帆船は、真正面から風が吹いたら押し戻されて逆戻りするしかないのか? もちろんそんなことはない。だったら、歴史は別の進み方をしただろうし、大航海時代など訪れなかったかもしれない。逆風には「間切り」で立ち向かうことができる。ただし、追い風と異なり、船長、船員たちの上手下手がはっきり現れる。荒天強風の中、風上へと進みゆく企業の戦略を紹介する
金融危機以降、不動産業界には猛烈な逆風が吹き付けている。だが、アゲンストの中、安定的に利益を出している不動産ベンチャーがあった。それは、大証ヘラクレスに上場しているスター・マイカ。売上高140億円、営業利益で16億円(2008年11月期)ほどの新興企業に過ぎないが、2009年11月期の第1四半期には2億5100万円の営業利益を確保。通期でも17億円の営業利益を見込む。経営破綻や営業赤字に転落する企業が相次ぐ中、スター・マイカの堅実性は一際目を引く。
入居者がいる中古マンションを取得し、賃貸人がいる間は大家として賃料収入を得る一方、退居後は中古マンションとして中古市場で販売していく――。これがスター・マイカのビジネスモデルである。こう書くと、単純なビジネスモデルに聞こえるが、なかなかどうして他社には真似ができない。なぜ逆風下でも安定的な利益を出しているのか。なぜ競合他社に真似ができないのか。ゴールドマン・サックス証券に在籍中、伝説のプライベートバンカーとしてならした水永政志社長に話を聞いた。
(聞き手は、日経ビジネス オンライン記者 篠原匡)
水永 政志(みずなが まさし)
1964年生まれ。東京大学在学中に、コンピューターソフトウェア会社を設立。卒業後、三井物産に入社。UCLA経営大学院への海外留学を経て、ボストン・コンサルティング・グループに入社。その後、ゴールドマン・サックス証券に移籍。プライベート・ウェルス・マネジメント部長として、上場企業のオーナーなど、個人資産家を対象とした資産運用を統括した。2001年、スター・マイカを設立
(写真:村田和聡、以下同)
――経営破綻や営業赤字に転落する不動産企業が相次いでいる今、黒字基調を維持しているスター・マイカの堅実性は際だっています。既に入居者がいて賃貸されている中古マンションをオーナーチェンジで取得し、賃料収入を得る一方、退居後は個人に販売していく――という独自のビジネスモデルはどのようにして生まれたのでしょうか。
水永 私は証券会社の出身ですが、金融商品などの流動性を上げるためには、売り手と買い手の双方の希望する価格を提示することが非常に有効、と教えられてきました。有価証券や為替のマーケットメイクを見ればわかるように、「いくらなら売る」「いくらなら買う」と気配を出すことによって、値段がつきやすくなるわけですね。ところが、不動産は正反対のマーケットでした。
不動産を売却したことがある方ならご存じでしょうが、不動産は有価証券とは違って、売りたい時にすぐに売れるとは限りません。特に、賃貸中のマンションは流動性に問題があるため、売却したとしても価格が低くなってしまう。こうした流通しにくい物をちゃんと流通させる、つまり売りたい相手から不動産を買うことがビジネスになるのではないか。そう思ったことがそもそものきっかけでした。
――それから今のビジネスモデルに発展したわけですか。
水永 先ほども申し上げたように、賃貸中のマンションは価格が安いので安く買うことができる。従って、入居者のいる中古マンションを割安に購入し、しばらく保有しておき、空室になったら普通に売る、と。賃貸中のマンションは流動性が低いので、こうしたビジネスとして成り立つわけですね。
――入居者のいる中古マンションと通常の中古マンションの価格差に注目したわけですね。
水永 もっとも、普通の不動産業者の発想であれば、マンション価格を上げるために、すぐに入居者を追い出すでしょう。ただ、我々は不動産屋ではなく金融屋なので、人を追い出すということをしなかった。それが、従来の不動産業界で見ると、新しくもあり、まどろっこしくもあったのでしょう。
