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社説:薬のネット販売 混乱の原因は厚労省だ

 一般用医薬品(大衆薬)のインターネットを含む通信販売の規制が問題を積み残したままスタートする。厚生労働省は反対論などに考慮し今後2年間の経過措置として、薬局がない離島居住者と、顧客がこれまで使っていた薬に限ってネット販売を認める妥協案をまとめ、22日に開いた舛添要一厚労相直属の検討会で議論したが、意見はまとまらなかった。同省は見切り発車の形で6月から実施する計画だが、混乱が心配だ。

 薬の販売方法は健康に密接にかかわる問題で、国民の関心も高い。薬事法にはネットを含む通販の規定がないが、厚労省は安全性を重視する立場から薬の対面販売を原則としてきた。しかし、ネット販売を規制しなかったため通販が広がり、薬害被害者の団体などから厳格な対応を求める声が上がった。

 同省は専門家会議を設置して議論し、昨年9月に薬のネット販売を規制する省令案を公表した。これによりネット販売はビタミン剤など低リスクの薬だけに限定し、副作用リスクが高いH2ブロッカーやかぜ薬、頭痛薬などは買えないことにした。

 薬のネット販売規制の6月実施が決まると、日本オンラインドラッグ協会やネット業界から強い反対の声が上がり、ここから厚労省の迷走が始まった。舛添厚労相は実施を目前に控えた2月、「不備があれば見直す」と、新たに検討会を設置した。しかし、利害が反する業界団体の意見は予想通り平行線をたどり、検討会は意見集約を放棄した。異例の事態と言わざるを得ない。

 同省は経過措置を提案して乗り切ろうとしたが、委員の意見は一致せず、報告書を示すことができなかった。経過措置についても過去の購入歴をだれが、どのようにチェックするのか、なぜ離島の人だけを特別扱いするのかなど、課題や疑問が残っていることも指摘しておきたい。

 検討会は最初から最後まで異例ずくめの展開だった。なぜ、こんなにも混乱したのか。それは、薬事行政を担当する厚労省の姿勢が揺れ、明確な方向性を示さなかったためだ。検討会を提唱した舛添厚労相は最後の会議に参加しなかった。

 薬販売は安全性と利便性を、どうバランスさせるかが難しい。安全性を重視して対面販売を原則とすれば、薬局に行けずネットで購入している人の利便性を損なうからだ。対面販売をどう考えるかによって、ネット販売の賛否が割れているが、具体的な根拠は示されず、感情的な議論が目立ったのは残念だ。安易な妥協案で薬販売の課題や問題点を覆い隠すのは厚労省が取るべき道ではない。賛成・反対論を縮めていく努力を厚労省は続けるべきだ。

毎日新聞 2009年5月23日 東京朝刊

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