「林真須美」と表記されることが多いですが正式には「林眞須美」です。「真」でなく「眞」になります。

第4回支援会質疑応答 2006.10.21

集会参加者と弁護団で質疑討論

 実験に関する報告の後、参加者と弁護団の3人の弁護士の間で質疑討論が行なわれました。この日の集りは、メディアで報道されない「事件の真実」を知りたいとの思いから参加された市民が多かったようです。質疑では、そんな参加者の事件に関するさまざまな疑問に弁護団が一つ一つ、ていねいに答えました。以下、その主なやりとりを紹介します。

一審での「黙秘」について
〈参加者〉
 眞須美さんが一審で証言しなかった理由を聞かせてください。弁護団として、一審で黙秘を通させた弁護方針は失敗だったと思われますか?
〈弁護団〉
 一審で黙秘したのは、有罪になると思っていなかったからです。黙秘権というのは法廷でもずっと黙っていることができるし、それを一切不利益に扱ってはいけないという権利。それを行使したということです。控訴審で証言したのは、一審で有罪になってしまったから。弁護方針が過ったかどうかはわかりませんが、そうせざるをえなかった。
〈司会者〉
 林さんご夫婦は逮捕される前、マスコミからインタビューを受けいろいろな発言をしています。無防備な状態でいろんなことを言ってしまう場合もあると思いますが。
〈弁護団〉
 現実にやってない人は、裁判にかけられるという現実感もないわけですから、いろんなことを言ってしまう。そうだとしても、それで裁判が不利になるというのはおかしい。裁判にはテレビ報道のビデオテープが採用されました。黙秘には、そうした報道内容と公判証言の食い違いを避ける、という意味もありました。
〈三浦さん〉
 ぼくの場合、公判では全て事実をしゃべったけれど、捜査段階では一言もしゃべっていません。23日間黙秘した。弁護団からも「あなたがしゃべるとそれを警察は全部つぶします。あなたに有利なものは全て警察は隠すでしょう」と言われました。そうすることが無罪判決につながった、と思っています。
〈参加者〉
 祭会場から見つかったとされる紙コップ、林家から見つかったというプラスチック容器から眞須美さんの指紋は出ているのでしょうか。
〈弁護団〉
 指紋は全くでていません。

鑑定、証拠収集への疑問
〈参加者〉
 カレー鍋から検出されたというヒ素と、林家から出てきたとされるヒ素が同一だと主張する中井鑑定に対して、それを否定する科学者はいないのでしょうか。
〈弁護団〉
 捜査段階で行われた中井鑑定に対し、裁判になってから裁判所が採用した鑑定人による鑑定が行なわれました。一審で出た鑑定書は二つあります。最初の「鑑定書」と「鑑定補充書」。初めの鑑定書では、弁護人が中身をついていくと「同一とは言い切れない」という結論が出てきました。しかし、裁判所は弁護人に何も言うことなく、その鑑定人に補充意見を求めました。元の鑑定書のままでいいのか、と。すると「補充書」と言うのが出てきて、最初の「同一かどうか分からない」ではなく、「同一である」という結論になった。しかも、それは「訂正書」でなければならないのに「補充書」になっていました。裁判所は、それについて「最初の鑑定事項ははっきり分かるものでなかったので、もう一回分かり易いよう問い合せをした」という言い方をしました。
〈参加者〉
 園部あるいは和歌山市で、他にも亜ヒ酸を扱っていた人はいたのでしょうか。
〈弁護団〉
 白アリ駆除にヒ素はとても有効な薬物で、昔はヒ素を扱っている人は相当数いました。ヒ素に接触する機会がある人がいなかったわけではない。しかし、異同識別ということで、中井鑑定は「同じ時期の同じ工場の同じロットでつくられたヒ素である」ということで、同一のヒ素であると結論付けました。その工場は中国にあるとされているのですが、どこにあるのかさえ特定されていません。
〈参加者〉
 家宅捜索3日目に林家からヒ素が見つかったということでしたが。
〈弁護団〉
 3日目に見つかったことを、彼らはどう説明しているかと言うと、「家全体、庭も含めて班に分かれ、一部屋一部屋やっていって、台所は3日目の順番だった、蒸留水で拭いたり、掃除機を使ったりして丁寧にやっていったから一つ一つしか進むことできなかったんだ」と。しかし、自宅から見つかったというプラスチック容器は、林さんも見てないし、家族全員見ていない。台所の下、開き戸があって調味料とか食器を入れている場所です。そんなところに、「白アリ薬剤」と書かれた容器があった、という。家族は「そんなものはなかった」と言いましたが、それを裁判所は信用しませんでした。
〈参加者〉
 今日の実験は、上告審でどんな意味をもつのでしょうか。これから、さらに実験を重ねる予定があるのでしょうか。
〈弁護団〉
 カーテンの向こうが見えるか見えないかには主観的な部分があって、それを客観化していかなければなりません。そのためには、同一のカーテン、同一のロケーション、明るさ、さらに角度をつけて見る必要もあります。客観性を持たせるために、多くの人が同じ体験をしてみてどう結論を出すかいうことも必要です。今日の実験は一つの手がかり、それでもう一度証拠を見直してみようというきっかけづくりになる。事件の決定的証拠というのが、実はそういう脆弱なものからできているということが言えると思います。

