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インタビュー 高橋 伸夫 氏
 
 
 

「日本型年功制」の報酬は「次の仕事」

――高橋教授が主張している「日本型年功制」ですが、年功制では差をつけられないという意見があります。

高橋:  それは間違っています。そもそも「日本型年功制」は「年功序列」とは違うのです。

高橋 伸夫氏  
 

 私が20代の頃、教養学部で助手を勤めていた時、日本生産性本部(現:財団法人 社会経済生産性本部)で夜間の社会人向けコースを担当していたことがあります。そこでは、夜になると、40歳前後のサラリーマンが集まってきていた。私の任務は「グループ研究の指導講師」だったのですが、指導と言っても彼らの方が年上だし、当時は経営学というよりは数理計量的なアプローチの研究をしていたこともあって、結局ずっと彼らの話を聞くことにしたわけです。1年の半分くらいを毎週夕方5時半から終電近くまで、それを約15年間、数千時間もサラリーマンの話を聞いてきました。

 するとね、「年功序列」の会社なんて一社もないわけですよ。どの会社でも当たり前のように、社員の給料や役職に差をつけている。よく、年齢に比例して賃金が右肩に上がっていく図を見ます、「これが年功序列だ」と。確かに全体の平均値をとれば、年齢が上がれば給料も上がる図が描けます。しかし、平均値だけ見て「日本の企業は差がつかない」という結論にはならない。そこで、年功序列という言い方自体が間違っているように思ったのです。

──差はついているのだけれど、外からは見えにくいということですか。

高橋: 日本企業の昇給や昇進というのは、あからさまではないけれど、その内実は歴然とした差があります。20年くらい前に各世代のサラリーマンに対して質問したところ、若い人は「年功序列だ」と言い、40歳代になると「実力主義だ」と言う。つまり、入社して最初のうちの給料はほとんど横並びで変わらないのですが、徐々に差がついてきて、40歳になるとその違いがはっきりしてくるのです。

 給料だけでなく役職も同じで、若い社員にとって最初の肩書きである「係長」という役職にも実は軽重があります。ある会社で同期がどんどん係長に就任しているのに、その中で一番優秀なヤツがなかなか係長に昇進しない。どうしたのかと思っていると、ある日突然社内ですごく重要な係長ポストが空いて、スポーンとそこにはまるわけです。その時点で「ああ、なるほど。係長にも軽重があるんだ」とみんな気づく。最初から差をつけているのですよ。

 実際、40歳代の役職の分布を見ると、上は取締役から下は平社員という人まで実に様々。これは年功序列とは言えません。

──成果主義によるお金の報酬がダメだとすると、日本型年功制の報酬は何でしょう。

  高橋 伸夫氏
   

高橋:  元々日本の会社における報酬のシステムは、「次の仕事で報いる」という形でした。これが古くからある日本型年功制の核なのです。しかも、こうした仕事の与え方をすることで、処遇に大きな差が出てくることになる。なぜなら、ある仕事を達成すると、もっと大きな仕事を任せられる。その大きな仕事を達成すると、次にはさらにもっと大きな仕事が任せられるからです。「大きな仕事」というのは、予算規模と人員規模という意味です。

 予算規模が大きいということは、それだけ大きな数字を残せるようになるということです。もともと予算規模が大きい仕事を任せられないと、その人が大きな成果を挙げることなんてできません。また人員規模が大きな仕事を任せられるということは、すなわち、その人が“偉くなった”ということを意味します。昇進しないと大きな組織を抱えられないからです。つまり、仕事が大きくなれば、それに合わせて成果や処遇も大きくなる。40代にもなると、仕事の内容を見ても、差がついていることが分かります。

 ではなぜ「年功」と呼ぶかというと、年齢別に賃金の最低ラインを支払っているという意味なのです。日本型年功制は生活費保障給型賃金をベースにしています。会社は、社員全員に対して生活には困らない分だけの給料を支払っている。そこから上か下かは、本人の能力や努力次第なのです。




 
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