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〔改正薬事法施行と医薬品無店舗販売〕

 
 ●改正薬事法によリ医薬品の通販・ネット販売が制限され、業者が反発
 
ここにきて、これまで販売ルールの無かったときに自由に販売できた通信販売業者ネット販売業者から、改正薬事法への反発が起こっています。
 
確かに、彼らの一部にはこの改正薬事法が事業の生死につながってしまうことになる販売業者がいると思います。何とか知恵を出し、救済しなくてはならないとも思います。
しかしその一方では、力まかせでこの改正薬事法そのものを骨抜きにしようと、一部の国会議員や行政改革会議(内閣府)に働きかけている方もいます。一部のメディアも、その力を正義として一方的に報道しています。公的な報道であれば、もっと改正薬事法の理念や目的、内容を調べ、正しい報道に努めて頂きたいものです。「安全性と利便性、あなたはどちらを選びますか」なる上辺だけの報道には辟易です。

私たちの決意と努力、この改正薬事法がもたらす将来の日本国について、少しも報じられない一連の報道に落胆する毎日です。(改正薬事法が正しく運用されなければ、わが国の将来に大きな禍根を残すことになるでしょう)

 
 
 ●なぜ今頃になってこうした不満行動をとるのかが不思議です
 

そもそも、今回の薬事法改正は、2006年(平成18年)6月に通常国会(第69号議案)で国会議員によって可決されたものです。

その決議で医薬品販売業は、「店舗販売業」・「配置販売業」のリアリティスペースを用いた2つの販売形態のみ、と決定しました。この時の国会審議の議事録を見ると、衆参および与野党ともに安全性を強く求めました。その後、これによって決定された改正薬事法に基づき、実施のための省令が検討されてきました。

つまり一部の国会議員や規制改革会議の方が言う様な通販やネット販売規制の法律は、国会議員自らの手で作ったのです本当に通販やネット販売が必要とあれば、第3の販売業「無店舗販売業または通信販売業」として、国会で審議すべきでありました

 

詳細な実施ルールとして定められる省令は、改正薬事法に基づいてつくられなければならず、ここに位置づけられた2つの販売業の実施省令は、当然ながらすべてリアリティスペースで実施する省令となります。

この法律を決める前の厚生科学審議会医薬品販売制度改正検討部会は、全てオープンで開催され、内容も即時公開されてきました。通販やネット業者においても、問題があるのであれば、法律が出来る以前に声をあげるべきではなかったのでしょうか。なぜ今頃になってこれまでの多くの議論を反故にするような行動を取るのか理解しがたいし、法治国家の破壊とも思える行為です

 

→参考資料:現行薬事法と改正薬事法の異なり及び医薬品のネット販売について(PDF、427KB) 

 
 
 
  ●改正薬事法に適合できない人たちの救済を考える
 
今日起きている改正薬事法における大衆薬販売の問題には、大別して2つあると思います。
 
その1つは利用者、消費者サイドの問題です。
体が不自由であったり、家庭の事情、山間僻地、離島のため薬局や薬店、ドラッグストアで医薬品の購入ができない(購入しにくい)方々の問題です。
もう1つは事業者、販売業者の問題です。
これまで医薬品の販売ルールが無かったために、自分たちの事業のやり方で自由に行えた医薬品販売や提供が、新しく設けられたルールにそぐわなく販売ができなくなり、新しい販売方法に変更せざるを得なくなる問題です。
 
前者の利用者も後者の販売者も、全体の1~2%位だと思います。少ないからといって無視するのではなく、これらの利用者や販売業者に何らかの救済や支援方法を考えなくてならないと考えます。
だからといって、98~99%の生活者、利用者の「安心・安全」や「セルフメディケーションの推進」を犠牲にすることは、断じて避けなければならないと考えます。
多くのメディアが、「買えない人」「売れなくなる人」を大きく取り上げ、安全を手にする多くの国民の声や、その対応を行う事業者の声を紹介しない事は残念です。
こういった内容や状況をしっかり押さえて、こうした「購入者」や「事業者」への救済策を講じることが必要だと思います。
 