現在、スター・マイカはバランスシートで約1000戸のマンションを保有しています。我々の取得するのは2000万〜3000万円の中古マンション。それを、年間に500戸の物件を購入し、400〜500戸の物件を売却している。それで、1000戸が維持されている感じでしょうか。年間に不動産を1000回取引している会社はそうそうありませんよ。
――取得したマンションはどのくらい保有するのでしょうか。
水永 だいたい1年半から2年の間。このビジネスはすぐには儲かるものではありません。ゆっくり儲かるタイプのビジネスですね。
――リターンはどのくらいですか。
水永 賃料収入は7〜9%ほど。賃貸が終わり、空室物件として売却する時のキャピタルゲインは昨年の結果で12%でした。物件を購入する時は、賃料収入で7〜9%、キャピタルゲインでは10%のリターンが上がるように値段をつけていますね。
――短期で転売するよりも、リターンが高くないですか。
水永 そうですね。2年間、8%の賃貸収入を得ていたと仮定すると、「8%」「8%」「12%」の28%ですか。2年で28%儲かるというのはなかなかいいのではないでしょうか。
この数年、ビルを購入し、短期で転がすという商売がはやりましたよね。あの人たちは、普通に儲けても1割から2割の間だったんですよ。すぐに転売して1割も儲かるのならいいじゃないか、という意見もあるでしょうけど、あの手のビジネスは繰り返すのが大変。儲かる時は儲かるけど、再現性がないんですよ。
――「再現性」とは。
水永 何万回、繰り返しで同じことができるかどうか。「買って転売するというのはビジネスモデルたり得ない」というのが我々の考え。ビジネスモデルというのは、何回やっても同じように再現できるからビジネスモデルですね。
ユニクロは安く洋服を作って、それを980円とかで売って利益を出しているでしょう。彼らは同じことを何百万回も再現しているわけです。それに対して、ビルを10億円で買って20億円で転売するというのは、たまたま儲かるんだけど、同じことを100回続けることはできない。不動産に同じものはないし、損して買うこともあるしね。
先ほど、従来の不動産業者と違って人を追い出さないという話をしました。それも、追い出して転売するという行為がビジネスモデルたり得ないと考えたため。入居者のいる物件を安く買って、賃料収入で楽しんで、空いたら市場価格で売却する――。これなら、何回でも再現できるでしょう。
水永 資産価値が上がっている時に儲かる仕組みがビジネスモデルではないからね。どんな経済環境で儲かるからビジネスモデルなんでね。右肩上がりで儲けたものは相場で儲かったということ。私は、ビジネスモデルとは再現性だと思っています。
――不動産業界は厳しい状況に置かれていますが、中古マンションの動きはいいんですか。
水永 極めていいですね。6000万円の新築を買おうと考えていたけど我慢していた人が、バブルが崩壊した結果、2000万円、3000万円の中古を買いに来ている。新築の供給戸数は減少していますが、中古の流通量は変わっていませんね。
――「同じ転売を100回続けることはできない」という話がありましたが、不動産には同じものが1つとしてない以上、スター・マイカの「取得→保有→売却」も同じ取引はありえない。ビジネスの再現性を維持するために、皆さんはどのような工夫をしているのでしょうか。
水永 我々のアドバンテージは価格支配力。中古マンションに対する値付けの力ですね。スター・マイカがつけた価格が世の中の価格になり始めているんですよ。
今、中古マンションを売る時、スター・マイカに値段を聞くというのは仲介会社のかなりスタンダードな行為になりつつある。仲介会社も一応、スター・マイカに聞いてみないと、それよりも安い人に売ってしまうリスクがありますからね。我々は「いくらなら買う」「いくらなら売る」と価格を提示しますからね。
――値付けの力はどのように培っているのですか。
水永 先に行っておくと、いわゆる目利きのようなものは一切、排除しています。
――職人的な要素は一切なし?
