「林真須美」と表記されることが多いですが正式には「林眞須美」です。「真」でなく「眞」になります。

第5回支援会レポート 2007.4.15

林眞須美さんを支援する会の第5回集会「和歌山カレー事件の真相を解明する市民の集い」が4月15日に、大阪市の「エル大阪」で開かれました。
集会には、全国各地から約50人が参加し、1981年の大分「みどり荘事件」冤罪被害者(一審無期、二審で無罪)になられた輿掛(くつかけ)良一さんに、13年半にわたる拘置所での苦労などを、一時間以上にわたってお話しをしていただき、さらに長男の方にも話していただきました。

最初に、本日出席できなかった支援会代表の三浦和義さんからの伝言が伝えられました。

三浦和義さんからのメッセージ
『テレビ等でも放映されましたが、4月5日にコンビニでの窃盗の容疑で逮捕されましたが、今回の件は、私は全くやっておらず冤罪です。
ことの経緯は次のとおりです。
「3月17日に万引きしたでしょう・・・」と、突然同月の30日にコンビニに行ったときに多くのお客さんのいる前で言われ、面倒だから「支払います・・・」と言った次第でした。
しかも、その17日から、言われた30日の間に7~8回はそのコンビニに行っているのに(家の1軒先です)、それまでは一言も言われず、突然のことでびっくりしてしまいました。
その後、被害届けが出たことを知ったので、自分から警察署に出向き逮捕となったわけですが、放映されたビデオは、私も留置所で見ましたが、いろいろな部分をつぎはぎにして編集され作り上げられたものです。

では、なぜやってもいないのに犯行を認めたのかというと、弁護人からの指示で、まず私の身柄を外へ出すことを第一と考えてくれたからです。
罰金刑で釈放になりましたが、この罰金に関しましては2週間以内に異議申し立てが出来ることから、本裁判で潔白であることを証すべく現在打ち合わせ中です。
どうか、皆様にも、このことをご理解いただき、変わらぬ眞須美さんへの支援のほどお願いいたします。』

次に、家族を代表して林健治さんからあいさつがありました。
林健治
林健治さん
日ごろより、弁護士の先生はじめ支援会の皆様にはお世話になっており、心より感謝申しあげます。ありがとうございます。
事件から早いもので、すでに9年が経とうとしています。
3月29日に眞須美に面会に行ってまいりましたが、拘置所の過酷な環境の中で、肉体的にも精神的にも大変になってきているようです。身内ながら本当によく耐えていると思います。
今後とも妻への支援をよろしくお願いいたします。

次に、ゲストの輿掛(くつかけ)良一さんのお話しです。

輿掛良一
ゲスト・輿掛良一さん
1981年に大分のアパート「みどり荘」で女子短大生(当時18歳)が殺される事件が起きました。
その時、私は、部屋で酒を飲んでいたのですが、隣室に住んでいたため、事件とは無関係であった私も取調べを受けました。最初は、任意での取り調べでしたが、途中から私に対し、マスコミによる犯人視報道が始まり、ついに逮捕されてしまったのです。
警察での取り調べでは、耳元で大声で自白を強要されつづけたり、「家族と会いたかったら言うことを聞け」などと言われつづけました。
「やったのはお前しかいないんだ」と言われつづけたため、意識がもうろうとするなかで、「どこから出たんだ」という質問に対し「玄関からでました」と答えてしまったことから自白調書が作られていったのです。
しかし、身に覚えのないことですから、何も話すことができません。

そこで、酒を飲んでいたのだから意識が無かっただろうということにされてしまい、何度も「酔っていたのだろう」といわれつづけるうちに、自分でも、もしかすると酔っぱらって意識が無かったのだから、そうかもしれないなと、自分で自分に言い聞かせるようになってしまいました。
このような精神状態でしたので、母と姉が面会に来たときは口をパクパクと動かしていることしか出来ないような、ひどい状態となっていました。

検察サイドは、一審の裁判では、毛髪の元素分析で個人識別をしようとしました。
このようなもので個人を特定するのは難しいにも関わらず、証拠とされてしまいました。また2時間ほどで消えてしまうはずの首や手の赤くなったところを、写真も無いのに証言だけであやしいとされました。
証拠等は、このようにズサンなものだったので、私は判決での無罪を確信して拘置所を出るべく私物をまとめていましたが、実際に下された判決は「無期懲役」でした。その言葉を聞いた時、私は裁判官が「無罪」と「無期」を言い間違えたのかと思っていました。「無期」が正しかったと知った時は、全く信じられなくて、7年間何を見てきたのかと思い、くやしくてその日は一睡も出来ませんでした。

