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社説:新型方針改定 重症化防ぐ手だても

 新型インフルエンザは「恐れ過ぎず、侮らず」という姿勢が、ますます重要になってきた。政府の方針改定に基づき新たに公表された指針の運用にあたっても、そのバランスを忘れないようにすることが大事だ。

 新たな指針では、検疫を縮小し、国内対策に重点を置くことにした。インフルエンザの性質からも、国内で感染が拡大している状況からも、それが妥当な方向だ。地域の状況に応じて柔軟に対策を分けることも、現実的な対応だろう。

 多くの人が軽症で治ることを念頭におけば、感染が拡大している地域で軽症者に自宅療養を勧めることも理にかなっている。学校や保育所などの休業も、効果が期待できる範囲がおのずとあるだろう。

 ただ、ウイルスの病原性が低いからといって、「季節性インフルエンザとまったく同じ対応でだいじょうぶ」と気を緩めるのは早計だ。

 症状が軽くても、これは多くの人が免疫を持たない新型ウイルスである。感染者が増えれば、結果的に重症者も増えるだろう。最終的にどの程度の健康被害が出るか、まだ予測できない部分がある。

 米国のデータでは、高齢者は発病する人も重症化する人も少ない。一方で、入院患者の3割が5~18歳の若者、4割が19~49歳の成人だという。ぜんそくなどの持病のある人や妊婦に加え、健康な人の中にも重症化する人たちがいる。

 この傾向が続くと、日本でも若者や成人に重症者が出るようになる恐れがある。数カ月先まで見越して、重症者の治療体制も今から考えておいた方がいい。

 妊婦を守る対策も重要だ。インフルエンザが疑われる妊婦を感染者が集まる発熱外来に誘導するのではなく、臨床症状に応じて抗ウイルス剤を処方できるよう、医療現場で工夫してほしい。

 侮らないという点で、個人の感染拡大防止策も大事だ。こまめな手洗いはもちろん、せきやくしゃみは手で覆わず、ティッシュなどで覆うことが大切だ。手に付着したウイルスを机やドアノブなどに付けないためだ。症状があったら、学校や会社を休むのも基本だ。

 新型対策の基本方針については、官房長官や厚生労働相らがそれぞれ発言しているだけではない。政府の対策本部には専門家諮問委員会が助言しているが、厚労相はこれとは別に、国内対策について専門家から意見を聞いている。

 多様な意見を聞くことや、迅速な情報提供はもちろん重要だが、政府としての系統立てた意思決定と統一的なメッセージも大事だ。その両方が備わってこそ、国民の信頼感にもつながるのではないだろうか。

毎日新聞 2009年5月23日 東京朝刊

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