新型インフルエンザの国内感染が拡大し、マスクが品薄だ。公衆衛生の専門家の間では「健康な人の予防効果は期待できない」のが常識だが、欧米などに比べ、日本人のマスク信奉は根強い。
オフィス用品の通信販売、アスクル(東京都江東区)は初の国内感染者が確認された16日以降、問い合わせが通常の50倍を超え、すでに在庫が切れた。入荷は7月以降になりそうだ。
日本衛生材料工業連合会(日衛連)によると、国内で年間に消費されるマスクは約20億枚。3月末時点の在庫約1億枚は底をつきつつあり、メーカーは増産に踏み切った。最大手のユニ・チャームは4月末から24時間態勢に、医療品メーカーの興和(名古屋市)は休日返上している。大正製薬はまとまった出荷は7~8月の見込みという。
海外はどうか。英国の町中ではマスク姿はほとんど見られない。政府の公式見解では感染防止を認めていない。マスク製造・販売大手企業の販売部長は「新型インフルエンザ発生後、25万枚を完売したが、深刻化した場合の備えだろう。町中で見ないのは、マスク姿は強盗のように見えるからでは」と話す。
米ニューヨークでも、マスクをつけた人はごく少数だ。マスク姿は極めて目立つためか、今月初旬、国連の会議に出席した広島、長崎両市長一行もマスクを使わなかった。中国や韓国の町中でも市民はほとんど使わない。
日衛連によると、日本では1910年代、粉じんよけの工場用マスクが登場。19年の「スペイン風邪」の大流行を機に、注目された。不織布製使い捨てマスクは03年ごろ一般化。花粉症の人の増加に加え、鳥インフルエンザや「重症急性呼吸器症候群」(SARS)が発生し使用量が急増した。ユニ・チャーム広報室は「マスク着用が生活習慣化した」とみる。
関西在住の作家の高村薫さんは昨年末から新型インフルエンザに備えてマスクを備蓄していた。「マスクを着けるのは、未知のウイルスから身を守ろうとする、日本人のまじめな生活防衛反応からなのでは。外国人から変だと言われようが、これも一つの安心する方法だ」と話している。【まとめ・山崎友記子】
毎日新聞 2009年5月22日 23時18分