感染の広がり具合に応じ、自治体などが実情に合わせた対応をすることが可能になった。新型インフルエンザで政府がきのう決めた新たな対策である。ただ「水際作戦」の発想を引きずっている点は、釈然としない。
新たな対策のポイントは、患者が発生した地域を二つに分類したことだ。大阪府や兵庫県のように急増している地域では、柔軟な対応ができるようになる。
例えば入院。これまでのように「一律」ではなく、ぜんそくや糖尿病など慢性疾患があり、症状が重くなる恐れのある人たちを優先させる。
症状が軽い人には、自宅での療養を認める。感染の疑いのある人は「発熱外来」ではなく、一般の医療機関でも受診できる。
急速にウイルスがまん延してしまった地域で、これ以上の感染を食い止めようとしても難しいだろう。ならば、ある程度広がるのは仕方がないとして、重症化を防ぐ「第二の予防線」を張ったともいえよう。
大阪府などの動きを、遅まきながら国が追認した格好である。逆に言えば、今までの「一律入院」の方針が、実態とずれていたということだ。
それは、致死率が60%という毒性の強い鳥インフルエンザを想定していたからである。
ところが今回のウイルスは感染力は強いが、毒性は弱い。タミフルやリレンザなど、治療薬の効果も期待できる。感染者の多くは軽症で、短期間で快方に向かっている。むしろ毎年冬に流行する通常のインフルエンザの方に似ているという。弾力的な方針に変えたのは当然といえる。
ただ政府は、患者の発生の少ない地域では、これまで通りの方針を変えない。しかしどちらの地域に住んでいようが、多くの人は感染しても自宅で安静にすれば自然に治る、と専門家は指摘する。これでは住民に「二重基準」と受け取られないか。
大事をとろうとする気持ちは分かる。しかし物々しい水際作戦によっても、海外からのウイルスの侵入は防げなかった。同じことを国内で繰り返すことにならないだろうか。
緊急度が高くないのに、医療スタッフを疲弊させてしまえば、いざ毒性の強いウイルスが現れた時に大丈夫か、と心配だ。医師や看護師の数は限られている。結果的に、症状が深刻になるかもしれない慢性疾患のある人や妊娠中の女性への対応が手薄になるようでは本末転倒だ。
これからウイルスが変異して毒性が強まる可能性もあるという。国と自治体は連携し、感染者の数や症状、流行しているウイルス株などの監視を怠ってはなるまい。情報公開も欠かせない。
九十年前のスペイン風邪は二年間に三度も世界を襲い、毒性も強まっていった。油断はできない。この夏、そして来るべき冬を見据え、長期戦を覚悟して備えを万全にする必要がある。
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