水永 そうです。日経ビジネス的には目利きや経験などの要素が好きなんでしょうけど、うちは目利きとか、職人とか、不動産屋の独特の才能とか、勘とか、長年の経験とか・・・、特に長年の経験はまったくいらない。すべてデータ。データで語らないのだったらやめてくださいという感じ(笑)。使っているのは中古物件の実売買事例や周辺の需要と供給、新築の供給なども参考になりますし、様々ですね。
――そういうのって、仲介会社やデベロッパーでも普通に手に入りますよね。何が違うのでしょう。
水永 我々はそういったデータを過去のものからデータベース化しているので、素早くデータを解析することができます。たとえば、ある不動産会社が東京・代々木の中古マンションを買おうとしますよね。現在の中古の売り物とか、今のマーケット情勢はよく分かりますが、3年前にどういう状況だったかはわからない。
ところが、8年前からこのビジネスを手がけているスター・マイカには様々なデータがある。3年前の付近の写真や周辺の競合状況もさることながら、実際の物件のエントランスの写真、中に怖い団体がいないか、風俗店がないかなど、過去のスナップショットがあるんですね。こうしたデータが首都圏に5万件ほどあるんですよ。
――そのデータベースを使って、「いくらなら買う」「いくらなら売る」という理論価格を出すわけですか。
水永 理論価格は2時間以内に出します。うちは「いくらなら買える」という価格をどんな問い合わせに対しても返すんですね。「ドルを買いたい」という人に対して、「96円なら売る」とトレーダーが返すのと同じように、きたお客さんに必ず値段をつけてあげる。もちろん、私たちが買いたくないものは安くなりますね。
――そのデータベースもさることながら、年1000回の不動産取引をシステマチックに行う体制もスター・マイカの強みですね。
水永 不動産取引の手間は、恐らくマンションであってもビルであってもそんなには大差ないですね。要するに、100億円のビル取引も1000万円のマンション取引も書類手続きは変わらない。実際、ペーパーワークの量はすさまじいし、キャッシュのハンドリングも難しい。
ペーパーワークだけでどのくらいあるのかな・・・。契約書、重要事項説明、不動産登記。あとオーナーチェンジで買うことが多いので、賃借人との承継の書類もあるし、マンション管理組合との関係の書類などもありますね。とにかく書類関係は多いですよ。
――「キャッシュのハンドリング」というのは?
水永 金融は決済の仕方が決まっていて、リスクがないために後払いですよね。どんな人でも株を買うと4日後に支払えばいい。いわゆる「T+3」。トレードした日に3日を足した日、4日目にお金を払えばいいわけですね。ところが、不動産はお互いを信用していないので、キャッシュ・オン・デリバリーになっている。
目の前に権利書や印鑑証明などの必要書類をすべて並べて、カネを並べて、司法書士が「よござんすね。じゃあ、取り替えますよ」と言って、カネと書類を交換する。不動産は最初にキャッシュ。目の前で取り替えないと信用しない。そうすると、精算という細かいお金が発生するんですね。
――たとえば・・・。
水永 固定資産税の精算がありますね。1月1日からその日までの固定資産税は旧所有者、その日から12月31日までは新しい所有者が負担しますよね。ただ、前の人が全部払っちゃっていれば、残りを売買代金に乗せて返さなければならないし、入居者の家賃を1カ月分、もらっていれば、日割りをこっちが返してもらわなければいけません。
ほかにも、司法書士の手数料、登記代、登録免許税、印紙代・・・。とにかく細かいカネが双方向に行く。10を超えるお金をやったり取ったり、それも当事者間だけでなく、司法書士や仲介会社、銀行などの間でするわけですよ。
――膨大な手間ですね。
水永 昔はすべて手作業でやっていましたが、いまはシステム化しています。ある物件を購入するという話になると、「その価格で本当に買っていいか」という社内承認プロセスから始まって、契約書の作成、契約書のチェック、それに伴って、先ほどの10種類以上のカネのやりとりを入力し、第三者が承認し、財務がカネを用意し、契約日当日に担当者に渡す――というすべてのプロセスがシステム化されています。必要な領収書も自動で出てきますしね。
――思いつけば誰もがやってみたいと思うビジネスなんでしょうけど、なかなか競合他社ができないのは、このあたりの手間を効率化できないからなのでしょうね。
水永 そうですね。この数年のバブルの時、私はほとんどの不動産屋さんにこう言われました。「水永君、入居者のいるマンションが割安なのは不動産業界では常識だよ。でもね、年1000回取引して、1回に200万円しか儲からないような細々したビジネスはやめようよ」と。結構、笑われましたからね。
――馬鹿にされたということですか。
水永 そう、馬鹿にしているんですね。水永君、銀座でビルを買って30億円でしょう、と。ちょこちょこっとペンキを塗って、明日売ると40億円なのよ。水永君の会社の1年分を、僕だったら1日でやっちゃうんだよ、と。面倒くさいことをやって、馬鹿みたいだね。まあ、こんな感じです。
