「林真須美」と表記されることが多いですが正式には「林眞須美」です。「真」でなく「眞」になります。

第1回支援会レポート 2006.3.20

 3月20日 午後6時から中央大学駿河台記念館で、「人権と報道連絡会」例会にて、和歌山カレー事件報告・第1回の集会がありました。(以下、人権と報道連絡会ニュース第214号より)

Ⅰ.例会ではまず、三浦和義さんが「支援する会」結成の経緯を次のように話した。

【放置できない不正裁判】
一審判決の後、林さんに激励の手紙を出した。彼女は昨年4月、接見禁止がとれて、ようやく手紙を読み返事をくれた。以来、数十通の手紙をやりとりし、5~6回、面会もした。高裁判決も傍聴したが、疑問を持たざるを得ない内容だった。
 「ロス疑惑」二審判決は、「状況証拠がいくつあっても、互いに支えあって初めて意味を持つ」と言った。それが、踏襲されると思っていたが、恵庭事件、カレー事件で崩れ、状況証拠認定のハードルが低くなった。
 価値の高い証拠が集まり、互いに支えあえば、状況証拠でも有罪と推認できると思う。
しかし、動機も目的も分からないような事件で死刑にしていいのか?
 二審は、弁護側の反証をすべて却下した。林さんは、供述に転換したが、判決は「すべて信用できない」と切り捨てた。
 目撃者の証言は、次々と変わっていったが、判決は「最後の証言が正しい」と決め付けた。
僕も「殴打事件」裁判で同じような経験をした。Y証言は最初、保険に入っていることも知らないと言っていたのが、4回目で知っていたとなり、5回目では金額まで具体的になった。
 二審判決は、一審よりさらに悪くなっている。こういう不公平な裁判は放っておけない。
 二審判決後、多くの弁護士に、上告審の弁護を引き受けてもらえないか頼んできた。安田好弘弁護士が引き受けてくれ、現在5人が動き出している。
 市民には、公平な裁判を受ける権利がある。それが奪われているのを黙認することはできない。いつ犯人にされるかわからない。最高裁も機能しなくなりつつある。このまま放置していいのか。林さんが正しい裁判を受けられるよう支えてほしい。弁護士は、手弁当でやっているが、費用はかかる。カンパもお願いしたい。是非、みんなで裁判を監視してほしい。と語った。



Ⅱ.その後、続いて、一審から弁護活動に携わってきた小田幸児弁護士が、「初めて東京で話させていただくが、こういう場がもっとできればと思う」と前置きして、要旨次のように話した。

弁護活動そのものに非難

 逮捕前から「疑惑」の報道があったため、僕達は弁護人になっただけで非難の嵐に巻き込まれた。
 逮捕前から、大阪、和歌山の弁護士が活動し、逮捕後は連日接見したが、眞須美さんの黙秘にメディアは、「弁護人が真相解明を妨害している」と非難した。
そうした中で、弁護人になるのは、本当に大変だったが、大阪から4人、和歌山からは3人がついた。すさまじい報道、バッシングの結果、市民の前で、事件について話せるような機会はなかったが、今回こういう場を与えていただけたことを感謝している。支援会は、大きな力になると思う。
 メディアは逮捕後、眞須美さんを犯人であるとする、大量の情報を流した。また、警察は、夫婦がインタビューに答えたワイドショーなどの報道をビデオに撮り、裁判所に証拠として出してきた。報道機関は、まるでおかっ引のように犯人探しをし、裁判は、そうした「眞須美イコール犯人」という予断の中で行われた。

黙秘が最大の防御と考えた戦略

 こうした状況のなかで、黙秘が最高の防御であると考え、弁護方針を、そのように進めた。
 捜査段階の3ヵ月間は、眞須美さん、健治さんとともに、ずっと黙秘をしとおした。
とはいえ、何もしゃべらない、弁解もしないということは、かなり、きついことである。それにもかかわらず、黙秘をできたのは、自分に自信がある場合がほとんどだ。
 捜査段階の次に、裁判も黙秘のままでいくか、被告人質問を、どうするかの弁護方針の問題があった。
 普通は、被告人として起訴事実については、黙秘せず弁明するのがパターンであるが、この事件の場合、検察側が「林さん宅に出入りしていた人たちの砒素による保険金詐欺」から「カレー事件も同じように、砒素を使ってやった」と保険金目当てだと主張してきていた。このような中で、保険金詐欺事件で、「被告人証言が、信用できない」という心証をとられてしまうと、「カレー事件の証言も、信用できない」とされる危険があると考えられた。そこで、その危険性を避けるため、一審公判でも、一切黙秘する方針をわれわれはとった。
 つまり、私たちは、被告人質問はせず、「鑑定、住民の証言などによる検察官の立証は、合理的疑いを、いれないものになっていない」と主張していくことにしたわけである。