 
●大衆薬を購入できない方への救済をどうするか
 

今回の改正薬事法における販売業は、「店舗販売業」と「配置販売業」との2つの販売業になります。

したがって、店舗販売業者と配置販売業者が協力し、改正薬事法の求める条件を満たしながら医薬品を届けるシステムをつくることが大切です。既に、日本薬剤師会、日本チェーンドラッグストア協会、日本置き薬協会など、医薬品販売に関する9団体が集まり、これらの方々に医薬品を提供するシステムや方法を考え、厚生労働大臣に提案しています。 

 

 
 
 いま、医薬品の販売に携わる方々によって、医薬品を購入しにくい方々に対し、改正薬事法を遵守しつつ確実に医薬品を提供することができるよう、協議を重ねています。

→参考資料:厚生労働大臣に提出した提案書(PDF、1.34MB)

 

 
 
 
 
 
 
 
 
 ●大衆薬の無店舗販売の方々への救済をどうするか
一口に無店舗販売業と言っても、その内容は幾つかの形態に分けることができます。
 

1)医薬品のネット販売業者

2)家庭薬製造販売業者

3)伝統薬製造販売業者
 
などが主にそうです。
 
2)の家庭薬製造販売業者および3)の伝統薬製造販売業者は、使用者も特定され長年の実績もある医薬品の販売が主で、零細な事業者も多く、他の方法がとりにくい方々がほとんどだと思います。既存の販売業者も協力し、法律を遵守しながら販売ができる可能性を探ることが必要だと思います。
 
しかし、問題は大手事業者による大衆薬のカタログやネット販売業者への救済です。
現状の「無店舗販売のルール」無し状態で彼らの主張をそのままにすると、大衆薬全般(第1類から第3類医薬品)のみならず、薬局であれば医療用(薬局)医薬品までスルーで販売が可能となってしまいます。無店舗販売のルール化」と「責任所在の明確化」「行政の監視指導体制」の整備が無い限り、救済策は無いと思います。
この、一部の方々のネット購入の利便性を優先するあまり、大多数の国民の安全性や医療費負担の抑制(医療制度の維持)を犠牲にしてはなりません。
 
 
 
 ●法整備なくしてネット販売を認めたらどうなるか
 
法整備をしないで医薬品のネット販売が認められると、現在のネット業者のみならず、多くの大手資本や、既存ドラックストアチェーンが一斉に参入することになるでしょう。事実上の医薬品販売の自由化になると思われます。改正薬事法で実現しようとした「医薬品の安全な提供」「異常時の早期対処・改善」は消え、自由販売競争が激化します。一部のポータルサイト業者は大儲けし、価格も少々下がるかもしれませんが、交換条件(トレードオフ)として「安全・安心性」が失われることになるでしょう。
また、ネット販売による山間僻地への医薬品提供は一時の弱者救済のように一見思われますが、そのために医療保険制度の破綻を防ぐことが出来なくなり、結果的に多くの医療格差(医療難民)を作ることになると思われます。
日本の国民は、いったいどちらを選ぶんでしょうか。
 
※アメリカでは医薬品を自由に売っている、と主張する人がいますが、アメリカにはわが国のような皆保険制度がなく任意保険に加入できない人が約4500万人居り、医療難民は実に約6000万人も居ると言われています。医療を受けられないその人たちのために大衆薬販売が自由化されている側面があると言われています。
これはちょうど自分を守るためにライフルや拳銃の販売が規制できないのと同じです。その為に多くの事故や事件が起こっています。
日本ではアメリカのようにならないためにも、大衆薬の安全で効果的な使用を制度化し、皆保険制度を守らなければならないと思います。
むしろ、現在のアメリカはセルフメディケーションを推進させ、医療費の抑制を行うために、新たな医薬品販売の規制を設け、効果的な医薬品を大衆薬として提供できるようになってきています。
 
 
 ●急がれる法整備 
 
したがって、安全な医薬品のネット販売を実現するためには、法整備が必要です
ただし前にも述べたように、これらの内容は薬事法で「無店舗販売業または通信販売業」という新しい販売形態を設ける必要があります。そしてそれに基づいた運営ルールとして、省令が実施されるべきです。
現在面白おかしく報道されている様な“ネット業者VS厚労省・既存医薬品販売業者”という図式ではなく、国民主体の議論が為されるべきであり、改正薬事法の求める目的や狙いを実現する為に、ネット販売も整備される必要があります。