しかし、ありがたいことに二審の控訴審では、私の裁判記録を読んで疑問に思った多くの支援者が集まりだしてくれました。弁護士も5人になり、ノンフィクション作家の小林道雄さんが取材に来てくれたりしたことから、支援は本格的なものとなっていきました。また、支援者の働きによって傍聴人も増えはじめた頃から、裁判官も真剣になっていったようでした。
裁判所から、毛髪鑑定が信用できないのでDNA鑑定をしてはどうかと薦められましたが、鑑定をすることで、またひどい結果になるのではないかと不安になりましたが、弁護団の薦めもあって「やります」と答えました。
しかし、結果は同一となってしまい、悪い予感が当たってしまいました。
しかし、鑑定に使われた毛髪をよく見てみると、実際の私の髪よりも長いことが判明しました。
そこで弁護団は当時の私がパンチパーマであったことを証明するために床屋の人から陳述書を作成しました。これによりDNA鑑定を覆すことができ、そして無罪を勝ち取ることが出来たのです。

私は、塀の中にいたので、家族への世間の風当たりのことは全く分かりませんでしたが、出てきて冤罪で一番苦労をかけたのは、家族だったということがわかりました。
輿掛(くつかけ)という珍しい性は、地元の人に知れ渡ってしまっているために、母は旧姓で働きに出たり、姉妹は離婚させられたり、本当に大変だったようです。家族は、私に心配かけまいと教えてくれなかったために、社会に戻ってようやく家族の大変さを理解することができたのです。

私は、このように、人を悲しませ、不幸のどん底に陥れる冤罪が無くならないのは、報道のせいだと思います。警察よりもマスコミの方が犯人探しに熱心で、しかも警察はそれを利用しているのです。

長く拘置所にたった一人でいると、必ず拘禁症状が出ます。
私にとって、そんなときに励みになるのは、支援者からの手紙でした。
私のこうした経験からも言えることは、支援者のみなさんは是非とも眞須美さんに手紙を出してあげてくださいということです。
また、この和歌山カレー事件の場合は、保険金詐欺とカレー事件を明確に分けて考える必要があると思います。

いま裁判制度が変わろうとしていますが、司法に興味のない方が裁判員に選ばれると、安易な判決が下される恐れもでてくるのではないかと懸念を持っています。

続いて残された家族の大変さを長男が語ってくれました。

林さん長男
母は、本当に優しい人で、小さい頃は、こんなこともありました。
「私がファミコンが欲しいな」となにげなく言ったのですが、それとなくそれを聞いていた母は、突然私に分からないように外に買い物に出かけ、私を驚かせるためにそれをもって帰ってきてくれたりしました。
また、家族みんなで北海道へ旅行に行ったこともありました。
そこでスキーや雪合戦をしましたが、一番はしゃいでいたのも母でした。
そんな明るい母も、私の小五の運動会の日に逮捕されてしまいました。
母は、前日の夜から楽しそうにお弁当を作りながら、「絶対に行くからね」と言ってくれました。それが私にとっては、母と話した最後の言葉でした。
逮捕後、私を含めた兄弟は、その学校から追い出され、施設に入れられ、言うにいえないようないじめに、みんながあってきました。
しかし、つらいことがあっても母を応援しようと決めて頑張ってきました。
どうかこれからもご支援をよろしくお願いします。

次に弁護団を代表して小田幸児弁護士から報告がありました。

小田弁護士
小田弁護士
H18年10月31日に上告趣意書を提出しました。今は、それをどんどん補充している段階です。
和歌山に行って現場を見たりしています。
死刑判決の基準が5、6年前に比べるとどんどん、低くなってきています。
つまり、ハードルが下がってきているわけです。
地元の方にも、この活動をもっと知ってもらって、盛り上げていただければと思います。
皆さんのご協力をお願いいたします。

山際永三
山際さん
今回の「みどり荘事件」を取り上げた名著である小林道雄さんの「冤罪のつくり方」や弁護団の書いた「完全無罪13年の軌跡」など冤罪を扱った良い本が出ていたのに、すべてが絶版になってしまっているのは本当に残念なことだと思います。
この事件は、輿掛(くつかけ)さんが酔っぱらって無意識にやったので「夢遊裁判」だなどとよばれました。
また、裁判においては科学的鑑定が絶対視される傾向がありますが、輿掛さんのケースでも弁護団は当時、パンチパーマであったことの証明のために床屋さんへ行って聞いたり、お姉さんが写していたパンチパーマの写真などを集めるなど大変な苦労をしました。和歌山カレー事件でも同じですが、輿掛さんのお話からもわかるとおり、鑑定が必ずしも絶対とは言い切れないと言うこと、また鑑定は今回配布した資料からもわかるとおり、鑑定者の裁量でいくらでも結果が変わるものなのだということを理解しなければならないと思います。

◎眞須美さんからのメッセージを朗読  林眞須美さんからのメッセージはこちら>>

ページトップ