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豚インフルエンザにかかるのは若者が多い。今回も、高校生の感染者が多い。ではなぜ、若者が多いのか? なぜ、中高年はあまり罹患しないのか?
私の見解
豚インフルエンザにかかるのは若者が多い理由は、「若者には免疫がないせいだ」
という説が思い浮かぶ。前日の「東京でも感染者」の項目でも、その説を示した。
ただし、そこでは、否定的な評価を記した。次のように。
「過去の免疫が影響しているのかもしれない。(……だが、これはちょっとありえそうにない。あるかもしれないが、あまりありえそうにない。)ところが、私の評価とは逆のことを示す報告が出た。つまり、「若者には免疫がないせいだ」ということを、肯定する。次の記事がある。
《 新型インフル、57年以前生まれには免疫? CDC見解 》──
新型の豚インフルエンザの感染者に若い人が多いのは、1957年より前に生まれた人の一部には免疫があるためらしい。そんな見方を、米疾病対策センター(CDC)インフルエンザ対策部門のジャーニガン副部長が20日、会見で明らかにした。
同副部長によると、スペイン風邪の流行が始まった1918年以降、世界で流行していたのはH1N1型。アジア風邪の流行が始まった57年以降、H2N2型が流行するようになった。
今回の新型ウイルスは、57年まで流行していたウイルスとはかなり異なるが、H1N1型。中高年の人の血清を調べたら、今回の新型に対しても何らかの防御反応性があることがわかったという。
中高年の人に何らかの免疫があるとすれば、新型対応ワクチンが使用可能になった場合、若い人を中心に接種していく方法も考えられる。
( → 朝日新聞 2009-05-22 )
もっともらしい話だが、いくらか難点もある。
「アジア風邪の流行が始まった57年以降、H2N2型が流行するようになった」
というのは、正しくない。近年、流行しているのは、H2N2型(アジア風邪)だけでなく、H1N1型(ソ連風邪)もあるし、H3N2型(香港風邪)もある。三つともあるのだ。だから、たいていの人は、三つに感染して、三つに免疫が(少しは)ある。
ただ、A型インフルエンザの特徴として、免疫は持続しない。だから毎年、新たに感染者が出る。
ここまでは医学常識。
とはいえ、免疫は、完全には持続しないとしても、いくらかは持続するだろう。とすれば、過去の感染者は、いくらか免疫があるので、三つのタイプのいずれにも感染しにくい。また、感染しても軽症で済む。……そういうふうにも考えられる。そして、その考え方が、上記の記事では肯定されたわけだ。
ただし、前日の項目では、私はそのような見解に否定的だった。それには、理由がある。なぜなら、若者だって、たいていの人は、三つに感染して、三つに免疫が(少し)あるはずだからだ。「若者ならばどんどん感染する」ということはなくて、「たいていの若者も感染しない」というふうになるはずだからだ。
とはいえ、よく考えると、次の可能性もある。
「たくさんいる若者のうちには、ソ連風邪にまだかかったことがなくて、免疫のない人も、かなりいそうだ」
その可能性がある。だからこそ、前日の項目では、否定をするにも歯切れが悪かった。否定的ではあったが、完全否定ではなかった。
そして、その可能性の通りのことが、まさしく事実だった、ということらしい。つまり、
「多くの若者は、すでにソ連風邪の免疫を得ているのだが、十数年の人生において、いまだソ連風邪の免疫を得ていない若者も、かなりいる」
というわけだ。
たしかに、何千万人もの若者がいれば、いまだソ連風邪にかかったことのない人も、いくらかはいるだろう。そういう人は、免疫がないから、豚インフルエンザにもかかりやすい。それゆえ、他の年代に比べて、若者ばかりが豚インフルエンザにかかりやすい。……そういうことらしい。
実際は、「ソ連風邪に感染した履歴があるか否か」であるから、「若者ほどその可能性が高い」ということになるが、あくまで全体における感染者の比率は少ないはずだ。
若者であっても、大部分はソ連風邪に感染して免疫があるはずだから、若者であっても、大部分は心配はない、ということになる。
そもそも、感染した若者も、いずれはソ連風邪か豚インフルエンザにかかる運命にあったのだから、豚インフルエンザにかかったぐらいで騒ぐようなことはない、ともわかる。
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結論。
今回の記事の示すところは、曖昧さが残り、事実だと断言できるほどではない。何かがはっきりと判明したわけではない。([ 付記 ]を参照。)
ただ、次の仮説が重みをもつようになった。
「若手のなかには、ソ連風邪の免疫を持たない人がかなりいて、そういう人が、豚インフルエンザにかかりやすかった。そのせいで、若者が豚インフルエンザにかかることが多かった」