上告審の闘い、支援者の役割について
〈司会者〉
 恵庭冤罪事件の場合、上告趣意書を出して僅か半年で棄却決定が出ました。調査官も読んでいないのではないかというスピードで出てくる。調査官が絶対目にとめる、最高裁小法廷の裁判官全員が目を通さなければいけない、そういう理由書を作っていくというのは大変な作業になると思います。以前より上告審のハードルが高くなっていることも含めて、上告審の闘い方について、弁護団の方針を聞かせてください。
〈弁護団〉
 一・二審で裁判所が認定したことの矛盾をついていく、裁判所が有力な証拠としているものが実はそうではないと追及していく。新しい証拠を突き出していくことも必要です。よく議論になるのは、眞須美さんでなければいったい誰だったんだろうかという話です。一審二審の判決にそれが露骨に出ている。一番犯人らしいじゃないかと。そこと四つに組むのは、大変難しい。今、最高裁は死刑事件では2年半から3年で判決を出してくる。調査官の数は22人。それが膨大な数の刑事事件をやっているわけです。彼らの目をこちらに向かせ、彼らに納得させる。至難の業ですが、それをやらざるを得ない。
〈司会者〉
 弁護団として、支援者・市民に要望があれば。
〈弁護団〉
 弁護は弁護士だけでできるものではありません。皆さんと力をあわせてやっていくしかない。ぼく達と問題意識を共通にしていただいて、いろんなアンテナを多く出してほしい。アンテナが多ければ多いほどいろんなものが出てくる。全ての証拠は警察・検察が握っているわけで、その中から「林さんが犯人らしい」という証拠だけ請求してくる。だから林さんが犯人らしいと見えるわけです。犯人じゃないという証拠は出しません。彼らは証拠を総ざらい持っていっている。ぼく達はそこにアクセスしようとしているし、皆さん方もアンテナを長くしていただければ、そこに達するかもしれない。一緒になって動いていただければと思います。その一つとして、事件当時の報道をビデオにとっている方がいらっしゃったら、ぜひ教えていただきたい。

今も続く「報道加害」との闘い
 質疑の最後に、「支援する会」呼びかけ人の同志社大学教授・浅野健一さんが「テレビで、林眞須美さんと秋田事件の被疑者を並べた映像を流しました。メディアの取材陣が家を取り囲み、それに彼女が抗う姿勢を見せた水を撒くシーンを、彼女の人格を攻撃し、何の関係もない秋田の事件と並列するという、卑劣な形で報道しています。このことについて支援会としても、それを見た市民は抗議の声をあげるべきだと思います。眞須美さんの映像を勝手に流すのは肖像権の侵害であり、人権侵害です。テレビ局に、最低限このビデオを提出させる必要があります」と発言し、抗議活動への参加を呼びかけました。

4人の子どもさんたちの訴え
 集会の最後、この日体調を崩した林健治さんに代わり、4人の子どもさんたちが、ひと言ずつ発言しました。「両親のために集っていただいてありがとうございます。これからいろんなことを学んで、弁護士さんや支援者の人たちとできるだけ協力して頑張っていきたいと思っています。よろしくお願いします」と長男。次女は「母とは家からガレージまで一緒に行きました。ガレージでもずっと一緒にいたし、離れた時間はありません」と、「有罪」の根拠にされた「目撃証言」をきっぱり否定しました。
 事件当時4歳だった三女も「これからもお母さんのことよろしくお願いします」とあいさつ。最後に、長女が「今日は皆様本当にありがとうございました。1回1回、支援会に参加するたびに人数が増えてきていることに、本当に感動しております。最初はきょうだい4人からのスタートだったんですけども、今はこんなにいろんな人に支援してもらって、ものすごく嬉しく思っています。これからもお願い致します」と訴え、参加者の大きな拍手で、この日の集会は幕を閉じました。

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