2006/08/21 19:09
今回試乗したのは,昭和飛行機工業が都市部で利用する「軽四輪貨物」として開発した電気自動車「e-VAN」である(図1)。2006年秋に発売する予定で価格は350万円。ベース車両は富士重工業の軽自動車「サンバー」だ。車両寸法はベース車両と同じ全長3395mm×全幅1475mm×全高1905mm。車重はベース車両より若干重い1000kgとなる。
ガソリン・タンクを外した部分にスイスMES-DEA社製のニッケル-ナトリウム(Ni-Na)塩化物2次電池を搭載し,エンジンがあった後輪部分に定格出力16kW,最大出力40kWの水冷式モータを配置した。つまり,ベース車両同様の後輪駆動車である(図2)。電気自動車では2次電池の容積が大きくて車内を圧迫することも多いが,e-VANの場合は床下に2次電池がスッキリ納まっているので,後部座席は折り畳むと荷室と水平になる。2人乗車であれば,350kgまで荷物を積載できる(図3)。商用車としては重要なポイントだ。
走行性能は,ガソリン車と遜色ない。高速道路などを利用しない都市部なら,十分利用できそうだ。しかも,エンジン音がせず,静かなので夜間や早朝などに住宅街を走っても住民から文句は出ない。住宅街で新聞や牛乳の配送車に利用するのもいいのではないだろうか
逆に気になったのが,エンジン音がしないことによる違和感だ。一つはスタート時に電源が入っているのかどうか分からなかったこと。アイドリングのエンジン音で始動済みかどうかすぐに分かるエンジン車とは違う。エンジン搭載車でも,一部の高級車だと音が静かすぎてエンジンがかかっているのにセルを回してしまうことがある。それと似た感覚だ。
もっともe-VANの商品化時にはこの問題は解決しそうだ。今回は試作車に試乗したため,電源のオン/オフが分かる表示パネルが助手席のダッシュボードに取り付けられていた。それで,この問題が発生したが,販売時にはモニタ画面がきちんとセンターパネルに装着されるという。
エンジン音に関する違和感はもう1つあった。走行中もエンジン音がしないので,モータの回転音とともにタイヤからの騒音,いわゆるロード・ノイズが妙に大きく聞こえたのだ。これは印象的だった。通常のガソリン・エンジンを搭載する軽自動車ではエンジン音が大きいため,あまり気にならないロード・ノイズだったが,電気自動車では非常に気になった。商用車では問題とならないが今後,電気自動車を乗用車として普及させるためには,ロード・ノイズ対策が必須になるなと感じた。
燃料代ならぬ電気代は1充電当たり夜間電力を利用すると約140円。つまり,1km当たりわずか0.9円となる。これに対して,ベース車両となるガソリン車(2輪駆動・AT車)の燃費は15.8km/L。1L当たりのレギュラー・ガソリンの価格を140円で計算すると,ガソリン車は1km当たり約9円であることから,約1/10の費用で走行することが可能となる。
ただし,発売当初の車両価格は350万円と,ベース車両に比べて200万円程度高い。そのため,単純計算では20万km以上走行しないと維持費を含めた総費用がガソリン車よりお得にならない。商用車として1日100km,月2000km,年間2万4000km走れば,約10年間で何とかガソリン車とトントンに持っていけそうである。
それよりも電気自動車の特徴は,CO2削減効果が大きいことだ。CO2排出係数は,電力会社の試算によると,電気の場合0.38kg/kWh,ガソリンが2.32kg/L。年間3万km走行した場合,開発した電気自動車は21.2kWhで150km走行できることから,CO2排出量は約1600kgとなる。これに対して,ガソリン車は,燃費を15.8km/LとするとCO2排出量は約4400kgにもなる。
つまり,電気自動車はガソリン車に比べて1台当たり年間2800kgのCO2削減効果があることになる。企業の社会的責任(CSR)が問われる中,環境負荷への低減に積極的な企業では,CO2排出量の削減を進めている。こうした企業が社有車へ電気自動車を採用することはもちろん,物流業者などの選定にも電気自動車の保有台数を考慮する風潮が広がれば,e-VANをはじめとした電気自動車の拡販につながりそうだ。
次回は「e-VAN」に搭載した特徴的なNi-Na塩化物2次電池の詳細について紹介する。
狩集 浩志=日経エレクトロニクス