、フィリピンのオーケストラもすごくいいオーケストラなんですね。アメリカっぽい音がして。ワルシャワは国立のオーケストラで、重厚な音で。作品の内容からいってアメリカ的な音色よりは重たいほうがいいんじゃないかなってことで。まあそういうあれだったんですよね。」
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ちょっと変なことを聞いてもいいですか?GRってどんなお話なんですか?7年分をしゃべると今日終わってしまいますが…(笑)
「ええ、たぶん全部話したら…(笑)。まとめて一言で言うと、『ロボットアニメ』。これだけですね、一言で言うと(笑)。これだと怒るでしょうから、あの、いわゆる子供向けのアニメって訳でもないんですよ。エネルギー問題と親子の愛情を扱った話でして。まあ今は原子力ですけれども、未来のエネルギーの話、それが的になった話なんですね。それプラス因縁じみた話がたくさん入ってまして、最終的には親子の愛情の問題という二つの柱がある、SF仕立ての話なんですが。」
――
この作品の音楽 …ずっとアニメですから、僕たちがクラシックで勉強する、例えばワーグナーなんかも登場人物が音になってますよね?先生もそういうのを意識して創られてるんですか?
「ええ、やっぱり登場人物のライトモティーフですね。ワーグナーなんかと同じく、そういうことをやってますね。昔でしたらバレエ、オペラ、それと同じようなミュージカル、そういうのも今の映画とかアニメーションとかと一緒の感覚なんですね。ですから、一つの大きな物語の音楽ですからライトモティーフ、登場人物のテーマっていうのは何度も出てきますね。」
――
主人公の・・誰でしたっけ?
「草間大作。」
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ちょっとやってみましょうか。今日譜面準備してあるので。
[ ここで、Aバンドが草間大作のテーマ部分を演奏する。(「交響組曲第2番“GR”より」の最後で演奏されるコラール風のメロディーがそうです)
]
――
これが何回かいろんなところに出てきますね。
「それでまあ草間大作って主人公なんですけど、彼のお父さんが草間博士、この人がジャイアントロボっていうロボットを作ったわけなんですよ。それがBF団っていう悪の組織に持って行かれちゃうわけですよね。お父さん殺されちゃって、それで国際警察機構っていう、まあインターポールみたいなものに草間少年が入りまして、そこでも一つの親子の因縁みたいなものが出てくるっていう、主人公としての役割があるわけですよ。」
――
エネルギー問題っていうテーマだったみたいですがどんなエネルギーを?
「結局、今の原子力にあたるようなもので、シズマドライブっていうエネルギーがありまして、電池みたいなものですね。それが無公害、全然クリーンな素晴らしいエネルギーなんですけれども、それがちょっと物語を見ればわかるんですけど欠陥がありまして…。最初のうち私も全然わからなかったんですけどね、どういうことか。7巻まで見てやっとわかったっていうやつなんですけれども。それで、そのエネルギーをある悪の組織が止めちゃうんですよね。ここに副題で地球が静止する日って書いてあると思うんですけれども、世界中のエネルギーが全部動かなくなっちゃうってことが絡めてあります。ただ、それはまあ作り話ではあるわけですけれども、そのシズマドライブを現在の原子力に置き換えると、およそ同じようなことなんですよね。諸刃の刃というか、そういう風なちょっといろんな複雑な話が入っているわけなんです。」
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まだまだ皆さんも聞きたいことがたくさんあるかもしれませんが、最後に。先生はヨーロッパで活動されているせいもあって、いつもあることを作品の中に気持ちを込めながら曲をお書きになっているとお聞きしたんですけれども、よかったらそれを会場の皆さんにお話しいただいて締めくくりにしたいと思うんですけれども。
「そうですね。あの、祈りって言ったら変ですけれども、音楽ってひとつすごい力があると思うんですよね。言葉関係なく思想関係なく、国境から全て垣根を越えて音楽のジャンルを問わず伝えることができると思うんですよ。やっぱり我々、今この時代に生きていて“作曲家”って言ったって何もできません。ほんとに無力ですよね、我々ひとり一人は。…今もちょっときな臭いことが起きていますけど。やっぱりそういうことに対して祈りを込めてというか、気持ちを込めて何かやって、それが演奏する皆さんにも伝わって、それがお客さんに伝わって、少しずつ何か変化していく…。そういうことが実際にあったんですけれども、そういう力を音楽って持っていると思うんですよ。だからまあ、そういうものを少しでも創って役に立てればなという、そういう気持ちで書いていますけどね。」
――
ありがとうございました!
(2003年2月掲載)
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