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人類を襲う未知の病原菌 |
全身に倦怠感があり、37.2度の微熱があった。 治療にあたった中村医師は、旅行先で生ものを食べたのではないかとして、急性胃腸炎と診断。 下痢と嘔吐による脱水症状を補い、胃腸炎の薬を投与するため点滴が行われた。 Aさんがしきりに痛みを訴える右足を見てみると、全く異常は見られなかった。 点滴によってAさんは下痢と嘔吐が治まり少し落ち着いたため、この日は整腸剤のみを処方し、Aさんは一旦帰宅した。 だが翌日、Aさんは再び内科の救急外来を訪れた。 足の痛みは堪え難いものになっていた。 |
壊死が進行する右足切断のため手術室へ。 すると!!右足の壊死の範囲が拡大、しかも左足も壊死が始まっていた!! 未だかつて直面したことがない病状に医師達は凍り付いた。 Aさんの血圧が急激に低下し心拍が停止。 懸命の処置でAさんはなんとか蘇生したが、呼吸は微弱で足の切断に耐えられない状態だったため、手術中止を決定。 壊死を食い止めようと、病室で様々な抗生物質が投与されたが壊死はさらに進み、翌日の午後7時44分、死亡が確認された。 最初に病院を訪れてからわずか46時間、あらゆる処置を上回る症状の進行だった。 だが、この異常な事態は他の病院でも起こっていたのだ!! |
だが2日後、Bさんは激しい痛みを訴え病院に運び込まれた。 左腕は壊死し始めていた。 その時、医師はある感染症に思い当たった。 それは、かつてアンビリバボーでも紹介した人食いバクテリア、『A群レンサ球菌』。 A群レンサ球菌は、普段は普通の風邪を引き起こすバクテリアであるが、稀に歯止めの効かない劇症型に変化することがある。 そのメカニズムは解明されていないが、発病すると手足から壊死が広がり死に至る。 2000年当時、千葉県内ではこの感染例が20件ほど報告され、症状や対処法などが知られていた。 A群レンサ球菌ならば、ペニシリン系の抗生物質がよく効くはずだった。 だが、大量のペニシリンを投与しても症状は抑えられなかった。 入院からわずか37時間後、Bさんは死亡した。 |
未知なる症例を目の当たりにした中村医師と同僚達は、原因究明に乗り出した。 さっそく、亡くなったAさんから採取された血液などの分析が行われた。 すると、血液中や壊死した組織の中にそれが潜伏していた。 中村医師は間もなく、その恐ろしい悪魔が30年程前に発表された論文の中にそれが存在していたことを知る。 長崎大学医学部の教授らによって1978年にひっそりと発表されたその論文には、『急激に体が腐り、死に至る』という症例が写真つきで紹介されていたのである。 |
皮膚の下の筋肉の膜を破り壊死させ、やがて急性の敗血症によってわずか3日で命を奪う殺人バクテリア。 効果的な抗生物質を投与すれば命を救うことは可能だというが、少しでも対応が遅れると死亡率は飛躍的に上がってしまう。 では、ビブリオ・バルニフィカスはどうやって感染するのか? ビブリオ・バルニフィカスは海中に存在し、海水が20度を超えると増殖が速くなり、魚介類に付着しそれを生で食べた人の体に入り込むのである。 発症直前、東南アジア旅行から帰国したAさんは、帰国前日ホテルのレストランで生の魚介類を食べていた。 またBさんは発症前日、釣りに出かけ、釣った魚をその場で刺身にして味わっていた。 さらに入院中だったCさんは、発症前日に家族が差し入れた生の魚介類を食べていたのだ。 それらはビブリオ・バルニフィカスに汚染されていた可能性が高く、それが感染ルートとなって発症したのだと推測された。 さらにビブリオ・バルニフィカスは手足の傷などから感染することもあるという。 |
Cさんは肝硬変で入院していた。 また、AさんもBさんも肝臓を患っていたのだ。 肝疾患になると体内の鉄が過剰状態になる、ビブリオ・バルニフィカスは鉄過剰状態で増殖しやすくなるのだ!! そのため、体に鉄が溜りやすいとされる男性に感染例が多かった。 |
その予防策は、よく火を通してから食べること。 さらに、包丁やまな板などの料理器具も十分流水で洗い流す必要がある。 肝臓に疾患がある人や、感染に注意をする必要がある人はもちろんだが、健康な人も稀に軽い下痢や腹痛を起こすこともあるというので注意が必要だ。 もうすぐ夏、地球温暖化の影響を考えればビブリオ・バルニフィカスの驚異は例年以上に高まっているのかもしれない。 |
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