――「労多くして功少なし」ということですか。
水永 そうそう。「君ら、ようやるわ」と言われていたわけですが、バブルが崩壊してみると、みながスター・マイカのビジネスモデルに注目し始めた。
――ゴールドマン・サックス時代、水永さんは名うてのプライベートバンカーとして知られていました。「月の給料を月給袋の数で数えていた」という逸話も残っているほど。それだけの大金を得ていた水永さんがなぜ、年1000回取引するような、細かいビジネスをしているのでしょうか。
※編集部注
水永社長が在籍していた当時、ゴールドマン・サックスの給料表は999万9999円までしか印字できなかった。そのため、数千万円の月収を稼いでいた水永社長には月給袋が毎月、何枚もきた。1枚が約1000万円であることから、封を切ることなく月の給料を「一枚、二枚」と数えていた。
(2004年9月13日号日経ビジネス参照)
水永 私はゴールドマン・サックスを退職した後、ある不動産ベンチャーを設立しました。その時は今とは違って、数十億円から100億円の大きなビルを売買することを目的にしていたんですね。私、金融取引だったらゴールドマンで何百億円というお金を動かしていたから慣れているんですけど、不動産の100億円は株や債券の数百億円とは違う。私の感覚では、とても怖いんですね。
――怖いのは金融商品も不動産も同じだと思うんですが・・・。
水永 いや全然違う。要するに、スペックが決まっていて、流動性のある有価証券だったら、何か失敗してもすぐに対応が打てる。損切りすれば、ロスも確定できますよね。ところが、大型ビルで100億円を間違えて取得したらどうなると思いますか。「あっ間違った」と思っても、流動性が低いためにすぐには売れないし、何十億円損するかわからない。
しかも、ゴールドマン時代とは違って自分のお金じゃないですか。ベンチャー企業創業者として、自分のカネを元手に何十億円、何百億円と動かす。恐らく、転売すれば20%、10億円ぐらいはすぐに儲かるでしょう。でも、リスクもやっぱり大きい。前の会社の時は、夜も寝られない日がありましたよ。
私はスター・マイカを上場させるまで数十億円の個人保証がありました。失敗した時、最後に責任を取るのは自分です。そう考えると、絶対に損をしたくなかった。コツコツ、細くてもいいから絶対に損をしない方に傾いていったんですね。
――金融業界出身の水永さんならではの感じ方ですね。不動産業界にずっぽりはまっている人は、そんなこと考えませんよ、きっと。
水永 それと、収益の出る理由がきちんと納得できて、何回も何回も再現できることをやりたかった。金融業界でよく言うんですが、同じリターンを上げたとしても、そのリターンにはクオリティの差がある。例えば、「平均10%のリターン」と言っても、「9%、11%、9%、11%」とリターンを出して平均10%と言うのと、「5%、30%、3%、2%」と来た平均10%では、当然前者の方が利益の質が高い。うちの利益が10億円としても、アゲンストの中で続けている安定的な10億円の方が価値がある、という信念が私にはあるんですね。
――もともと慎重な方でしたよね。
水永 ええ、かなり(笑)。ゴールドマンの時も、プライベートバンカーとして人のお金を預かっていたのでかなり慎重に運用していました。普通、証券マンはお客さんに株を勧めるものですが、私は債券中心で、株はほとんど勧めませんでした。理由はお客さんが損をしにくいからですね。お客さんに債券を勧める証券マンなんてほとんどいませんからね。あの頃からだいたい勇気がなかった。
――そして、自分のカネでビジネスをやるようになり、なおさら慎重になった、と。
水永 そう、なおさら慎重になっちゃいました(笑)。
――昨年来、不動産業界には猛烈な逆風が吹いていますが、この時代になると、1000万円、2000万円のマンションをコツコツ売買する方が強いですね。
水永 強いですね。でも、我々は1年前も、2年前も、3年前もやっていることは同じなんですよ。周囲がバブルでわあっと儲かって、わあっと損をしていった。その中で、スター・マイカはステディに変わらないことをしていただけ。
――この数年、バブルの誘惑を感じたことはなかったのですか。
水永 そりゃ、ありましたよ。やっぱり、1億円、2億円というような、見栄えのいい中古マンションを買うという誘惑は正直なところありました。私でも、「少しくらいやってもいいかな」と思ったんですよ。それで、少し投資してしまいました。
結果的に、儲かった案件もありましたが、損をした物件もありました。たいした数をやらなかったためにトータルの利益には問題がありませんでしたが・・・。
――結果として、わずかな案件で収まったのはなぜでしょう。
水永 ほかの経営陣が慎重論を唱えたから。私を含めて4人の取締役がいますが、ほかの3人は私以上に慎重派だからね。取締役会でも、私の提案は半分以上、却下されている。社内に賢い人たちがいて本当に助かりました。
――他の誘惑は?
