日本が新型インフルエンザで大騒ぎしていた先週末、ヨーロッパはのど自慢大会に沸いた。「ユーロビジョン・ソング・コンテスト」という恒例イベントで1億人以上がテレビ中継を見る。ロシア初開催の今年は42カ国が競った。
優勝したのはノルウェーのアレクサンダー・ルイバクさんだ。ブラッド・ピット風の23歳でバイオリンが上手。凱旋(がいせん)した母国の空港は5000人のファンでごった返し、滑走路では消防車4台が搭乗機を放水の大アーチで迎えた。
コンテストは1956年から毎年開かれている。歌謡ショーだけど政治と背中合わせの歴史だ。フォークランド諸島の領有をめぐりアルゼンチンと戦っていたイギリスへの嫌みでタンゴを披露したスペイン。ボスニア・ヘルツェゴビナは内戦の砲撃下でも参加を続けた。今年プーチン首相を皮肉った歌で出場しようとしたグルジアは失格に……。
視聴者投票で決まる審査も政治色が出る。自分の国以外の出場者に投票する仕組みだが、歌より国の好き嫌いで選んだりする。お友達国がいないと昨年のイギリスみたいに最下位になる。これはまずい、と今年から専門家の審査も取り入れることにした。
そんなこんなをヨーロッパの人たちは50年以上やっている。サミットや経済協定だけでなく、音楽やサッカーとかで本気の競争をし、ののしり合いもあるけれど、ヨーロッパという大きな村で一緒に暮らす工夫をずっとしてきた。
アジアはまだまだ。日韓の野球もアメリカがかまないと燃え上がらない。でも芽生えはある。今年から同じような歌コンテストをやろうと準備が始まったし、サッカーも地域大会に熱が入ってきた。
50年後も今日の一歩から。(経済部)
毎日新聞 2009年5月22日 東京朝刊
| 5月22日 | 50年後のアジアは=福本容子 |
| 5月21日 | 「民主は変わらぬ」は違う=与良正男 |
| 5月20日 | 抵抗力=磯崎由美 |
| 5月19日 | ある日突然=玉木研二 |
| 5月18日 | 宗教と政治=福島良典 |