この仮説は、もともとあったのだが、血清を調べることで、いくらか信憑性を増した。
そして、この仮説の意味は、
「A型インフルエンザに対しても、過去の免疫体験の効果は、いくらか持続している」
ということだ。
とすれば、若者を除く中高年の大部分は、大騒ぎをしなくていい、ということになる。感染しにくいし、感染してもどうってことはない。
(実際、メキシコでは、大多数の人では問題がなかった。そうするうちに、もはやすっかり収束してしまった。 → 前々項 の最後 )
日本感染症学会の見解
上記のことを書き終えたあとで、新たな情報を得た。
日本感染症学会から、「緊急提言」というものがなされたのだ(21日)。この件は、前項で述べているとおり。
緊急提言は、8点あるが、そのうち、次の点が興味深い。
(3) 新型が流行すると青壮年層の被害が甚大となるのには理由があります
この説明を抜粋すると、次の通り。
1918年から大流行したスペインかぜでは青年・壮年層を中心に世界中で4000万人の死亡者が出ました。今回の新型インフルエンザでも初発地のメキシコでは高齢者に被害が少ない一方で若年層に大きな被害が出ています。この説明は、本項で先に述べたことと、おおむね合致する。(つまり、若者には、感染した経歴がない。一方、中高年には、免疫のメモリーが残っている。)
我が国ではこれについて、若年層では炎症反応が過剰に発現してサイトカインストームによる被害が拡大するためとの見解もあります。
しかし、スペインかぜだけでなく、その後のアジアかぜや香港かぜの際にも初期には若い年齢層に被害が多く見られ、数年後に被害は高齢者中心に移行することが観察されています。
高齢者の多くは過去に型の変異したインフルエンザの洗礼を何度も受けたため免疫のメモリーがありますが、若年層ではそれが乏しいため新型が流行する初期には被害が甚大となるものの、数年して若年層の多くが免疫を保持するようになると全年齢層がほぼ等しく免疫を保持するようになり、その結果、相対的に抵抗力の弱い高齢者に被害の中心が移って行くと考えられています。
例えば、スペインかぜでは、高齢者の死亡が少なかったことが報告されていますが、1873年以前に同じH1 サブタイプの流行があったと推測されています。
[ 付記1 ]
「中高年には免疫がある」
という仮説について、私は前日分では、やや否定的な見解を示した。だが、実を言うと、この仮説自体は、私はかなり前から示している。該当部分を再掲しよう。( → 豚インフルエンザと年齢【 追記2 】 )
高齢者よりも若年者の方が、死亡率が高い、という情報もある。これは未確定情報だが、もしそうだとしたら、次の仮説が考えられる。これを記述したのは 2009-05-12 である。
「高齢者には、過去の免疫が残っているので、重病化しない。若年者には、過去の免疫がないので、重病化しがちだ」
これは、あくまで仮説だが、一応、考えてもいいだろう。
なお、その理由は、「豚インフルエンザは、過去のソ連風邪やスペイン風邪の子孫だ」ということによる。
つまり、CDCの見解を読んで、今さら騒がなくても、本サイトを読んでいれば、 2009-05-12 の時点ですでにその説明を知ることができたわけだ。
世間よりも一足早い情報を知りたければ、本サイトを読めばいい。 (^^)v
[ 付記2 ]
冒頭のCDCの見解について補足しよう。CDCの見解の通りとすれば、記事のように「 1957年で区切る」ことには意味がないはずだ。今回のインフルエンザでは、「50歳以上/50歳以下」というふうに区切られるわけではないのだ。(記事の趣旨ならそうなるはずだが。)
現実には、その境界は、20歳前後にあるらしい。(だから高校生ばかりが感染する。)
とすれば、「 1957年で区切る」のではなく、単純に「ソ連風邪にかかった経験の有無だけを考えればいい。この点では、日本感染症学会の見解の方が妥当だ。
[ 付記3 ]
また、CDCの見解には反するが、私としては、「若い人にワクチンを優先摂取する必要はない」と思う。若い人は体力も免疫力もあるからだ。
それよりは、高齢者や病人向けに、季節性インフルエンザのワクチンを増産するべきだ。季節性インフルエンザには、タミフルも効かないのだから。……この点では、私の立場は、日本感染症学会の立場に近い。
[ 付記4 ]
ついでに、オマケみたいな感想。
ひょっとしたら、今回の豚インフルエンザは、「メキシコ風邪」と呼ぶほどの大げさなものではないのかもしれない。タイプとしては、ソ連風邪の亜型にすぎないからだ。
「ソ連風邪(メキシコ亜型)」
というのが妥当なところかもしれない。
そもそも、ソ連風邪による免疫が効くのであれば、大流行になるはずがない。ソ連風邪、アジア風邪、香港風邪のように、世界的な流行にはなりそうもない。
大山鳴動ネズミ一匹、というのが、今回の騒ぎの顛末かも。