水永 中国投資の誘惑も大きかったですよ。「買わなくてもいいから、上海や北京に一緒に物件を見に行こう」といくつもの上場会社の社長から何回も誘われました。私は嫌な予感がしていたので、断り続けたんですよ。そうしたら、詰め方が結構厳しかった。
――「何でこないのか」と。
水永 「誰も買えとはいっていないじゃないか。普通のルートでは買えないんだよ。そのルートを紹介して上げるから、見に行って判断すればいいじゃないか。行くだけ行こう。見るだけ見よう」と何度も誘われました。挙げ句、「これだけ、みなが中国で大儲けしているのに、行かないのは社長としてどうなんだ」と最後は極悪人のような言われ方でしたね。
――何で踏みとどまったんですか。
水永 行くと、絶対にほしくなるんですよ。「みんなが儲かった」という話を朝から晩まで聞かされて、最後は中国政府の高官を紹介されて、「この高官の紹介でお前に売ってやる。手付けを1000万円置いていけ」という話になるんですよ。
でもね、日本人が海外の不動産を買って儲かるというのはおかしい。現地の人の方が圧倒的に情報を持つ不動産ではそんな話はあり得ない。それに、再現性もない。ビジネスモデルということには絶対にならない。本当に行かないでよかった。行っていたら、恐らく社内を説得して回ったと思う。
結論を言うと、どんなに慎重な人間でも誘惑に勝つというのは無理ですね。誘惑に勝つような仕組みを作ることが一番大切でしょう。私1人が物事を決めて、誰も文句を言わないというワンマン体制だったら、私が誘惑に負けた瞬間に終わり。それが、本当の意味でコーポレートガバナンスだと思います。
――最後に聞きますが、基本的にスター・マイカが買う中古マンションは2000万〜3000万円の物件が中心ですね。なぜこういった低価格のマンションを扱うのでしょうか。
水永 その価格帯がコモディティ、流通する一番のボリュームゾーンなんですよ。多くのシェフはカッコをつけてフレンチレストランを開きたがりますが、フレンチレストランで儲けるのは難しい。だけど、儲かっているのはマクドナルドであり、CoCo壱番なんですよ。高級ブランドの洋服はあまり儲からないけど、ユニクロは儲かるでしょう。要はコモディティが一番、儲かるんですよ。
水永 それは、不動産でも同じです。2000万円前後のマンションは年収500万円ほどの人々が買うわけですけど、ここが一番世の中の人口が多いわけですね。ですから、商売をするなら自分たちが住みたいと憧れるかっこいいマンションではなく、3億円のマンションを造って、デザイナーを入れて、見て眺めて、嬉しいというマンションではなく、何回でも売買される中古マンションがいいと考えたわけです。
それと、新築マンションの供給戸数は多い年でも全国で約20万戸。その中に、デベロッパーは100社以上もあるわけです。それに対して、中古マンション市場は約530万戸ある。そのうち、上場企業で中古マンションを主に手がけている企業は2〜3社しかない。どっちが競争が楽なんだ、と。
――競争環境がまるで違いますね。
水永 中古は地味だし、こまいよね。新築に比べれば、やっぱり色あせているんですよ。だから、みんなバカにするんですよ。でも、かっこいいことをやるのはダメだ、という想いがあるんでね。これからも地味な中古で行きますよ。