砒素の同一性鑑定の疑問

 カレー、紙コップ、林家のプラスチック容器、被告人の兄方にあった、ドラム缶やミルク缶、マージャン仲間宅のミルク缶。これらから検出されたとされる砒素の同一性鑑定は、被告人と事件を結びつける点において重要な証拠であるが、それは、鑑定資料の押収・保管、鑑定人の予断などに様々な問題があったといえる。
 鑑定分析に使われた「スプリング8」は、資料がごく微量であっても、亜砒素酸の製造段階で存在する微量元素の含有状況を比べ、同一性が判断できるものだということである。カレーから採取されたのは、微量の亜砒素酸の<結晶>だったが、鑑定した中井教授は「<結晶>でも鑑定できた」と、同一性を認定したのである。
 しかし、こう認定した中井教授は、起訴前にマスコミで「悪事は裁かれるという科学の力を示すことで、全国の毒物混入事件に対する抑止力になる」などと発言しており、予断と偏見を持っていたといわざるを得ない。
 中井鑑定は、亜砒素酸に、他の微量元素が、どのように含まれるかを、明確な「数値」ではなく、「グラフ」によって「似ているかどうか」を判断するというものであった。この判断は、そのグラフをどう見るかという主観によって結果が違ってしまう。
 そこで、弁護団としては、数値の比較による再鑑定を請求し、01年11月5日に、「谷口・早川鑑定」が提出された。そこには、カレーの中の砒素と林家のプラスチック容器の砒素は同一とはいえないという記載があった。
 ところが、裁判所は、弁護人に内緒で、鑑定人に再鑑定を要請し、11月15日付(補充)、11月22日付(訂正)という、ふたつの鑑定書が出された。すると、今度のものは、同一性を認めるという傾向の強い内容になっていた。
 こうした裁判所のやり方は、公正性を疑わせるものであり、中井鑑定も谷口・早川鑑定にも「砒素の同一性鑑定」には、合理的疑いがあるといわざるを得ない。

住民証言の変遷と「類似」事件のとらえ方

 眞須美さんの行動に関する近所の人々の「証言」は、次々に変遷した。事件直後の調書から検察官調書、公判証言と日時が経過するにしたがって、より整理され、互いに整合性の高いものになっていっている。検察側は、そんな変遷を「当初は混乱していたため」と説明し、一審裁判所も、それを採用した。しかし、「ガレージで、砒素を入れるような格好をしているのを見た」「鍋から白い煙が上がるのを見た」など、といった報道をした人は、行方不明で、検事が撤回、捜査段階で「1階から見た」と述べた証人が、公判では「2階から見た」に変わった。
 眞須美さんの服装についても、彼女が着たことがない「白いTシャツ」と述べる証人がいるなど、信用できないものばかりだったが、判決では、これらも信用できるとした。
 検察は、林家に出入りしていた人たちの、保険金詐欺事件が22件あり、カレー事件と同じ手口の「類似事件」としてカレー事件の状況証拠にあげた。しかし、これらの事件では、死者は出ていない。むしろ、「死なないようにして、保険金を取る」事件であり、私たちは、類似事件では殺意は認定できない、と強く主張した。

