きょうの社説 2009年5月22日

◎白川郷の塩硝調査 加賀藩秘史に新たな広がり
 金沢市の崎浦公民館「塩硝(えんしょう)の道」検証委員会が、幕末、加賀藩に塩硝を 納めていた岐阜県白川郷の調査に乗り出したことは、一大産地である南砺市五箇山とともに、知られざる「軍事大国」としての加賀藩史に新たな光を当てる取り組みとなる。世界遺産の両地域と歴史都市・金沢が、塩硝を通した結びつきを強める契機となり、また、それぞれが仏ミシュランの「三つ星」観光地を抱えているだけに、そこに塩硝という独特の要素が加わることで、観光ルートとして統一的な発信もできよう。

 現地調査では、塩硝生産を総括する「上煮(じょうに)屋」だった白川村の和田家(国 重要文化財)の協力を受け、所蔵史料や製造施設跡などを視察、加賀藩への塩硝流通を記した覚書などを確認した。

 幕末、外国船が日本近海に相次いで姿を現すと、襲来に備えて各藩が軍事強化に乗り出 し、加賀藩も火薬の増産に力を入れたとの指摘もある。幕府直轄地の白川郷から加賀藩への流通については未解明の部分が多いが、和田家に残る覚書などは、加賀藩の火薬製造量が幕末に急増したことを裏付けるものとして、今後の研究の深化が期待される。

 合掌造りの家屋が、構造的に塩硝の製造に適していたことは、これまでの研究などで指 摘されていたが、白川郷と五箇山の塩硝製造の比較調査も進めていけば、藩政期の火薬製造の輪郭をつかむ一つの資料を提供できるだろう。

 検証委員会は、塩硝の調査を通じて、五箇山とともに白川郷とも、住民らを交えたツア ーを開催するなど、地域レベルでの交流を深めたいとしているが、同委員会が地道な努力で、切りひらいてきた歴史の発掘と地域間交流の芽を、行政も後押ししたいものだ。

 また金沢市は、外国人観光客の誘致に向けて、二十二日に長野県松本市、岐阜県高山市 に、白川村も加えて四市村で誘客協議会を設立するが、今後、塩硝を通して五箇山、白川郷との濃密なつながりが明らかになれば、同協議会に五箇山地区も何らかの形で加わることで、分厚い誘客策を打ち出せるのではないか。

◎太平洋・島サミット もっと感心を高めたい
 麻生太郎首相と太平洋島しょ国の首脳が集い、開発や環境問題などについて話し合う「 日本・太平洋諸島フォーラム首脳会議」(太平洋・島サミット)が二十二日から北海道で開かれる。日本が主催するサミットで、麻生首相は今後三年間で計約五百億円の政府開発援助(ODA)を表明する予定という。しかし、そうした支援の意義が国民に十分理解され、関心が寄せられていると言い難い。

 サミットに参加する太平洋島しょ国は、国土は狭くとも排他的経済水域(EEZ)は広 大である。まさに水産資源の宝庫であり、日本で消費されるマグロやカツオの大部分はこの海域のものである。また、日本の重要な貿易相手国であるオーストラリア、ニュージーランドとの物資輸送ルートに当たることも忘れてはならない。

 太平洋島しょ国と周辺海域は日本にとって食糧、経済の生命線の一つと言えるのであり 、太平洋の彼方に点在する小さな島国と軽視せず、関係を強化して周辺海域の安定を図ることの重要性を、国民にもっと知らせる必要がある。

 太平洋・島サミットは三年ごとに日本で開かれており、次回の開催地として能登半島が 候補に挙がっている。ぜひ実現させ、能登の豊かな「里山・里海」で首脳を歓迎したいものである。

 太平洋島しょ国に対して近年、中国も援助に力を入れている。資金だけでなく、政府庁 舎などの建設を直接手がけているという。海洋権益の拡大を狙う中国の国家戦略をうかがわせるものである。日本としては、ODAの金額の多さを中国と競うのではなく、日本の技術力を生かした、きめ細かい援助で信頼を深めたい。

 今回のサミットで麻生首相は、ODA供与だけでなく、ツバルなどで深刻になっている 地球環境問題に協調して取り組む「太平洋環境共同体」構想も打ち出す方針という。太平洋島しょ国は歴史的に親日的で、国連外交などで日本の良きパートナーになってもらえる国が多い。環境問題などで日本が指導的な役割を果たし、共同体意識を醸成していきたい。