控訴審では被告人が証言

 一審判決では、砒素同一性鑑定、住民証言の信用性を認め、02年12月11日、死刑判決を言い渡した。
 そこで、控訴審でも、黙秘を続けるかどうかについて、弁護団で議論した。最悪の場合、黙秘を続けたまま、二審も同じ判決になる危険性があった。一審判決が認定した状況証拠の壁を打ち破るため、健治さんや、林家に同居していた人達に「砒素を使った保険金詐欺事件」について証言してもらい、続いて眞須美さん自身にも証言してもらおうと決断した。
 保険金詐欺については、健治さんも同居人らも砒素だとわかってやっていた。一審当時、健治さんは受刑していたが、悩んだ末に事実を話してくれた。同居人たちも「わかってやっていた」と証言した。
 眞須美さんは、それを受け、控訴審法廷で、保険金詐欺について、具体的に証言した。同居人証言は、体験した人でないとわからない具体的・詳細なものだったが、二審判決は、「突然、二審で話すはずがない」「眞須美被告の証言は、信用できない」とした。
 一審判決は、「黙秘したことを不利益に扱ってはならない」という黙秘権の意義を認め、それを判決文にも書いていた。しかし、二審判決では、それより大きく後退し、「突然真相を吐露し始めたなどとは、とうてい考えられない」として、一審で眞須美さんが黙秘したことを不利に扱った。

動機は二審も不明のまま

 動機について、検察は、一審で「近所の主婦らに白い目で見られ、それに激高した」と主張し、予備的に「夫のマージャン仲間に対する保険金取得」も主張した。一、二審判決は、そのどちらも否定したが結局、動機を明らかにしなかった。
しかし、もし眞須美さんが犯人だとしたら、そこには、大きな矛盾がある。二審の証言で認めたが、林家は、保険金詐欺を計画的、わからないようにやってきた。それを検察は、「類似事実」と言うが、詐欺は、知能犯で「金にならないことはやらない」からだ。
 カレー事件は、無差別大量殺人事件であり、金が入ることは一切ない。それだけでなく、自分に疑いがかかってくるのである。一体なぜ、そんな自分の首を絞めるようなことをしなければならないというのか?
 このように、裁判所は、動機を説明できなかったにもかかわらず、二審判決では「現実的に、本件犯行が可能なのは、被告人以外には考えられない」「動機が不明確であるなどの事情は、極めて高い蓋然性で、推認される犯人性の判断に影響をあたえるものではない」と認定した。
 つまり、「被告以外に誰が犯行可能なのか、それを示してみろ、できないじゃないか」という理屈。しかし、被告人は、捜査機関ではないのだから、誰が犯人かを立証することは、できないのである。
 こうした判断を許しているのが、報道による刷りこみではないか。それを崩していくのが、皆さんの声だと思う。これから上告審に向けて、手紙、面会などいろんな方法で、皆さんに眞須美さんとの交流をしてほしい。

   ◇    ◇    ◇    ◇    ◇    ◇    ◇    ◇    ◇    ◇    ◇    ◇

以上の報告を受けて、次のような質疑・討論が行われた。

<参加者>
二審で被告人質問をした成果はあったのか?
<小田弁護士>
二審は、一審判決を崩す気はなかった。「一審で黙っていて、5年後にしゃべっても信用できない」と言う判決になった。

<参加者>
真犯人に関するアナザーストーリーはあるのか?
<小田弁護士>
詰めた検討はしていないが、健治さんが、シロアリ駆除で使っていた砒素を、近所の人に分けてやったことがあった。
林家に出入りしていた人も考えられないわけではない。
近くに借りたガレージにあった砒素は、だれでも使う機会があった。

<参加者>
恵庭もそうだが、間接証拠認定の仕方が変わってきたのか?
<小田弁護士>
事件に結びつくものだけを証拠にして、消去法で犯人と断定するような判決が増えている。

<参加者>
砒素のサンプル採取に問題はなかったのか?
<小田弁護士>
かなりある。
サンプルの隔離、資料の押収手続きがずさんだ。写真も撮っていない。

<参加者>
これから上告審に向けて、どんな闘いを進めるのか?
<小田弁護士>
僕は、一審からやってきたので、ある意味で、事件に対する見方が偏ってしまっているかもしれない。
もう一度、いろんな人たちの意見を聞くところから始めたい。
安田さんが、裁判記録を読んで、いろんな提案をしてくれれば、これまでの見方とすり合わせ、新しい視点が出てくるのではないか。
最高裁には、いくらでも資料を出せる。
砒素の同一性鑑定の切り崩し、捜査報告書の掘り起こし、林家に出入りしていた人達の話などを通じて、上告審を闘っていきたい。

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